レジリエンスを高める3つのステップと6つの要素
どんなに志高く、目標に向かって仕事に取り組んでいても、うまくいかなくなることがあります。ミスが起きないように完璧にこなそうと思っていても、うまくいかなくなることがあります。志が高ければ高いほど、完璧であろうとすればするほど、うまくいかなくなるリスクは高まるとも言えるでしょう。使命感を持って取り組んでいても、うまくいかなくなれば、私たちの心は少なからずダメージを受けます。
「なぜうまくいかないのだろう」
「こんなに一生懸命に取り組んでいるのに」
「こんなことでは到底目標を達成することなんてできない」
このような気持ちになった時こそ、レジリエンスが試される時です。レジリエンスは、心がダメージを受けた時に速やかに回復していく、心の回復力です。または、大きな変化が現れたときに、その変化に速やかに適応していく心の適応力です。
病気になれば、私たちは体を休め体力の回復を図ります。体力の回復方法には、いろいろあります。睡眠を取ること、ファスティングして胃腸器官を休ませる事、お風呂や温泉に入る事、マッサージを受けること、回復期には、ストレッチやリハビリ、栄養のあるものを摂取すること、などなど。心も同様です。心の回復方法には主に3ステップあります。
心の回復3ステップ
- 内面の穏やかさ
- 情動的な回復力
- 認知的な回復力
内面の穏やかさ
内面の穏やかさは、心の回復力の基盤です。うまくいかなくなった時に、ネガティブな気持ちが心を覆ってしまっても、内面の穏やかさを取り戻すことができれば、そこを足がかりに心の回復への道が開けていきます。レジリエンスを高める3つのポイントでお伝えした「コントロールできることとコントロールできないことを見分ける」のも内面の穏やかさがあるかどうかに関わってきます。感情はコントロールできないことであり、思考はコントロールできることである、という認識のもと、自分が感情と思考にどのように向き合っているかということに自分自身で気づくためには、穏やかさを保つことが大切です。
内面の穏やかさを獲得するためには、「マインドフルネス」が有効なアプローチです。また、自分がネガティブな気持ちでいることや、穏やかでない状態であることに気づく「自己認識」を持つことも大切です。自己認識が深まると、自分の心の中にはどのような感情や思考が現れているかに、解像度高く気づくことができます。心の中を観察することで、その感情に対してどのように反応しているか、どのような思考を選択しようとしているかに気づくことができます。ネガティブな感情を抱いても構わないという、自分自身を認め、受け入れる自己受容感が高まり、ネガティブな感情に溺れてしまうことが少なくなります。また、自分の心の癖や思考の反応パターンに気づくことができるようになり、悲観から楽観へのシフトチェンジが可能となります。
情動的な回復力
情動的な回復力は、うまくいかなくなった時の体の変化に気づき情動を回復する力のことです。心の回復力にも関わらず、体の変化に気づくということに違和感を覚えるかもしれませんが、私たちの気持ちは情動として体に現れます。情動というのは、気持ちに起因する生理的反応です。ストレスのかかる状態で、汗をかいたり、心拍数が増減したり、呼吸のリズムが変化したり、という経験は誰しもあるかと思います。このような体の変化、生理的反応が情動のことであり、情動が起こることは自然なことです。情動によってもたらされた体の変化や生理的反応は、ホメオスタシス(体の恒常性)という機能が働き、必ず元の状態に戻っていきます。運動後の筋肉痛が元の状態に戻るのと同じように、情動は元の状態に戻ります。
情動が厄介なのは、その情動に伴い、嫌悪感や不愉快な気持ちを助長してしまうことです。情動は単なる生理的反応であり、それは必ず消えていくにもかかわらず、私たちはそのような状態に対して居心地の悪さを感じ、ネガティブな感情を生み出してしまいます。3つのポイントでお伝えしたとおり、ネガティブな感情が生まれるのは自然なことです。大切なのはネガティブな感情をコントロールできないことだと気づき、受け入れようとすることです。これを受け入れることができずに、放っておけば二次災害のようにそのネガティブな感情は心の中に広がっていく恐れもあります。情動的な回復力を高めることができれば、この二次災害とも言える、ネガティブな感情が広がることを防ぐことができます。情動的な回復力を高めるためには、体の状態に気づく「ボディスキャン」やネガティブな感情に気づく「自己認識」、そのような状態を受け入れる「自分への優しさ」を持つことが有効なアプローチになります。
認知的な回復力
認知的な回復力は、うまくいかなくなった時に楽観的に将来を考える力のことです。うまくいかなくなった時、悲観的に考えてしまうと認知的な回復が鈍くなりレジリエンスが弱まってしまいます。現実をどのように捉え、自分自身にどのように説明するかを「説明スタイル」と呼びます。挫折や失敗を前にしても「自分には力がある」という風に反応する人は説明スタイルが楽観的です。楽観的な人は、挫折や失敗は一時的なもの、特定な状況に限定され、努力と能力によっていずれ克服できると考えます。もしも「自分には手に負えない」という風に反応する人は説明スタイルが悲観的です。悲観的な人は、挫折や失敗の状況が長く続き、自分の人生全般に影響を与え、自分には必要な力がなく到底状況を改善することができないと考えます。
