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コラム

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自律型人材育成 SLT

第5章:「やらされ感」をどう「やりたい感」に転換するのか?|部下の自律性を引き出す|Set your direction

SLT 自立型人材育成

第4章で、SLTメソッドの全体像をお伝えしました。Set・Look back・Team upという3つのステップを循環させることで、自律型人材が育つ仕組みを理解していただけたと思います。

この章からは、各ステップを深掘りしていきます。まず取り組むのは、Set your direction(方向性を定める)です。このステップは、主に自律性を育み、「やらされ感」から「やりたい感」への転換を実現します。

同じ仕事なのに、なぜこんなに取り組み方が違うのでしょうか?

月曜日の朝、あなたのチームで月次レポート作成の指示を出したとします。

Aさんの反応:「また面倒な作業か…早く終わらせよう」
Bさんの反応:「チームの状況を整理して、より良い方向性を見つけよう」

同じ作業、同じ締切、同じ条件なのに、なぜこれほど取り組み方が違うのでしょうか?

ある営業部長は、部下の違いについてこう語ります。「同じ指示を出しても、Aさんは嫌々やり、Bさんは積極的に取り組む。観察していると、Bさんは『これをやることで、チームにどう貢献できるか』を考えていた。同じ指示でも、受け取り方が全く違ったんです」

実は、この違いの背景には、人間の心理における最も重要な要素の一つが関わっています。自己決定理論の第一要素「自律性」です。

自律性とは何か

第3章で学んだように、自律性とは「自分で選ぶ力」であり、「自分で選んでいる感覚」を持つことです。自律性は、以下の3つの要素からなります。

  • 自分で選んでいる感覚を持つこと
  • 価値観と仕事をつなげる
  • 意味づけでやりがいが生まれる

自律性の本質は、自由に好きなことをすることではなく、制約がある中でも「なぜそれをするのか」を自分なりに意味づけることです。同じ月次レポート作成でも、「義務だからやる」ではなく「チームをより良くするために取り組む」と捉えることで、「やらされ感」から「選んでる感」へと転換できます。

自律性が高まると

  • 仕事に価値や意義を見出せるようになる
  • 外部からの刺激がなくても持続的に取り組める
  • 自発的な改善や工夫ができるようになる

なぜ「やらされ感」が生まれるのか

やらされ感が生まれる根本的な理由

やらされ感は、自律性が満たされない時に生まれます。具体的には以下の3つの状況です。

  • 「なぜやるのか」が分からない:価値観とのつながりが見えない
  • 「自分で選べない」と感じる:決定権がないと思い込んでいる
  • 「意味がない」と感じる:仕事に価値や意義を見出せない

特に現代の職場では、業務の細分化や過度な管理体制により、自分で判断する機会が失われ、やらされ感が生まれやすくなっています。

しかし、Set実践によって、この状況を転換できます。以下の3つのステップで、「やらされ感」から「やりたい感」への転換を実現しましょう。

Setを始める前に:自分の価値観を知る

Set実践を始める前に、まず自分が大切にしている価値観を明確にすることが重要です。価値観が明確になっていないと、日々の意図設定や意味づけが表面的なものになってしまいます。

価値観発見ワーク(10分)

「価値観」とは「あなたが心から大切だと感じていること」です。静かな場所で、ノートとペンを用意し、以下の3ステップで進めましょう。

Step 1:心に響く瞬間を思い出す(3分)

以下から1つ選んで、具体的な場面を思い出してください:

  • 仕事で「これは意味がある」と感じた瞬間
  • 誰かに感謝された時の嬉しさ
  • 「今日は充実していた」と感じた日
  • 困難を乗り越えて達成感を得た体験

その場面を、できるだけ具体的に思い出してください。誰がいて、何をして、どんな気持ちだったか。

Step 2:その理由を深掘りする(4分)

その場面で充実感を感じた理由を、3回「なぜ?」で掘り下げます。

例:お客様から「助かりました」と感謝された場面

  • 「なぜ」嬉しかった? → 役に立てたから
  • 「なぜ」それが嬉しい? → 困りごとが解決できた
  • 「なぜ」それが大切? → 信頼関係を築けるから
  • 価値観は?→ 『信頼』

最後の「なぜ大切?」が、あなたの核となる価値観につながります。

Step 3:価値観から役割を見出す(3分)

Step 2で見つけた価値観から、「自分はどんな役割を果たしたい人か」を明確にします。下記の例を参考に次の2つの問いについて考えてみてください。

  • あなたの価値観から、どんな役割を果たしたいですか?
  • 明日その役割を意識して行動するとしたら、具体的に何をしますか?

