心理的安全性を高めるためにマネージャーができる3つのこと(後編)
前回のコラムに続き、心理的安全性を高めるためにマネージャーができる3つのことについて考えていきます。本コラムでは、「自分も間違えることを認める」「好奇心を持つ」を取り上げます。
3つの要素
チーム内に心理的安全性を構築する上で、マネージャーの役割は非常に大きいです。TedTalkのエイミー・エドモンドソン教授の説明によれば、心理的安全性を構築するためにマネージャーができることとして、以下の3つの要素を挙げています。
- 仕事をリフレーミングする
- 自分も間違えることを認める
- 好奇心を持つ
自分も間違えることを認める
心理的安全性を高めるための2つ目の要素は、マネージャーが自分も間違えることを認めることです。あなたがマネージャーという役割を与えられているということは、過去に成功を収めたり、業績に対する貢献が認められた結果でしょう。ただ、貢献をして成功を収めてきたとしても、大方の人が過去に失敗を犯した経験があります。
もしも自分が完璧であり、自分は間違いを犯さず、全てを知っている、全知全能の存在であるという考えを持っているとしたら、チーム内に心理的安全性を構築することは難しいでしょう。なぜなら、全てを知り自分が完璧な存在だと思っている人に対して、対人関係のリスクをとってまで新しい情報を提供しようとする人はいません。マネージャーがこのような考え方を持っている場合には、報告や相談をしても「相手にしてもらえないかもしれない」「バカにされるかもしれない」という不安が生まれ、メンバーの間に報告や相談を控えるようなフレーミングが働いてしまいます。
謙虚さと学ぼうとする姿勢を示す
あなたは、権限を与えられ、結果を出すことにだけ集中してしまうために、無意識的にメンバーに威圧的な態度をとっていることはないでしょうか。自分にも知らないことがあるという謙虚さと学ぼうとする姿勢を示すことが心理的安全性を構築する上で大切になってきます。
VUCAの世界において、正解が分からない状況では、謙虚さを持つことは現実的な対応です。ここで言う、謙虚さとは、自分は全ての答えを持っているわけではなく、未来を見通すこともできないということを素直に認めることです。
マネージャーが謙虚さを持ってメンバーに接し、自分の過ちや欠点を認めることができる時、初めて、メンバーは心を開いて発言をするようになります。気さくで話しやすく、自分が完璧ではなくミスをする人間であることを認識し、他者から積極的に意見を求めるマネージャーは心理的安全性を高めていくことができます。つまり、自らを全知全能の存在から、謙虚で学習する存在へとリフレーミングしていくということです。
好奇心を持つ
心理的安全性を高めるための3つ目の要素は、好奇心を持つことです。好奇心を持つとは、他の人の発言に心から関心を寄せることです。好奇心を持って問いかけることは、メンバーの発言を引き出すことにつながります。実は、多くのマネージャーが、問いかけることを躊躇う傾向にあります。
ナイーブ・リアリズムと不安
問いかけることを躊躇う主な理由は主に2つで、1つは、ナイーブ・リアリズムがあること、もう1つは不安があることです。ナイーブ・リアリズムとは、自分は世界を正しく客観的に認識しているという認知バイアスがかかっていることです。ナイーブ・リアリズムの状態では、自分は「分かっている」と思ってしまいがちです。
過去の経験からのフレーミングで物事を捉えていると、主観に基づく現実を見ているにも関わらず、客観的に現実そのものを見ているものと勘違いしてしまいます。結果として、他の人がどのように現実を捉えているかということに思いを馳せることができず、自分の認識を基準にして物事を捉え、分かっている気になり問いかける必要性を感じることがないため、学ぶ姿勢が欠如し問いかけることをしません。
また、仮に問いかけようと思った時に、問いかけることで自分が無知あるいは無能だと思われるかもしれないという不安を拭えず、分かっているフリ、できるフリをしてしまい問いかけることを躊躇います。あなたは、「分かりません」「教えて欲しい」と素直にメンバーたちに言えるでしょうか。
謙虚であることと合わせて、マネージャー自らが弱さを見せられるかどうかが大事になってきます。マネージャーが心から好奇心を持って質問をすることができるようになると、心理的安全性が生まれます。そのような好奇心を持った質問には、相手を敬う気持ちが滲み出て、無能だと思われるよりも
