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心理的安全性

心理的安全性を高める心理的柔軟性 〜関係性の質を高める〜

前回のコラムでは、心理的安全性を高める3つの要素を取り上げました。「仕事をリフレーミングする」「自分も間違えることを認める」「好奇心を持つ」、この3つに共通するのは、マインドフルネスとエモーショナル・インテリジェンスを活用したアプローチが有効であるということです。本コラムでは、心理的安全性を高めるために、マネージャーが身につけたい心のスキルとして、マインドフルネスの観点から「心理的柔軟性」という心のスキルについて取り上げます。まずは、コラムを読み進める前に、次の質問について考えてみてください。

  • 上司の何気ない一言で仕事のやる気が低下したことはありますか?
  • 同僚や部下への何気ない一言でコミュニケーションがギクシャクしたことはありますか?
  • 仕事をリフレーミングできず、既存のやり方や成功体験に固執してしまったことはありますか?
  • 自分の間違いを認めることができず、仕事に対する姿勢や相手に対する態度を改めることができなかったことがありますか?
  • ブレストにも関わらず、好奇心を持たないで、ただ善悪、正否、成否を判断しながら会議を進行したことはありますか?
  • 普段、あなたは自分の言動が周囲にどのように受け取られ、どのような影響を与えているかに自分自身で気づいてますか?

いかがでしょうか。思い当たる節がある場合は、胸が締め付けられたり、呼吸が浅くなったり、汗ばむ感じなど、何らかの身体反応があるかもしれません。その身体反応はあなたに何を訴えかけているでしょうか。自分自身の言動とその影響に気づくことができるようになるためには心理的柔軟性を高める必要があります。

心理的柔軟性とは

心理的柔軟性とは、「開かれた心で今この瞬間起こっていることに気づき、集中力をもって状況に対応し(①)、自分の価値に沿った効果的な行動をする能力(②)」のことです。心理的柔軟性が高まるほど、自分の思考や感情により上手に対処できるようになり、コミュニケーションが円滑になったり仕事で成果を上げたり、人生を豊かで意味あるものしていくことができるようになります。

マインドフルネスは、意図的に今この瞬間起こっていることに対して注意を向け、心を開いて気づくことです。そして思考に囚われず、感情に衝動的に反応せず、現実をありのままに受け入れていくことです。つまり、マインドフルネスの実践により心理的柔軟性の上記①の部分を高めることが可能です。またマインドフルネスの実践に加えて、自分が価値を置くものを明確にし、その価値によって動機付けられた行動を取ることが心理的柔軟性の上記②の部分を育んでいきます。

心理的柔軟性が求められる理由

心理的安全性が低い組織には、様々な不安があります。

  • 評価が下がるかもしれない。
  • 怒られるかもしれない。
  • 馬鹿にされるかもしれない。

このような不安はどこから湧いてくるのでしょうか。多くは日頃のコミュニケーションから上司や同僚の反応を予測することで様々な不安が心を過ります。私たちは「このような発言をしたらこんなリアクションが返ってくるだろうなあ」と予測します。例えば、多くの人が以下のような会話を経験したことがあるのではないでしょうか。

  • 部下が新しいアイデアを提案してきたときに、上司が「それ意味あるの?」と応える
  • 部下の話している途中で上司が質問攻めにする
  • 部下が相談してきたときに、上司が「今忙しいから」と一方的に会話を終了する

上司はあまり意識していないかもしれませんが、部下の心ではこの会話のシーンが何度も繰り返されることになります。そうすると、冒頭の「かもしれない」=不安が部下の心を覆い、部下の行動にネガティブな影響を与えることは容易に想像がつきます。これらのケースでは、まず上司が心理的柔軟性を高めることで、より建設的な人間関係を築く余地が生まれていきます。上司は、部下とマインドフルな姿勢で会話をすることで、会話の返事の仕方に変化が現れコミュニケーションの質が改善され、関係性の質に変化がもたらされます。

あなたが上司なら

このような反応をしてしまう背景には、上司の性格や上司の労働環境が影響を与えているかもしれません。自分の言動がどのような影響を与えるかに注意を向けられない上司は、何気ない一言で部下のやる気を下げたり、気持ちを傷つけたりすることがあります。また、自分が忙しいタイミングで、報告や相談を受けてしまうと、ぶっきらぼうに衝動的な反応をしてしまうことがあります。場合によってはハラスメントになってしまうこともあり得ます。

心理的柔軟性を高める1つの理由として、ハラスメントの予防という側面があります。どれだけ研修で法律の解釈や境界線、ケーススタディについて学んでも実際の現場で起こるコミュニケーションでどのような影響を与えているかに上司自らが気付けなければ、本質的なハラスメント予防策を講じたことにはならないでしょう。心理的柔軟性があるかないかで、コミュニケーションの質が変わります。ハラスメント予防のためにも上司は心理的柔軟性を高め、自分の一言がどんな影響を与えるかに注意を払いながらコミュニケーションを取る必要があります。

