第4章:部下の「やる気」を引き出す、具体的な方法は?|3つの力を育むSLT|実践フレームワーク
「理論は理解できましたが、実際の現場でどう活用すればよいのでしょうか?」
これまで3回にわたって、自律型人材育成の理論的基盤をお伝えしてきました。VUCA時代における自律型人材の必要性、内発的動機づけの重要性、そして自己決定理論の3つの力──自律性・有能感・関係性。
もしかすると、こう感じているかもしれません。
「理論はなんとなく分かった。3つの力が大切なことも理解できた。
でも、明日から何をどう始めればいいのだろう?」
その疑問に答えるのが、この第4章でご紹介するSLTメソッドです。3つの力を統合的に育み、日常の業務の中で実践できる具体的なフレームワークを、一緒に見ていきましょう。
SLTメソッドとは
SLTメソッドは、自己決定理論の3つの力(自律性・有能感・関係性)を統合的に育み、自律型人材(Self-Leadership Talent)を体系的に育成するフレームワークです。
マインドフルネスの「今ここへの気づき」を土台としながら、日常の業務の中で実践できる具体的なステップを提供します。
SLTメソッドのアプローチ
従来型のマネジメントとのアプローチの違いを見てみましょう。
従来型のアプローチ
- 外発的動機づけ中心(報酬・罰則で動かす)
- 結果のみを評価(プロセスは軽視)
- 個人の競争を重視(協働よりも成果競争)
SLTのアプローチ
- 自分の価値観とのつながりを重視
- プロセスと成長を重視
- 個人の自律と協働を両立
SLTは、この統合的アプローチにより、内発的動機づけを引き出し、表面的な改善ではなく、根本的な人材変革が実現します。
SLTの3つのステップ
SLTは、以下の3つのステップから構成されます。
S – Set your direction(自分の方向性を定める)
L – Look back at your growth(成長を振り返る)
T – Team up with respect(尊重を持って協働する)
この3つのステップを循環させることで、「やらされる人材」から「自ら動く人材」への変革を実現します。

【S】 – Set your direction(方向性を定める)
Set実践の効果
・自律性を育む
- 「やらされ感」から「やりたい感」への転換
- 自分の価値観と仕事のつながりを発見
- 「何をするか」ではなく「なぜするのか」に焦点を当てる
・3つの力の相乗効果
- 有能感:方向性を自分で定められる力の実感
- 関係性:共通の目的や価値観による一体感
Set実践の方法
実践1:朝のインテンション設定
- Step 1:心を調える
- Step 2:価値観を確認する
- Step 3:意図を設定する
実践2:自分で選ぶ力を取り戻す
- Step 1:立ち止まる
- Step 2:選べることを見つける
- Step 3:自分の役割を意識して選ぶ
実践3:意味づけの再構築
- Step 1:自分の価値観を思い出す
- Step 2:仕事との接点を見つける
- Step 3:意味を再定義する
詳細は、具体例を交えて、第5章でご紹介します。
【L】 – Look back at your growth(成長を振り返る)
Look back実践の効果
・有能感を育む
- 「できていない感」から「成長している実感」への転換
- 小さな成功や変化に気づく力を育む
- 他者比較ではなく、昨日の自分との比較で成長を実感する
・3つの力の相乗効果
- 自律性:成長への気づきによる自信と選択力
- 関係性:相互承認の文化を生む
Look back実践の方法
実践1:小さな成功の発見
- Step 1:心を調える
- Step 2:今日1日を振り返る
- Step 3:成功を発見する
実践2:成長の可視化
- Step 1:3つの視点で振り返る
- Step 2:具体的な変化を記録する
- Step 3:来週への意図を設定する
実践3:失敗の受容と学習化
失敗に直面した時、まず自分を責めないことから始める。その上で:
- Step 1:事実を確認する
- Step 2:学びを抽出する
- Step 3:次への活用を考える
詳細は、具体例を交えて、第6章でご紹介します。
【T】 – Team up with respect(尊重を持って協働する)
Team up実践の効果
・関係性を深める
- 「孤立」から「協働」への転換
- 心理的安全性の中で率直に意見を言える関係を築く
- 相互尊重に基づく信頼関係を育む
・3つの力の相乗効果
- 自律性:協働の中での自己選択と判断
- 有能感:貢献による達成感と成長実感
Team up実践の3つの方法
実践1:マインドフル・リスニング(深い傾聴)
- Step 1:評価を手放す
