心理的柔軟性を高める6つのアプローチ 〜② 感情の居場所を作る〜
前回のコラムでは、ACTの6つの基本的な考え方と「思考と距離を取る」について紹介しました。本コラムでは、「感情の居場所を作る」を取り上げます。「感情の居場所を作る」もマインドフルネスを活用したアプローチになります。
心理的柔軟性を高める6つのアプローチ
ACTを実践し心理的柔軟性が高まると、セルフマネジメントやレジリエンスが高まります。現実に対して自分の心を完全に開き、今ここで起こっていることの現実を認めることができるようになり、より価値のあることに対して有効にエネルギーを活用することができるようになります。また、心の中で起こっている葛藤や抑圧を解き放ち、受け入れることができるようになり、無駄にエネルギーを消耗しなくなります。心の中にしなやかさが生まれ、心理的柔軟性が育まれ、相手の立場に立って考えたり、新しい対応方法を思いつくことができるようになっていきます。
ACTでは、心理的柔軟性を高めるために以下の6つのアプローチを用意しています。
- 思考と距離を取る(脱フュージョン)
- 感情の居場所を作る(受容)
- 今この瞬間につながる
- 観察する自己につながる
- 価値を明確にし価値につながる
- 効果的な行動を起こす
2. 感情の居場所を作る(受容)
「感情の居場所を作る」とは、不快な感情や感覚を抑圧したり避けたり否定したり、抵抗するのではなく、それらの存在に気づき認め、それらのために心と体の中に居場所を作ってあげることです。仕事をしていると様々な感情に晒されることになります。
例えば、
「明日のプレゼン上手くいくかな、緊張するな」
「上司が褒めてくれた、嬉しいな」
「あ〜、失敗してしまった、会社に行きたくないな」
「また、あのお客さんからクレームだ。いい加減にしてくれ」
ドキドキしたり、ワクワクしたり、クヨクヨしたり、イライラしたりします。
心理的柔軟性を奪う感情
感情は主観的な意識体験であり、人それぞれです。感情を持つことは至って自然なことで、それ自体良いことでも悪いことでもありません。ですが、職場では感情を抱くことや感情を表現することがあまり快く受け止められていません。強い感情を抱いて衝動的に行動をしてしまい、人間関係がギクシャクしたり、感情を無理矢理押さえ込んでストレスとなり身体的な不調につながったりするからだと考えられます。
強い感情に晒され適切に対処することができないでいると、心理的柔軟性は奪われ、私たちの視野は狭められ、様々な心の物語=役に立たない思考が作り出され、現実を歪めて認識してしまう恐れがあります。そのような状態で、コミュニケーションをしたり、意思決定をしても生産的な結果をもたらすことはありません。
コントロールできない感情
私たちは、子供の時、感情をコントロールできなければならないかのように育てられてきました。
「男の子はいつまでもメソメソしない」
「女の子はいつもニコニコする」
まるで、躾をする大人たちは問題なく感情をコントロールできてるかのように子供達を諭します。ところが実際は自分たちも感情の適切な対処方法が分からないまま大人になって、仕事をしていることが多くあります。にもかかわらず、会社では自分の感情は自分で対処することが求められます。旧態依然とした会社では、仕事に感情を持ち込むことをご法度にすることがあります。
「仕事中には白い歯を見せない」
「つべこべ言わず言われたことをさっさとやりなさい」
親族に不幸があったり、理不尽な業務命令を受けたりしても、感情を表に出さず平静を装って仕事に打ち込むことが求められます。感情は厄介者として扱われ、感情を抱いていることが悟られぬよう、感情を抱いても否定したり、抑圧したり、避けようとしたりします。
感情に含まれる情報を読み取る
もちろん、あまりにも感情の起伏が激しく、全てを全て感情のまま衝動的に行動することが良い訳ではありません。ただ、実は感情には重要な情報が含まれ、意思決定に影響を与えることを知っておくことは大切です。ですから感情を無視することは好ましくありません。むしろ仕事の質を低下させる要因となりえます。
例えば、
「お客様に喜んでもらうために良いものを作ろうとしているのになんでこうもトラブルが続くのだ」
「お客様に喜んでもらうために納期を守ろうとしているのにどうして製造工程に遅れが出てるのだ」
イライラする気持ちの裏側には、より良いものに仕上げるための達成意欲や約束を守るための信頼性が含まれていることがあります。
「もっとできると思ってたのに、なんであんなケアレスミスをしてしまったのだろう」
「上司の期待に応えようと思っていたのにどう説明したら良いんだろう」
クヨクヨする気持ちの裏側には、自分への期待や自信、周囲からの期待に応えようとする献身性が含まれていることがあります。
感情の裏側に気づく
仕事をしていれば、他にも色々な感情が現れます。その感情の裏側に気づくことができれば、自分の考え方を冷静に整理することができてより好ましい行動を選択することができるようになります。また、相手が抱いている感情とその裏側を察することができれば、発言内容や表現方法を工夫することができるようになり、より建設的なコミュニケーションに発展していきます。
「感情の居場所を作る」ことがその一助となります。感情を否定したり、抑圧したり、避けたりするのではなく、感情に気づき認めることが大切です。「感情の居場所を作る」とは、感情に対して過度に注目したり考えたりせず、評価や判断をせずに感情を観察し、感情が現れては消えていくままにすることです。感情が大きくなりすぎると、私たちは緊張しその感情に抵抗しその感情を体の中から外に追い出そうとすることがありますが、「感情の居場所を作る」はその正反対です。
感情の居場所を作る
心を開き、感情のための居場所を作ることで、プレッシャーを癒し、緊張を緩め、感情を解放して感情を受け入れることができるようになります。感情を受け入れることで、私たちはその感情から解放され、エネルギーを無意味な葛藤に使うのではなく、感情に含まれる情報を読み取り、より効果的なコミュニケーションや意思決定に使うことができるようになります。
「感情の居場所を作る」には、「気づく」「観察する」「受け入れる」などマインドフルネスで培う心のスキルが必要です。また、感情は生理的な反応を通じて身体にも影響を及ぼすことから身体感覚に気づくことも大切です。集中瞑想や観察瞑想、ボディスキャンなどのマインドフルネスの実践により、気づく力や観察する力、身体への気づきが育まれ「感情の居場所を作る」ことができるようになっていきます。「感情の居場所を作る」ことができるようになると、「思考と距離を取る」と同様、「仕事をリフレーミングする」「自分も間違えることを認める」ことがより柔軟に行うことができるようになり、心理的安全性につながっていきます。
まとめ
「1.思考と距離を取る」「2.感情に居場所を作る」には、「気づく」「観察する」「受け入れる」などいくつかの共通項目があります。役に立たない思考とは距離を取り、客観視することで、現実をありのままに見ることができるようになります。不快な感情には居場所を作り、その感情を読み取り自分の行動に結びつけていきます。「1.思考と距離を取る」「2.感情に居場所を作る」ができるようになると、「仕事をリフレーミングする」「自分も間違えることを認める」ことがより柔軟に行うことができるようになり、心理的安全性につながっていきます。次回のコラムでは、「3.今この瞬間につながる」「4.観察する自己につながる」を取り上げます。これらは、今回取り上げた「1.思考と距離を取る」「2.感情に居場所を作る」ために必要なことになります。