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コラム

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心理的柔軟性

心理的柔軟性を高める6つのアプローチ 〜④ 観察する自己とつながる 〜

心理的柔軟性を高める6つのアプローチ、今回は、「4.観察する自己につながる」を取り上げます。「4.観察する自己につながる」ことは、「3. 今この瞬間に集中し完全につながる」と同様に、マインドフルネスの考え方の中心です。今までに取り上げた「1.思考と距離を取る(脱フュージョン)」「2. 感情の居場所を作る(受容)」にも関わってきます。

心理的柔軟性を高める6つのアプローチ

ACTを実践し心理的柔軟性が高まると、セルフマネジメントレジリエンスが高まります。現実に対して自分の心を完全に開き、今ここで起こっていることの現実を認めることができるようになり、より価値のあることに対して有効にエネルギーを活用することができるようになります。また、心の中で起こっている葛藤や抑圧を解き放ち、受け入れることができるようになり、無駄にエネルギーを消耗しなくなります。

ACTでは、心理的柔軟性を高めるために以下の6つのアプローチを用意しています。

  1. 思考と距離を取る(脱フュージョン)
  2. 感情の居場所を作る(受容)
  3. 今この瞬間につながる
  4. 観察する自己につながる
  5. 価値を明確にし価値につながる
  6. 効果的な行動を起こす

「観察する自己」とは

「観察する自己」は、善か悪か、正しいか間違っているかの判断を下しません。感情や思考、行動をただ観察するだけであり、あれこれ考えることをせず、物事をあるがままに見ます。感情や思考は常に変化し続けますが、観察する自己は変化せず常に存在します。頭の中で思考が働いているときや心の中で感情が渦巻いている時、「観察する自己」は思考や感情に覆い隠されてしまい、私たちはその存在のことを忘れてしまいます。「観察する自己」は、自己認識を深め、心理的柔軟性を育むためには、「観察する自己につながる」ことが大切です。

「観察する自己」と「思考する自己」

「観察する自己」とは、メタ認知力とも呼ばれ、自分の中の超越的な部分であり、困難な思考や感情を客観的に観察できる視点のことです。集中、注意、気づきなどを司り、「観察する自己とつながる」ことで自己認識を深めていきます。一方、「思考する自己」は、計画、判断、比較、創造、想像、視覚化、分析、記憶、空想などを担当し、「頭で考える」時の自分であり、認知的能力にあたります。

思考は、「思考する自己」から生まれます。「思考する自己」は、事実かどうかを重視することなく、過去の経験や関係性、環境などに応じて評価や判断を下し、役に立つ思考と役に立たない思考を生み出します。役に立たない思考とは、例えば以下のような思考です。(思考と距離を取る(脱フュージョン)

「あいつにはできないだろう」
「自分が正しくてあいつは間違っている」
「あの人は私の言うことを聞かない」
「あんな失敗をするなんて自分は本当に無能だ」
「こんな案件、自分には絶対無理だ」

「思考する自己」が役に立たない思考を生み出している時、現状を否定したり自分を批判したり、過剰に自分を正当化したりして、現実をありのままに見ることを難しくし、正解や幸福を自分の外に見出そうとします。

「観察する自己」は「思考する自己」とは根本的に違い、思考に注意を向け思考を観察することはできますが、思考を生み出すことはできません。「思考する自己」は、自分の経験についてあれこれ考えるのに対して、「観察する自己」は自分の経験したことをただ記録するだけです。

「観察する自己」は満月の美しさとつながる

例えば、夜空に浮かぶ満月を見て、その美しさにうっとりと見惚れる時、私たちは、ただその満月に注意を向けその美しさにつながり、しばらくの時間をその美しさと共に過ごします。この時には、「観察する自己」が満月に注意を向け、その満月を見ていることをただ記録していきます。しばらく経つと、「思考する自己」が現れ、あれこれ考え始めます。

「雲がかかったら満月が見れなくなってしまうな」
「夜なのに明るくて街灯もいらないな」
「そうだ、写真を撮ってSNSにアップしよう」

などと、満月とつながっていた「観察する自己」は影を潜め、「思考する自己」が活発になり、思考が頭の中をぐるぐると巡り始めます。

「観察する自己」は思考と距離を取ることを可能にする

「1. 思考と距離を取る(脱フュージョン)」で、私たちは思考と自分が一体化(フュージョン)してしまうと、「あいつにはできないだろう」「自分が正しくてあいつは間違っている」などと自分本位な判断を下し、思考と距離がうまく取れなくなる時があると紹介しました。「観察する自己につながる」ことで、脱フュージョンを可能にし、思考と距離を取ることができるようになり、心理的柔軟性が高まります。「観察する自己」は、自分の中で決して変わらない部分、ずっと存在し続け、決して傷つけられることのない部分です。それらは肉体的な存在ではなく「完全なる気づき」「純粋な気づき」と呼ばれるものです。

「観察する自己」は感情の居場所を作る

観察する自己は、「2. 感情の居場所を作る(受容)」ことも可能にします。仕事をしていれば、色々な感情が現れます。感情の中には、ポジティブなものもあればネガティブなものもあります。感情は、執着や苦痛を生み出すことで心のエネルギーを消耗し、心理的柔軟性を奪います。感情は心の作用で自然と生まれてくるものであり、感情を抑え込もうとしたり否定しとうとしたりするのは健全な対応ではありません。感情に抵抗するのではなく、感情の裏側に気づくことができれば、冷静に感情に対応することができてより好ましい行動を選択することができるようになります。

