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コラム

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マインドフルネス

マインドフルネスの誤解(後編) 〜 瞑想なんて効果がない? 〜

マインドフルネス

前編では、八正道の考え方や語源satiに触れ、マインドフルネスの意味について整理し、マインドフルネスは、心の状態ではなく意識的行為であることを明らかにしました。中編では、呼吸瞑想と呼吸法の違い、マインドフルネスにおける呼吸瞑想の位置づけについて整理し「マインドフルネス=呼吸」と誤解してしまう理由を明らかにしました。また、呼吸瞑想以外の瞑想方法がある理由として、脳の多機能性を取り上げました。後編では、マインドフルネスと知識にまつわる誤解について取り上げましょう。

知れば、マインドフルになれるんでしょ?

マインドフルネスに公式はありません

マインドフルネスに対する誤解として、「マインドフルネスのことを知れば、マインドフルになれる」と考え、知識を重視しすぎる人がいます。世の中にはいわゆるノウハウ本が出回っています。私たちはつい効率的に答えを求めてしまいがちです。書籍やインターネットを通じて、マインドフルネスについての情報は簡単に入手できます。いろんな切り口やアプローチ方法を知ることができて、知識を仕入れたい人にとっては良好な環境と言えるでしょう。中には実践の継続性を問うことなく、取得できる資格のようなものもあります。数学の公式を習って、その公式に数字を当てはめれば答えが出てくるかのように、マインドフルネスを捉えてしまう人がいます。しかし、これは誤解です。

水を味わうように

水は酸素と水素からできています。沸点が100度で水は蒸発し気体になり、凝固点が0度で水は氷になります。このような水についての知識があっても、本当の水の味を知ることはできません。本当の水の味を知るには、水を飲んで実際に水を味わってみることです。飲めば水の味がわかるように、実践すればマインドフルネスがどんなものかを体と心で感じるようになっていきます。知ることも大切ですが、それ以上に大切なことは感じ、味わい、経験することです。それを実践と呼びます。

実践という学び

例えば、音符が読めても演奏の練習をしなければ、楽器を演奏できるようにはなりません。バットの振り方を教わっても、実際にピッチャーが投げる球を打つ練習をしなければヒットを打てるようにはなりません。体を使うことに関しては、練習をしなければ結果が伴わないことが容易に想像できます。心の作用も同様です。どれだけマインドフルネスに関しての知識を増やしても、実際にしなやかな心を培うことはできません。むしろ、マインドフルネスに関しては、色々知ってしまうことよりも実践して自分の変化を感じることの方が何よりの学びになるでしょう。

瞑想なんて効果がない?

「予期しないことが起こったときに、パニックになってしまい、一生懸命呼吸に注意を向けようとしたのですが、動揺してうまく深呼吸もできませんでした。マインドフルネスなんて本当に効果あるんですか。」

マインドフルネスはバンドエイドではありません

これは、過去に受講生から質問された内容です。マインドフルネスを呼吸だと勘違いし、瞑想の実践も日頃していない方でした。マインドフルネスは、バンドエイドではありません。バンドエイドはドラッグストアで買って手元に置いておけば、怪我したときに患部に貼れば役に立ちます。マインドフルネスをバンドエイドのようなものだと勘違いしていると、現実世界ではうまく適用できません。むしろ、思い通りにうまく対処できずパニックを増幅させる恐れがあります。

パフォーマンスを発揮するために

スポーツ選手やミュージシャンは本番でパフォーマンスを発揮するために日々の練習に励みます。日々の練習があるから、本番で思うように体が動いて、期待通りのパフォーマンスを発揮することができるようになります。マインドフルネスも同様です。日頃実践をしているからこそ、困難な場面で体の反応に気付いて、心の反応を選択できるようになります。マインドフルネスの気づいている力は、瞑想で脳をトレーニングすることによって培われていきます。トレーニングを継続的に実践していくと脳の配線が変わり、困難な状況において脳の暴走を食い止め、よりスマートな対応ができるようになります。

瞑想によって脳は変わる

瞑想を実践することで脳に変化が起こることは、科学的に根拠のあることです。適切な刺激を与えれば脳は大人になっても成長、発達していくことが多くの研究で確認されています。瞑想の実践が脳に対する適切な刺激であり、脳の機能と物理的な構造を変えていきます。このような脳が成長する性質を神経可塑性と呼びます。この神経可塑性の考え方が支持されているからこそ、瞑想が科学の対象とされ、数多くの研究論文が発表されているわけです。科学の対象ということは、瞑想による効果に再現性があるということに他なりません。具体的には中編でご紹介した

  • 注意を司る回路
  • 思いやりや共感を司る回路
  • 心を掻き乱すものに対する反応を司る回路
  • 自意識そのものを司る回路

などが瞑想によって変化する神経回路として、科学的な研究結果によって確認されています。例えば、「選択力」と「適応力」が高まることで、自らを巧みに目標に導くセルフマネジメントが可能となり、「対人力」と「影響力」が高まることで、リーダーシップを発揮することができるようになります。

選択力

マインドフルな状態では、「今この瞬間」目の前にあることに没頭し、極めて高い集中力が発揮され潜在能力を最大限活用することができるようになります。今この瞬間に大切なことが何かを判断する優先順位付けが上手になり、状況にふさわしい行動や価値観に沿った行動を選択することができるようになります。自己認識を深め、自らの情熱や価値観、仕事の意味を理解し、理想の未来を描くことで創造力と想像力が発揮されます。

適応力

自らの状態に気づくことで、自分自身でストレスケアができるようになり、心身の健康のバランスを保つことができるようになります。ネガティブな感情が発生した時に、衝動的な反応ではなく、冷静な判断をすることでその場にふさわしい対応をすることができるようになります。心の回復力=レジリエンスが高まり、困難な状況をうまく乗り越えることができるようになり、落ち込むことがあったとしても元の状態に戻ることができるようになります。

対人力

他者の感情や心の状態に気づくことができるようになり、人間関係を客観的に理解できるようになります。ありのままの自分を表現することで、信頼感を醸成し、相互理解を図ることができるようになります。立場の違いや意見が衝突しても、共感力や思いやりをベースにしたコミュニケーションを通じて、建設的な人間関係を構築することができるようになります。

影響力

心理的安全性を創出し、相談できる、挑戦できる環境が生まれ、組織が活性化します。エンゲージメントの高いチームになり、自律的、主体的に働くメンバーが増えます。洞察力が高まり問題解決能力や利害調整能力が向上し、チームをまとめ、ミッション達成のための方向付けができるようになります。

まとめ

後編では、マインドフルネスの知識に対する誤解について触れ、実践の重要性についてお伝えしました。世の中では、知識が重宝される場面が多々あります。知識をおそろかにするつもりは毛頭ありませんが、知識偏重になっている傾向があるかもしれません。確かに、体で感じる方法や、心の反応のパターンについては知識から学べることも多くあります。しかし、いくら知識があっても、体で感じることそのものや心の反応に気づくこと自体はできません。実践を通じて、体と心に馴染ませていくことがマインドフルネスの道でしょう。実践の効果については、数多くの科学的な研究によって明らかにされています。これらの研究結果を眺めていると、人間の持つ可能性に魅了させられます。様々な誤解はその可能性を潰してしまう恐れがあります。本コラムが、マインドフルネスとの向き合い方のヒントになれば幸いです。

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