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エモーショナル・インテリジェンス(EI)

心理的安全性と脳科学 

前回のコラムでは、心理的安全性とは何かについてレポートしました。本コラムでは、心理的安全性を脅かす「不安」についてレポートします。組織内に不安があると、私たちは対人関係のリスクを回避するため自己印象操作をすることがあります。自己印象操作はチームの生産性を低下させます。また、近年の脳科学の研究によって、不安によって私たちの脳の働きが低下することが確認されています。脳科学の観点から扁桃体を取り上げ、不安と扁桃体の関連性から、不安が蔓延る組織では何が起こるのかを考えてみます。

あなたは、普段仕事をしているときに、どれぐらい上司からの評価や同僚からの判断を気にしているでしょうか。自分の評価が下がってしまうリスクを感じて、質問や相談を避けてしまったり、自己イメージを損ねないように発言を控えたことがあるかもしれません。職場では、誰もが対人関係のリスクに晒されていると言えるでしょう。

4つの不安と自己印象操作

心理的安全性が低い組織には、様々な不安が蔓延ります。単純作業で、作業者が問題にぶつかることや改善の必要のない仕事であれば、不安を煽り恐怖を与えることが一時的に生産性を高めることがあるかもしれません。しかし、学習や協力をしなければならない仕事においては、不安がやる気を引き出すことも生産性を高めることもありません。

心理的安全性の第一人者であるエイミー・エドモンソン教授は、2002年の論文で対人関係を脅かすリスクとして4つの不安、「無知」「無能」「邪魔」「否定的」を示しています。不安がある状態では、人は自己印象操作をします。自己印象操作とは、自分の印象を悪く見せないように”良い子”のフリをして、対人関係のリスクを回避する言動を行うことです。

「無知」の不安

「無知」の不安があれば、自分が何も知らない人だとも思われないように、知ったかぶりをしてしまいます。結果、誰も質問しないため、もしくは既知のことだと考えるため、必要なことでも質問も相談もしようとしません。

「無能」の不安

「無能」の不安があれば、自分が能力がない人だと思われないように、できるフリをしてしまいます。結果、出来もしないことを引き受けたり、ミスを犯しても報告せずそれを隠そうとして、改善の余地を逸し不正や不祥事の発生リスクが高まります。

「邪魔」の不安

「邪魔」の不安があれば、自分が厄介者だと思われないように、満足しているフリをしてしまいます。結果、フィードバックや業績評価について聞きたくても、聞くことができず成長するための機会を逃してしまいます。

「否定的」の不安

「否定的」の不安があれば、自分がネガティブで批判的な人だと思われないように、問題がないフリをしてしまいます。結果、正直な気持ちや率直な考えを述べることなく、反対意見があっても黙ったままで建設的な議論に発展しません。

チームの生産性を下げる「自己印象操作」

上記のような自己印象操作は、多かれ少なかれ、誰でも自分を守るために行っています。率直な発言に関するある調査では、「重要な問題について懸念を抱いても、上司に話すのは無理だと感じた経験が少なくとも一度はある」という人が85%という結果でした。会議中に反対意見があっても、賛成多数の雰囲気を感じ取り、何も言わず黙ったままでいた経験は誰にでもあるのではないでしょうか。自己印象操作は、組織や社会の中で生きていく上で多少は必要かもしれません。ただし、度を越す自己印象操作は、私たちから学ぶ機会やアイデアの種を奪ってしまいます。

心理的安全性が低い組織では、上記4つの不安が率直な意見や行動を阻害し、会議の質やチームの生産性を低下させます。チームメンバーが「良い組織を作り出す」ことよりも「自分の印象を悪く見せない」ために行動するため、本来の業務に集中して取り組むことができなかったり、会議中に発言や質問を控え建設的な議論にならず、チームの生産性が低下してしまいます。場合によっては、無能や邪魔者と思われることを恐れた従業員が重大なミスを隠し、組織として取り返しのつかない状態になるまでミスが発覚せず、粉飾決算やインサイダー取引など最悪の事態を招く恐れも否定できません。