あなたが部下なら

上司の改善はイメージしやすいかもしれませんが、実はこれらのケースでは部下にも改善の余地があります。どういうことかというと、部下が心理的柔軟性を高めることで、会話の受け止め方に変化をもたらすことができます。本当は、上司は部下のアイデアに対して興味を持っているのに、超多忙で心に余裕がなくなって衝動的な反応をしてしまったのかもしれません。もしくは上手い表現方法や質問の仕方を知らないのかもしれません。

部下が心理的柔軟性を高め上司の立場に立って物事を考えることができると、会話の受け止め方が変わってきます。会話の受け止め方を変えることができれば、不必要に落ち込むことがなくなり業務パフォーマンスの低下を防ぐことができます。また、会話の後の心の状態に変化が現れ、上司と部下の関係性の質にも変化がもたらされます。

上司と部下では、心理的柔軟性を高めるポイントが異なります。心理的柔軟性を高めることで、上司はより自己認識を深め、部下は心の回復力=レジリエンスを高めていきます。両者が自身の心に向き合い、心理的柔軟性を高めることができれば、「かもしれない」の不安は取り除かれ、関係性も改善されていき、心理的安全性を高めていくことができます。

コミュニケーション以外の不安

不安はコミュニケーションに限ったものではありません。業務の内容に気を揉むこともあります。

  • 受注できないかもしれない。
  • プレゼンテーションでうまく喋れないかしれない。
  • 時間内に納品できないかもしれない。

このような「かもしれない」=不安は、私たちの心からしなやかさを奪っていきます。心のしなやかさが失われると、自己認識を歪め視野が狭まり、積極的な行動や冷静な判断ができなくなり、業務のパフォーマンスが低下してしまいます。不安は仕事に関わるものだけではありません。経済的な不安、健康の不安、親の介護や子供の教育、など人生には様々な不安がついてまわります。これらの不安が心のしなやかさを奪い、仕事のパフォーマンスに影響を及ぼしたことがある人は多いのではないでしょうか。

社員一人一人が心のしなやかさを培っていくことが健全な企業運営をしていく上で大切になってきます。また、ウェルビーングが注目される昨今、「仕事以外のことは考えずに集中して業務に励め」というマネジメント手法は、時代錯誤な考え方です。社員一人一人の感情や心身の状態に注意を払いながら、コミュニケーションを取って組織としての力を高めていく、心の経営が今後は必要になってきます。

心のしなやかさを取り戻す時に求められるのが心理的柔軟性です。心理的柔軟性は、組織の中にある「かもしれない」と個人の中にある「かもしれない」を取り除くための有効なアプローチとなります。では、どのように心理的柔軟性を高めることができるのでしょうか?

心理的柔軟性を高めるACT

心理的柔軟性を高めるためのアプローチとして、マインドフルネスを活用したACTという手法があります。ACTは、Acceptance Comittment Training(Therapy)の略で、行動心理学の科学研究に基づいたモデルです。元々は、心理療法として開発されましたが、その適用範囲は広く仕事のパフォーマンスを高めたりQOLやウェルビーングを高めるためにも有効な手法です。その鍵となるコンセプトは行動の「有効性」です。行動の有効性とは、自分の取る行動が自分の価値に即したものであるか、組織の目的に対してどれだけ役に立つか、ということです。

ACTでは、受容と行動を重視します。解決可能なことと解決不可能なことを見分け、解決不可能なことを受け入れ、解決可能なことに力を注ぎ有効な行動を起こすことを目指します。解決不可能なことを受け入れるとは、不快な思考や感情に抵抗することをやめ現実を認めることです。不快な思考や感情を好きになったり、耐えたりすることではありません。また、無防備に諦めたり支配されたりすることでもありません。

ACTがもたらすもの

ACTを実践できるようになると、現実に対して自分の心を完全に開き、今ここで起こっていることの現実を認めることができるようになり、より価値のあることに対して有効にエネルギーを活用することができるようになります。また、心の中で起こっている葛藤や抑圧を解き放ち、受け入れることができるようになり、抵抗したり、抑圧したり、否定したりして無駄にエネルギーを消耗しなくなります。心の中にしなやかさが生まれ、心理的柔軟性が育まれ、相手の立場に立って考えたり、新しい対応方法を思いつくことができるようになっていきます。ACTでは、心理的柔軟性を高めるために6つのアプローチを用意しています。次回以降のコラムでは、6つのアプローチについて学んでいきましょう。

6つのアプローチ
1.思考と距離を取る(脱フュージョン)
  • マインドフルネスをベースにしたアプローチ
  • 気づき、心を開き、集中した状態で状況に対応する
2.感情の居場所を作る(受容)
3.今この瞬間につながる
4.観察する自己につながる
5.価値を明確にし価値につながる
  • 認知をベースにしたアプローチ
  • 価値に基づき効果的に行動する
6.効果的な行動を起こす

 

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