(イライラする気持ちの裏側)
「お客様に喜んでもらうために良いものを作ろうとしているのになんでこうもトラブルが続くのだ」
「お客様に喜んでもらうために納期を守ろうとしているのにどうして製造工程に遅れが出てるのだ」

イライラする気持ちの裏側には、より良いものに仕上げるための達成意欲や約束を守るための信頼性が含まれていることがあります。

(クヨクヨする気持ちの裏側)
「もっとできると思ってたのに、なんであんなケアレスミスをしてしまったのだろう」
「上司の期待に応えようと思っていたのにどう説明したら良いんだろう」

クヨクヨする気持ちの裏側には、自分への期待や自信、周囲からの期待に応えようとする献身性が含まれていることがあります。

観察する自己とつながることで、感情に対して過度に注目したり考えたりせず、評価や判断をせずに感情を観察し、「2. 感情の居場所を作る(受容)」ことができるようになります。感情を受け入れることで、私たちはその感情から解放され、エネルギーを無意味な葛藤に使うのではなく、感情に含まれる情報を読み取り、より効果的なコミュニケーションや意思決定に使うことができるようになります。

「観察する自己」は空

「観察する自己」は空のようなものです。空は見上げれば、いつもそこにあります。朝も夜も、晴れの日も雨の日も、空はそこにあります。昼間に青空だった空が、夜には真っ暗になっても輝く星を讃える空がそこにあることを私たちは知っています。雨の日に雲がかかり、青空が見えなくても、雲の向こうには空があることを私たちは知っています。空は常にそこにあります。私たちの思考や感情は、空に現れては消えていく雲のようなものです。眺めていれば、やがて雲が消えていくように、観察する自己につながることができれば、やがて思考や感情も静まっていきます。

空は、「これは良い雲だ、悪い雲だ」と雲を判断しません。同様に「観察する自己」も良い悪いと1つ1つの思考や感情に評価や判断を加えません。ただ、あるがままに観察し、抵抗せず受け入れます。抵抗が生まれるのは、私たちが物事の良し悪しや公平か否かの判断を下し、その判断と一体化(フュージョン)してしまう時です。「観察する自己」とつながることで、思考や感情、行動をただ観察し、評価や判断を下すことがなくなり、「思考と距離を取る」「感情の居場所を作る」ことが可能となります。

「観察する自己」につながるための実践法

では、いかに「観察する自己」につながっていけば良いのでしょうか。「観察する自己」につながるための実践法はいくつもあります。ここでは、五感を使って、周囲の状況や思考に気づく実践をしてみましょう。

  1. 10秒間、目を閉じて、聞こえてくる音に注意を向ける
  2. 再び、聞こえてくる音に注意を向けるが、すでにその音のことは分かっているので、今度は、音に注意を向けているということに注意を向ける
  3. 10秒間、目を開いて、見えるもののうち何か1つ(時計、キーボード、ベッドなど)に注意を向ける
  4. 再び、同じもの(時計、キーボード、ベッドなど)に注意を向けるが、すでにそのもののことは分かっているので、今度は、ものに注意を向けているということに注意を向ける
  5. 10秒間、目を閉じて、自分の思考に注意を向ける(1回目)
  6. 再び、思考に注意を向けるが、思考には気づいているので、今度は思考に注意を向けているということに注意を向ける
  7. 10秒間、目を閉じて、頭、腕、足など体に注意を向ける
  8. 再び、体に注意を向けるが、体のことには気づいているので、今度は体に注意を向けているということに注意を向ける
  9. 10秒間、目を閉じて、自分の思考に注意を向ける(2回目)
  10. 再び、思考に注意を向けるが、思考には気づいているので、今度は思考に注意を向けているということに注意を向ける
  11. 10秒間、目を閉じて、呼吸に注意を向ける
  12. 再び、呼吸に注意を向けるが、呼吸には気づいているので、今度は呼吸に注意を向けているということに注意を向ける
  13. 10秒間、目を閉じて、自分の思考に注意を向ける(3回目)
  14. 再び、思考に注意を向けるが、思考には気づいているので、今度は思考に注意を向けているということに注意を向ける
  15. 10秒間、目を閉じて、体に注意を向け、感覚や感情に気づく
  16. 再び、体に注意を向け、感覚や感情を観察し、観察しているということに注意を向ける
  17. 深呼吸を3回する
  18. 自分が今何に注意を向けているかに注意を向ける
  19. 10秒間、目を閉じて、自分の思考に注意を向ける(4回目)
  20. 再び、思考に注意を向けるが、思考には気づいているので、今度は思考に注意を向けているということに注意を向ける

これ以外にも集中瞑想や観察瞑想、ボディスキャンなどのマインドフルネスの実践により、「観察する自己とつながる」ことが可能となります。

まとめ

「観察する自己とつながる」ことで、役に立たない思考とは距離を取り、客観視することで、現実をありのままに見ることができるようになり、不快な感情には居場所を作り、その感情を読み取り自分の行動に結びつけていくことができるようになります。結果、思考と距離を取る(脱フュージョン)、感情の居場所を作る(受容)ことが可能となり、「仕事をリフレーミングする」「自分も間違えることを認める」ことがより柔軟に行うことができるようになり、心理的柔軟性が高まり心理的安全性につながっていきます。次回のコラムでは、「5. 価値を明確にし価値につながる」を取り上げます。

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