説明スタイルが楽観的か悲観的かは、私たちの行動に影響を与えます。楽観的な思考の人は、失望を味わったとしても次回にうまくやる方法を考え、状況を改善するよう対処します。悲観的な思考の人は、自分にはできることが何もないと考え絶望し諦めます。1点注意しなければならないのは、楽観の意味です。ここで言う楽観は、根拠に裏付けられた現実的な楽観であり、根拠のない楽観は状況を改善するどころか破滅を招きます。3つのポイントでお伝えしたとおり、思考はコントロール可能なものであり、現実的な楽観性は身につけることができます。
認知的な回復力を高めるためには、「楽観を育む認知的なトレーニング」で自分の説明スタイルに気づき、説明スタイルを悲観から楽観へとシフトチェンジすることが有効なアプローチとなります。また「利他的な目標」を描くことも有効なアプローチです。利他的な目標は、困難な状況で方向感を失いそうになる時に、自分がどこへ向かえば良いのかを明らかにする道標になると同時に、人との「つながり」を生み出すエネルギー源となります。利己的な目標ではなかなか協力者が現れないかもしれませんが、利他的な目標であれば協力者が現れ人とのつながりが生まれやすくなります。人との「つながり」が生まれると、挫折や失敗に直面したときに味わう孤立感を和らげ、極度な悲観に陥ることを防ぐことができます。相談できる家族や友達、会社の同僚など人との「つながり」によって、自分の考えを整理したり、別の角度から物事を捉えることができるようになり、認知的な回復力が高まります。困ったときに助けてくれる人がいると言う安心感は、「内面の穏やかさ」を深め、情動的、認知的回復力にとっても肯定的な影響を与え、レジリエンスの好循環を生み出していきます。
レジリエンスの要素
上記の3ステップは、以下の6つの要素から構成されています。これらの要素が相補的に関わり合いながら、レジリエンスを高めていくことが可能になります。
- マインドフルネス
- 自己認識
- 自分への優しさ(自己受容)
- 現実的な楽観性
- 利他的な目標
- つながり
マインドフルネス
- 好奇心と優しさを持って、今、この瞬間に注意を向ける
- 心、体、周囲で起こっていることに気づき、現実をありのままに見ることでコントロールできることとできないことを見分ける
- ネガティブな感情に気づき、受け入れる(自己受容)
自己認識
- 自分の内面の状態、価値観、資質、直感を知る
- 思考の癖や反応パターン、感情の身体的反応を認識する
- マインドフルネスやジャーナリングを通じて心や頭の中にあることを観察する
自分への優しさ(自己受容)
- 自分への優しさを育み、共通する人間性を理解し完璧ではない自分を受け入れる
- 困難な状況や失敗、挫折は自分だけが経験することではなく仕事をしていれば誰もが経験することを思い出す
- 自分に対して優しく接することで心のゆとりとエネルギーを取り戻し状況を打開するきっかけが得られる
現実的な楽観性
- 説明スタイルが楽観的か悲観的かに気づく
- ネガティビティ・バイアスに気づき、視点を増やすことで楽観性を培う
- 挫折や失敗は一時的なもの、特定な状況に限定され、努力と能力によっていずれ克服できると捉える
利他的な目標
- 自分にとって「大切なこと」を明確にし、価値としっかりとつながる
- 困難な状況や変化の渦中において、価値観に基づいた目標はあなたが仕事を働くに値するものに変え、あなた自身を導いてくれる
- 目的やビジョンをチームメンバーに共有することでチームが進むべき方向性が明らかになり、チームのレジリエンスが高まる
つながり
- 職場の仲間や上司とのつながりを感じることができれば、孤独感や孤立感が和らぐ
- コミュニケーションをとることで、自分の考えを整理することができたり別の角度から物事を捉えることができるようになる
- 周りの人に対して思いやりある行動をとることであなたが苦しんでいる時にあなたを助けてくれるようになる
まとめ
レジリエンスは、「マインドフルネス」をベースに「自己認識」を深め、自分の心の癖やパターンを知ることから始まります。心の内を穏やかに保つことができれば、より柔軟に情動的、認知的にアプローチすることが可能となり、レジリエンスを高めることができるようになります。自分への優しさを持って「自分自身を受け入れ」、ネガティブな感情に振り回されることなく、冷静に現実を捉え、「楽観的」に考えることで、挫折や失敗を自身の成長機会とすることができるようになります。「利他的な目標」は、働くことの意義や人生の目的を明確にし、自分自身がどこに向かえば良いのかを知る手がかりとなり、人との「つながり」を生み出していきます。職場の仲間や上司とのつながりを感じることができれば、孤独感や孤立感が和らぎ、自分の考えを整理することができたり別の角度から物事を捉えることができるようになります。レジリエンスを高めるには、マインドフルネス、自己認識、自分への優しさ(自己受容)、現実的な楽観性、利他的な目標、つながりの6つの要素をバランスよく鍛えていくことが大切です。最初から全てをやろうとせず、できるところから始め、少しづつできることを増やしていけば、レジリエンスは必ず高まっていきます。