価値観と役割のつながりの例:

  • 価値観「貢献」→ 役割「チームの潤滑油」(みんなが働きやすい環境を作る)
  • 価値観「成長」→ 役割「成長を後押しする人」(自他の可能性を引き出す)
  • 価値観「信頼」→ 役割「安心感を与える存在」(頼れる人として支える)

この役割意識が、ルーティンワークでも自分なりの意味と貢献を生み出します。

ワークの成果

  • あなたの核となる価値観(1つ)
  • 自分が果たしたい役割(1つ)
  • 明日の具体的な実践(1つ)

この価値観は、毎朝のSet実践で思い出すキーワードとなります。複雑に考える必要はありません。「成長」「信頼」「創造」など、シンプルな言葉で十分です。

ルーティンワークが中心の方も、「どんな役割を果たすか」は自分で選べます。同じ作業でも、その役割意識が仕事への意味づけとやりがいを生み出していくのです。これらの価値観をベースに、以下の3ステップで、「やらされ感」から「やりたい感」への転換を実現しましょう。

Set実践の方法

第4章で学んだように、Set実践は自律性を育む3つの方法から構成されます。

実践1:朝のインテンション設定(3分)

Step 1:心を調える(1分)

  • 深呼吸を3回する

Step 2:価値観を確認する(1分)

  • 「自分にとって大切な価値観は何か?」を自問する

Step 3:意図を設定する(1分)

  • 「今日は何のために働くのか?」を自問する
  • 今日の行動の方向性を1つ決める

実践例:営業職Eさんの朝

通勤電車で3回深呼吸。「今日は何のために働くのか?」と自問し、価値観「信頼」を確認。新規商談があるため、「約束したフォローアップは必ず今日中に送る」という意図を設定しました。

実践2:自分で選ぶ力を取り戻す(3分)

Step 1:立ち止まる(1分)

  • 深呼吸を3回する

Step 2:選べることを見つける(1分)

  • 「この仕事で私が選べることは何か?」と自問する
  •  順番・ペース・方法・姿勢・関わり方など

Step 3:自分の役割を意識して選ぶ(1分)

  • 価値観発見ワークで見つけた「役割」を思い出す
  • その役割として、どう取り組むかを1つ決める

実践例:次世代リーダーFさんの場面

プロジェクトレポート作成の指示を受けた時、デスクに戻る前に深呼吸を3回。「この仕事で私が選べることは?」と自問し、データ分析の順番、レポートの構成、誰に相談するかを確認。自分の役割「成長を後押しする人」を思い出し、「後輩も巻き込んで、一緒に分析スキルを学ぶ機会にしよう」と決めました。

実践3:意味づけの再構築(5分)

Step 1:自分の価値観を思い出す(1分)

  • 「仕事で最も大切にしていることは?」を自問する

Step 2:仕事との接点を見つける(2分)

  • 「この仕事は、自分の価値観とどうつながるか?」を考える

Step 3:意味を再定義する(2分)

  • 業務の捉え方を、価値観に基づいて言い換える

実践例:営業職Eさんの意味づけ変換

Eさんは「仕事で最も大切にしていることは?」と自問し、「部下の成長を支援すること」と確認。毎週の報告会議について、「この会議は、自分の価値観とどうつながるか?」と考え、「義務的な進捗確認」から「部下の成長を発見し、承認する機会」へと捉え方を変えました。

今日から始める第一歩:個人実践の開始

まずは朝の3分間、実践1のインテンション設定から始めてみましょう。慣れてきたら、日中の選択確認、意味づけの再構築へと広げていきます。具体的な習慣化のステップは第9章で詳しくご紹介します。

管理職の方へ:部下の自律性を支援する

部下の自律性を育成するために、リーダーとして以下の工夫ができます。

コミュニケーションスタイルの転換

  • 命令から提案へ:「○○してください」から「○○はどうでしょう?」
  • 結果から過程へ:成果だけでなく取り組み方への注目
  • 評価から承認へ:良し悪しよりも努力や工夫の認識

環境づくりのポイント

  • 選択肢の提供:「どのようにアプローチしたいか?」の問いかけ
  • 目的の共有:「なぜこの仕事が重要なのか」の説明
  • 多様性の尊重:個人の価値観や働き方の違いを認める

本章のまとめ

第5章では、S – Set your direction(方向性を定める)の実践方法を学びました。価値観を明確にし、朝の意図設定から始めることで、「やらされ感」から「やりたい感」への転換が実現します。

次章では

L – Look back at your growth(成長を振り返る)の実践方法をお伝えします。小さな成功に気づき、有能感を育てる具体的な方法を学んでいきましょう。

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