むしろ思慮深く聡明だと思われます。
良い質問とは
好奇心を持った質問と言っても良し悪しがあります。良い質問をするためには、3つのポイントがあります。1つ目は、自分が答えを知らないことを自覚すること。2つ目は、YES・NOの二択の閉じた質問ではなくオープンな質問をすること。3つ目は、相手が集中して考えを話せるように尋ねることです。
質の良い質問をするには、状況に応じた相応しい問いかけをする技術が求められます。話題を広げたいのか、深めたいのかでも問いかけ方は変わってきます。選択肢を広げるためには、「私たちは何かを見落としていないだろうか」「ほかにどんなアイデアが考えられるだろうか」「誰か見解の違う人は」などがあります。理解を深めるためには、「なぜ、そのように考えるようになったのか」「具体例をあげてほしい」などがあります。このように尋ねると、互いの経験や目標について詳しく理解できるようになります。また、思慮深く尋ね、良い問いかけをすることができれば、考えを聞かせて欲しいことがメンバーに伝わり、その場に心理的安全性が芽生え、意見を言いやすい環境になります。
問いかけたら好奇心を持って聴く
良い質問をしたら、しっかり聴きましょう。しっかり聴くというのは、心を開いて相手に注意を向けて好奇心を持って、集中して相手の話を聴くということです。聴く姿勢を示せば、さらに心理的安全性を高めることができます。「この人は私の話を聞いてくれている」「この人になら何でも話せる」とメンバーが安心してコミュニケーションが取れるようになります。実は多くのマネージャーは聴くことができていません。会話はしていても、生返事だったり、認知バイアスを持って聞いていたり、話終わる前に会話を遮って次の質問をしてしまうことがあります。厄介なのはマネージャー自身が、「自分がしっかり聴けていない」ということに気づけていないことです。最近、多くの企業で1 on 1が取り入れられるようになりましたが、蓋を開けてみたら、8割の時間はマネージャーが話していたということがあります。これではせっかくの良い質問も台無しです。しっかり聴くための手法として、マインドフルリスニングという手法があります。
違反行動には厳しい対応
ここまで、心理的安全性を高めるためにマネージャーができる3つのことを見てきました。最後に、1つ付け加えておきます。これは、築いた心理的安全性を維持するために大切なことになります。それは何かというと、チームの方向性に反した行動をとった場合には、懲戒処分や厳しい対応を取ることです。
心理的安全性があることは安全だからといって「何をしてもお咎めなし」「自由気ままに自分勝手にやる」ということではありません。心理的安全性がある中にも、チームとして統一感をもたらすためには一定の秩序が必要です。厳しい対応を取ることは、チームが方針や価値観に対して本気であることを知らしめ、将来的な行動を方向づけます。メンバーからは公正な対応として受け止められ、チームとしてのまとまりが生まれていきます。
まとめ
今回のコラムでは、前回のコラムと合わせて、心理的安全性を高めるためにマネージャーができる3つのこと+1を取り上げました。マネージャーがこれらのことを実現するためには、今までのメンバーとのコミュニケーションの取り方を見直し、改める必要があるでしょう。場合によっては、今までやってきたことや言ってきたことを自ら否定する必要もあるかもしれません。
もしも、あなたが本気で心理的安全性をチーム内にもたらそうと考えているならば、自己否定も辞さず勇気を持って行動し、自分自身が変わることを厭わないことです。そして、ありのままでいる(オーセンティシティ)ことです。そうすれば、メンバーもマネージャーの覚悟を感じ取り、チーム内に心理的安全性の種が育っていくでしょう。
「仕事をリフレーミングする」「自分も間違えることを認める」「好奇心を持つ」、この3つに共通するのは、マインドフルネスとエモーショナル・インテリジェンスを活用したアプローチが有効であるということです。マインドフルネスの観点から、心理的柔軟性とマインドフルリスニングなど、エモーショナル・インテリジェンスの観点から、共感力と自己認識などのスキルが有効です。これらについては、また別のコラムでお伝えします。
コラム:心理的安全性シリーズ