第7章:どうすればチームの力を引き出せるのか?|部下が協働する環境をつくる|Team up with respect
第7章:どうすればチームの力を引き出せるのか?
部下が協働する環境をつくる|Team up with respect
第6章で有能感を育んできたあなたに、SLTメソッドの最後のステップをお伝えします。この章では、Team up with respect(尊重を持って協働する)に焦点を当て、「孤立」から「協働」への転換を実現します。
あなたのチームに、こんな部下はいませんか?
- 個人の能力は高いのに会議では発言しない
- 新しいアイデアがあっても提案しない
- 困ったときも一人で抱え込んでしまう
ある企業の技術部長は、個人面談で部下からこう言われました。「失敗したら責められるので、新しいことに挑戦できない」。このような状況は、決して能力の問題ではありません。実は、職場の「関係性」に根本的な課題があるのです。
関係性とは何か
第3章で学んだように、関係性とは「協働する力」であり、「つながりと信頼を感じること」です。
関係性の本質は、馴れ合いではなく、互いを尊重し合える信頼関係です。同じチーム会議でも、「失敗したら責められる」と感じる環境と、「率直に意見を言っても受け止めてもらえる」と感じる環境では、部下の発言や提案の質が全く変わってきます。
関係性が高まると
- 対立を恐れず率直で建設的な対話ができる
- 困った時に素直に助けを求め相互支援する
- 多様な視点を統合して問題を解決できる
個人の力とチームの力が掛け合わさり、イノベーションが生まれやすくなります。

なぜ職場で孤立感が生まれるのか
孤立感は、関係性が満たされない時に生まれます。具体的には以下の3つの状況です。
- 「失敗したら責められる」と感じる:心理的安全性がなく、率直に意見を言えない
- 「本音を言いにくい」と感じる:表面的な関係に留まり、深いつながりが築けない
- 「一人で抱え込んでいる」と感じる:助けを求めにくく、孤独に問題を抱える
特に現代の職場では、リモートワークの普及、成果主義の浸透、コミュニケーションの効率化により、人間的なつながりを感じる機会が減少し、孤立感が生まれやすくなっています。
しかし、Team up実践によって、この状況を転換できます。以下の3つのステップで、「孤立感」から「つながり」への転換を実現しましょう。
Team up実践の方法
Team up実践では、相手をありのままに受け止め、深いつながりを築く力を育むことで、関係性を効果的に向上することができます。以下の3ステップで、「孤立感」から「つながり」への転換を実現しましょう。
実践1:マインドフル・リスニング(深い傾聴)
Step 1:評価を手放す(聴き始め)
- 相手が話し始めたら深呼吸を1回
- 自分の意見や判断を一旦脇に置く
Step 2:ありのまま受け止める(聴いている間)
- 相手の言葉、表情、感情すべてに注意を向ける
- 「正しい・間違い」ではなく「理解すること」に集中
Step 3:受容を示す(聴き終わった後)
- 「それは大変でしたね」「そう感じられるのは自然ですね」
- 相手のペースに合わせて応答する
具体例:管理職Dさんの1on1
部下との1on1で実践。部下が「今週のプロジェクトで困っています」と話し始めた時、まず深呼吸を1回。「どうアドバイスしよう」という考えを脇に置き、相手の言葉、表情、声のトーンすべてに注意を向けました。話を最後まで聞いた後、「それは大変でしたね。詳しく教えてください」と応答すると、部下は安心した表情で本当の悩みを打ち明けてくれました。
実践2:共感的理解の実践
Step 1:自分の反応に気づく
- 相手が話している時、自分の中に生まれる感情や判断に気づく
- 深呼吸を1回して、その反応を一旦脇に置く
Step 2:相手の感情を観察する
- 相手の言葉だけでなく、表情、声のトーン、姿勢に注意を向ける
- 「この人は今、どんな気持ちでいるだろう?」と問いかける
Step 3:理解を言葉で示す
- 観察した感情を受け止める言葉で応答する