個人の生産性を下げる「不安」

不安のある職場では、自己印象操作が行われチームの生産性を低下させます。また不安によって脳の働きが低下することで個人の生産性も低下させてしまいます。不安があるとき、私たちの脳の中では何が起こっているのでしょうか。不安と脳の関連性について、扁桃体を中心に考えてみましょう。

扁桃体とストレスシステム(HPA系)

扁桃体は、記憶や感情に関わり、他者の感情を解釈する時にも働きます。特に恐怖や不安に深く関与することが知られており、身の回りに危険がないかを察知し、ストレスシステム(HPA系)を発動させるセンサーの役割を果たします。HPA系は、視床下部、下垂体、副腎が連動して、アドレナリンやコルチゾールなどのストレスホルモンを分泌するストレスシステムです。このHPA系というストレスシステムのお陰で、私たちの祖先は、ジャングルでライオンや虎などの獣に出くわしても、生き延びることができました。なぜなら、HPA系が作動しストレスホルモンが分泌されることで、必要なエネルギーが作り出され、鼓動が早まり筋肉に血液が送り出され、目の前にいる獣から逃げたり、戦ったりすることができたからです。

不安と扁桃体

ジャングルの中で獣に遭遇するような一難が去れば、本来、HPA系は落ち着き人体は通常モードになりますが、職場というジャングルではそうはいきません。職場というジャングルには、ライオンや虎のような上司、ハイエナのような同僚や狐のような部下がいるかもしれません。彼らがジャングルの獣のように私たちの命を奪うことはありませんが、彼らの存在が職場に4つの不安をもたらすことはありえます。

無知の不安

「こんなことを言ったらバカにされるかもしれない」

無能の不安

「ミスの報告をしたら怒られるかもしれない」

邪魔の不安

「いいアイデアを思いついたけど煙たがられるかもしれない」

否定的の不安

「反対意見を言ったら評価が下がるかもしれない」

このような不安が扁桃体を活性化することが脳科学で確認されています。扁桃体は、常にスイッチがオンになっていて感度良好なのですが、精度はあまり高くありません。心理的に不安があると、感度良好の扁桃体が不安を捉え、HPA系を発動させます。そうすると、獣が襲いかかってくる脅威にさらされていないにも関わらず、私たちの体は実際に脅威にさらされた時と同じような反応を起こします。脳科学の知見によれば、不安のせいで扁桃体が活性化し、生理的資源が消費されると、ワーキングメモリ(作業記憶)の管理や新しい情報の処理をする脳領域に資源が届かなくなると考えられています。そのため、分析的思考、創造的考察、問題解決がうまくできなくなり、不安を感じている人は本来持っている力を発揮することができず、個人の生産性が低下します。

まとめ

このコラムでは、心理的安全性について、不安と自己印象操作、不安と扁桃体の関連性について考えてみました。不安は自己印象操作をもたらし、組織の学習や協働を妨げ、チームの生産性を低下させるだけでなく、扁桃体が活性化することで個人の生産性にも悪影響を及ぼします。心理的安全性とは、対人関係のリスクをとっても安全だと信じられることです。心理的に安全な環境では、支援を求めたりミスを認めたとしても、「懲らしめを受けるんじゃないか」「ばつの悪い思いをするんじゃないか」という不安がなく、公式、非公式を問わず制裁を受けるような結果になりません。むしろ、率直であることが許されているし期待されているといえるでしょう。職場の仲間が互いに信頼、尊敬しあい、率直に話ができると思える場合に心理的安全性が存在するのです。

コラム:心理的安全性シリーズ
  1. 心理的安全性とは
  2. 心理的安全性 事例研究:福島第一原子力発電所・事故
  3. 心理的安全性を高るためにマネージャーができる3つのこと(前編)
  4. 心理的安全性を高めるためにマネージャーができる3つのこと(後編)

 

 

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