- Step 2:ありのまま受け止める
- Step 3:受容を示す
実践2:共感的理解の実践
- Step 1:自分の反応に気づく
- Step 2:相手の感情を観察する
- Step 3:理解を言葉で示す
実践3:心理的安全性の構築
- Step 1:受け入れる姿勢を示す
- Step 2:支援する環境を作る
- Step 3:挑戦を歓迎する
詳細は、具体例を交えて、第7章でご紹介します。
従来型とSLTの対比
同じ目標に向かう場面でも、従来型とSLT型では、アプローチが全く異なります。
| 要素 | SLT型 | 従来型 |
| 自律性 | 「お客様により良い価値を提供し、売上120%を目指そう」 | 「売上120%達成せよ」 |
| 有能感 | 「挑戦のプロセスから学びを得て、次につなげよう」 | 「目標未達は評価を下げる」 |
| 関係性 | 「協働して、チーム全体で成功しよう」 | 「個人の成果で競争せよ」 |
従来型が外発的動機づけに頼るのに対し、SLT型は内発的動機づけを引き出します。この違いが、短期的な成果と持続的な成長の違いを生み出すのです。
【SLTの統合運用】
3つのステップの統合
SLTメソッドは、Set → Look back → Team upの3つのステップを統合することで真の効果を発揮します。
Set(方向性設定)だけでは成長の実感が得られず、
Look back(振り返り)だけでは新しい方向性が生まれず、
Team up(協働)だけでは個人の軸が曖昧になってしまいます。
しかし、3つのステップを統合することで、強力な相互作用が生まれます:
- Set ⇔ Look back:意図した方向性に対しての成長を実感でき、その成長実感が次の意図をより明確にする
- Look back ⇔ Team up:個人の成長がチームへの貢献として活かされ、協働の経験が新たな学びを生む
- Team up ⇔ Set:協働が次の意図設定を豊かにし、明確な意図が協働の質を高める
日常での循環実践
統合したSLTを、日次・週次・月次で循環させることで、習慣として定着します。
| 頻度 | Set(方向性設定) | Look back(振り返り) | Team up(協働) |
|---|---|---|---|
| 日次 | 朝の意図設定 | 夜の成長振り返り | 日中の対話 |
| 週次 | 月曜の目標設定 | 金曜の成長確認 | チームでの共有 |
| 月次 | 価値観の再確認 | 成長の可視化 | 協働の振り返り |
この相互作用により、「意図を持って行動し」「成長を実感し」「協働を通じて価値を創造する」という持続的な実践が生まれ、3つの力がバランスよく育まれます。
この循環により、一時的な改善ではなく、自ら成長し続ける自律型人材が育つのです。具体的な実践方法は第5〜7章で、習慣化のステップは第9章で詳しくお伝えします。
【SLTメソッドが生み出す変化】
では、SLTメソッドを実践すると、あなたにどんな変化が起こるのでしょうか?3つのステップを統合することで、以下のような質的な変化が生まれます。
- 持続的な内発的動機:Setで意図を持ち、Look backで成長を実感し、Team upで貢献を体験する循環により、モチベーションが自然と持続する
- 自信と謙虚さの両立:自分の成長を実感しながら(有能感)、他者から学び続ける姿勢(関係性)が共存する
- 個人の自律とチーム協働の両立:自分らしさを発揮しながら(自律性)、チームの力を最大化する(関係性)
実践を続けることで、段階的に変化が現れてきます。
2-3ヶ月後:個人の実践が定着する
- 朝の意図設定と夜の振り返りが習慣になる
- 小さな成長に気づきやすくなる
- 対話の質が変わり始める
6ヶ月後:周囲に変化が広がる
- 同僚から「最近、何か違いますね」と言われるようになる
- 自然と相談されることが増える
- 一緒に実践したいという仲間が現れる
1年後:チームレベルの変化が見える
- チーム内の相互支援が自然発生する
- 新しいアイデアが活発に出る
- 失敗を学習機会として扱う文化が育つ
【まとめ】本章のまとめ
第4章では、SLTメソッドの全体像をお伝えしました。
- 自律性・有能感・関係性という3つの力を統合的に育む必要性
- Set・Look back・Team upという3つのステップ
- 循環させることで生まれる相乗効果
理論から実践へ、個人からチームへ、一時的な改善から持続的な成長へ──SLTメソッドは、この変革を実現するフレームワークです。
次章以降の学び
次章からは、S・L・Tそれぞれのステップを深く理解し、具体的な実践方法を学んでいきましょう。理論と実践例を通じて、あなた自身の明日からの一歩が明確になっていきます。