- 「教えてくれてありがとう」から始め、事実を確認する
- 一緒に対策を考える姿勢を示す
具体例:営業職Eさんの顧客対応
商談で、お客様が不満を述べ始めた時、まず自分の中に「言い訳したい」という気持ちが湧くのに気づきました。深呼吸を1回して、その気持ちを脇に置き、お客様の表情と声のトーンに注意を向けました。「この方は期待していたのに裏切られたと感じているんだ」と理解できました。「期待に応えられず申し訳ございません。どのような点が問題だったか、詳しくお聞かせいただけますか?」と応答すると、お客様は落ち着いて具体的な改善要望を話してくれました。
実践3:心理的安全性の構築
マインドフル・リスニングと共感的理解ができるようになったら、次はチーム全体の心理的安全性を高める実践に進みましょう。心理的安全性とは、失敗を恐れず率直に意見を言える環境のことです。
Step 1:受け入れる姿勢を示す
- 相手の発言を否定せず、まず受け止める
- 「面白い視点ですね」「詳しく教えてください」と応答する
Step 2:支援する環境を作る
- 「何かサポートできることはある?」と積極的に声をかける
- 一人で抱え込まない文化を育てる
Step 3:挑戦を歓迎する
- 失敗報告には「教えてくれてありがとう」から始める
- 学習機会として前向きに扱う
具体例:次世代リーダーFさんのプロジェクト会議
週次のプロジェクト会議で、心理的安全性を意識して進行。会議の冒頭で「今日は率直に意見を交換しましょう」と宣言します。後輩が「こんなアイデアは変かもしれませんが…」と遠慮がちに話し始めた時、「面白い視点ですね。詳しく聞かせてください」と応答しました。別の部下が「実は先週のタスクで失敗しました」と報告した時は、「教えてくれてありがとう。何を学べたか、一緒に考えよう」と前向きに受け止めました。段々と部下は積極的に発言するようになり、お互いに助け合う文化が生まれていきました。
今日から始める第一歩:個人実践の開始
まずは日常の対話で、1回以上のマインドフル・リスニングの実践から始めてみましょう。慣れてきたら、共感的理解、心理的安全性の構築へと広げていきます。具体的な習慣化のステップは第9章で詳しくご紹介します。
管理職の方へ:関係性を育む
関係性を育むために、リーダーとして以下の工夫ができます。
コミュニケーションスタイルの転換
- 傾聴の模範:自分が率先してマインドフル・リスニングを実践し、部下の話を最後まで聞く
- 受容的な言葉遣い:「でも」「しかし」を減らし、「なるほど、〜ということですね」「〜という理解でよろしいでしょうか」「〜という選択肢もありますね」を増やす
- 具体的な承認:「○○の提案は新しい視点ですね」「△△について教えてください」と具体的に応答する
環境づくりのポイント
- チェックインの習慣:会議開始時に一人1分で「今の気持ち」を共有する時間を設ける
- 失敗の学習化:失敗を責めるのではなく「教えてくれてありがとう」から始め、学習機会として扱う
- 多様性の奨励:「今日は率直に意見を交換しましょう」と提案を積極的に求め、「面白い視点ですね」と異なる意見を歓迎する姿勢を示す
リモート環境での工夫
- 意図的な雑談時間:オンライン会議の前後に5分間の雑談タイムを設け、人間的なつながりを維持する
- 定期的な1on1:画面越しでもカメラをオンにし、表情や雰囲気を共有しながら個人的なつながりを深める
- 非公式な交流機会:バーチャルランチやオンライン雑談会など、業務以外のコミュニケーションの場を作る
本章のまとめ
第7章では、T – Team up with respect(尊重を持って協働する)の実践方法を学びました。マインドフル・リスニングと相互尊重の関係性を通じて、「孤立」から「協働」への転換が実現します。
次章では
管理職、営業職、次世代リーダーという異なる立場の3人が、SLTメソッドをどのように統合して実践し、どんな変化を生み出したのかをご紹介します。あなたの状況に近い事例から、明日からの実践のヒントを見つけてください。