バーンアウトとレジリエンス
コロナ禍が始まり約2年が経過しました。リモートワークも多くの企業で浸透してきました。その結果、通勤の満員電車から解放される一方、常時つながりっぱなしでオンとオフの切り替えが難しく、休む暇がないビジネスパーソンが増えています。また、コミュニケーションの機会が減り孤立感を抱き将来への不安を感じ、ストレスに悩みバーンアウトしてしまう人も増えています。このような状況を放置しておくと、エンゲージメントが低下し離職率が高まってしまう恐れがあります。本コラムでは、ビジネスパーソンが知っておきたいレジリエンスについてご紹介します。
バーンアウトとは
バーンアウトは、使命感に溢れた人が使命感を失った時に陥り、仕事への不適応状態です。いわゆる「燃え尽き症候群」です。神経質な人や若い人、タイプA(競争心が強く敵意や攻撃性がある、せっかちで時間的余裕がない)の人はバーンアウトしやすい傾向があると言われています。コロナ禍のような未経験の状態では誰しも思い通りに物事を進めていくことを難しく感じるものです。通常では使わないような神経の使い方をして、精神的な疲弊感が蓄積していきます。
バーンアウトの定義
バーンアウトは、2019年にWHOの国際疾病分類で定義されました。
「職場における慢性的なストレスが適切に対処されずにいる結果として起きる諸症状」
バーンアウトは職場で起こると明記されていることは注目に値するでしょう。バーンアウトは個人的な資質だけではなく、組織と社員の関係性がバーンアウトに影響を及ぼすと考えられます。パワハラ、失敗を許さない、厳しいノルマなどの企業風土はバーンアウトを助長する一因となります。これらは、離職率やエンゲージメントに影響を及ぼす要因でもあります。
離職率が高まったり、エンゲージメントスコアが低下している場合は、潜在的なバーンアウトの社員が増えている兆候かもしれません。人事担当者やチームマネージャーがこれらの指標の変化に気づくことは、バーンアウトを予防する上で大切なことです。また、心理的安全性のある組織作りがエンゲージメントを高め社員のバーンアウトを防ぎ、チームのレジリエンスを高めます。
バーンアウトへのプロセス
「情緒的消耗感」「脱人格化」「個人的達成感の欠如」というプロセスを経てバーンアウトに陥ってしまうと考えられています。
情緒的消耗感
心のゆとりが乏しくなり、使命感を失い仕事に対するやる気が減退してしまうことがあります。自己批判や自己否定が始まり自己肯定感を喪失してしまうこともあります。
脱人格化
普段は人のせいにしない人が他人を責めたり、愚痴を言わない人が愚痴を言い始めたり、その人らしくない言動が始まることがあります。
個人的達成感の欠如
何をやってもうまくいかないように感じ、成果が上がらず達成感が得られなくなり、バーンアウトに陥っていきます。
バーンアウトの兆候と予防法
今まで優秀だった社員の就業態度の変化や今まで良好だったコミュニケーションの変化は、バーンアウトの兆候かもしれません。これらの変化に人事担当者やチームマネージャーが気づくことが、バーンアウトを予防することにつながります。また、役割が曖昧だとバーンアウトは起きやすくなると言われることから、役割を明確にし社員が使命感を持って仕事に取り組めるようなコミュニケーションが大切です。
レジリエンスとは
アメリカ心理学会では、レジリエンスを「逆境、トラウマ、悲劇、脅威、極度のストレスに直面する中で適応していくプロセス」と定義しています。ビジネスにおけるレジリエンスは、以下の通りです。
困難を乗り越える心の回復力、複雑な変化に適応する力
レジリエンスを高めるためには、心理的柔軟性を高めることが有効です。心理的柔軟性は以下の3つから成り立ちます。
- コントロールできないこと(出来事と感情)を受け入れる
- コントロールできること(思考と行動)に取り組む
- コントロールできることとできないことを見分ける
コントロールできないこととは、起こってしまった出来事と心の中に現れる感情です。コントロールできることは、思考と行動です。コントロールできないこととできることを見分けるのがマインドフルネスの知恵です。
感情を受け入れる
感情は私たちの信念や過去の習慣から形成されるマインドセットなど心の癖を通じて自然と現れてくるものです。コロナ禍においては、焦燥感、孤独感、無力感などのネガティブな感情を経験します。これらを無理にコントロールしようとしても空回りして無駄にエネルギーを消耗する結果となります。レジリエンスを高めるために、ネガティブな感情に対してできることは受け入れることです。
思考と距離をとる
思考も感情同様、比較的自然と現れてくるものですが、思考は脳を鍛えることでコントロールが可能です。脳には習慣や過去のパターンで物事を見ようとする癖があります。コロナ禍になり、コロナ以前の状況を前提に物事を捉えようとするとネガティブな思考が現れたり、思考停止してしまうことがあります。視野が狭くなり、物事を決めつけたり、一方的、固定的に判断をしてしまうことがあります。レジリエンスを高めるためには自己認識を深め、自分の脳の癖や反応パターンを知り思考と距離をとることが大切です。
効果的な行動をとる
行動もコントロールが可能です。変化に適応し効果的な行動を取るためには、視点を増やすことが大切です。習慣的、固定的な視点から離れ、異なる視点から物事を観察し、視点を増やすことでレジリエンスを発揮するための足がかりが生まれます。視点を増やすためには、価値観や目的とつながることと楽観性を培うことが有効です。視点を増やすことができれば選択肢が増え、より賢く効果的な行動が取れる余地が生まれます。
まとめ
コロナ禍のような状況においては、人事担当者やチームマネージャーは、バーンアウトの兆候にいち早く気づくことが大切です。社員やコミュニケーションの変化に気づくことや離職率やエンゲージメントスコアの傾向に注視することがそのアプローチとなります。レジリエンスを高めるためには、個人でできることと組織でできることがあるということを知ることが大切です。
個人でできること
個人ができることとしては、心理的柔軟性を高めることです。そのためには、マインドフルネスの実践や解像度の高い自己認識、自分への優しさを育むことが大切です。変化の激しい状況においては、様々な感情を経験したり、ネガティブな思考に陥ることがあります。感情を受け入れ、思考と距離をとり楽観性を培うことがレジリエンスを高めます。また自分に必要以上に厳しく接している場合は自分への優しさを育むことで、逆境を乗り越える心のエネルギーが生まれレジリエンスが高まります。
組織でできること
レジリエンスを高めるために組織ができることとしては、透明性のあるコミュニケーションや心理的安全性を高めることです。個人の価値観を踏まえて役割を明確にすることは、個人の内発的動機付けを高めレジリエンスを高めます。人事担当者やチームマネージャーはチームの目的やビジョンを明確にすることと同時に個人の価値観とそれらが整合するようコミュニケーションをとることが大切です。また、心理的安全性を高めるためにはチームマネージャーが自らの心理的柔軟性を高め、仕事をリフレーミングし、自分も間違えることを認め、好奇心を持つことが大切です。
コロナ禍において適切な対策を講じて、個人と組織のレジリエンスを高めバーンアウトを予防することができれば、エンゲージメントが高まり離職率を抑えることが可能となります。