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マインドフルネス

【調査報告】マインドフルネスはレジリエンスに効果があるのか?

マインドフルネスプロジェクトは、2022年4月、5月にレジリエンス・トレーニング「FLEX」を開催しました。参加者のアンケート結果から、レジリエンスに対するマインドフルネスの有効性について報告します。

■ 日程

2022年4月16日、23日、30日、5月20日(各回3時間)

■ プログラム内容

レジリエンス・トレーニング「FLEX」は、変化に適応する力を高めるプログラムです。コロナ禍で多くの方が様々な変化に直面しています。予期せぬ事態、ストレスのかかる状況、逆境や困難、変化や危機は避けては通れません。レジリエンスは、まさに今、求められる心のスキルの一つです。

FLEXは、マインドフルネスの実践をベースに、心理学、生物学、神経科学の最新研究に基づき、プログラム構成されています。理論編では、心理学、生物学、神経科学の最新研究に基づき、感情と思考のパターンや反応について学びます。実践編では、マインドフルネスの実践や豊富なワーク、演習を通じて、レジリエンスを高めます。

■ 実践内容

マインドフルネスの実践内容としては、集中瞑想、観察瞑想、ヴィジュアライゼーション、ボディスキャン、セルフ・コンパッション、コンパッションに取り組みます。参加者は、プログラム内で学んだことを次回のセッションまでにホームワークで復習します。結果的に、6週間の実践の継続機会が生まれます。

◇1週目
• 出来事ー思考ー感情ー行動(ABC分析)を1日1つ記録
• 呼吸瞑想 1日3分
◇2週目
• 抵抗した出来事ー思考ー感情ー行動(ABC分析)を1日1つ記録
• ボディスキャン 1日10分
◇3週目
• セルフコンパッションの実践
• ネガティビティバイアスに気づいたら、自分自身に寄り添う
◇4週目
• 呼吸瞑想 1日5分
• 1日の終わりに感謝できることを探す
◇5週目
• マインドフル・イーティング 1日1回
• ポジティブなことを1日3つ探す
◇6週目
• 自分で選択して実践
• 自分にとって大切な価値観を3つ選ぶ
• FLEXで印象に残ったレジリエンス・ワードを3つ選ぶ

■ レジリエンスを高める3つのポイント

  1. コントロールできることに取り組む
  2. コントロールできないことを受け入る
  3. コントロールできることとコントロールできないことを見分ける
  • コントロールできることには、思考と行動があります。思考を柔軟にして物事の捉え方は一つではないこと、価値観に基づいた行動を選択することが大切です。
  • コントロールできないことには、感情と出来事があります。感情に抵抗するのではなく感情を受け入れること、出来事をありのままに見ようとすることが大切です。
  • コントロールできることとコントロールできないことを見分けるには、心の癖や反応パターンを知り、思考や感情にありのままに気づくことが大切です。

どのステップにおいても、マインドフルネスがベースとなります。マインドフルネスの実践で、感情を受け入れるための自己受容や思考の柔軟性を高める現実的な楽観主義を育みます。また、自己認識を深めることで、効果的な行動へ導く価値観に基づいた自分よりも大きな目標を設定することができるようになります。

結果的に、今まで気づかなかった視点を作り出すことができるようになり、刺激に対する反応の選択肢を増やすことが可能となり、上記3つのポイントを踏まえて、変化への対応力や心の回復力が高まり、レジリエンスの力が身についていきます。

■ 参加者の実践経験

週1回 週2-3回 週4-6回 週7回
3ヶ月未満実践している 3 1 1 1
半年以上実践している 5 1 2 2
8 1 2 3 2

本アンケートにご回答いただいたのは8名です。瞑想実践期間は、3ヶ月未満の方が3名と半年以上実践している方が5名です。実践頻度は、週1回の方もいれば、毎日実践している方もいます。

■ アンケート項目

(集中力)         注意が逸れた時に気づき現在に注意を戻すことができる
(思考の観察)       自分の思考に気づくことができる
(感情の観察)       自分の感情に気づくことができる
(感情マネジメント)    衝動的に反応する前に立ち止まれることができる
(ストレスマネジメント)ストレスな状態の時に自分自身を意図的に落ち着かせることができる
(自己受容)               自己批判が減り、自分のことを受け入れることができる
(コンパッション)      家族や同僚が弱っている時、手伝ったり助けたりしようとする
(コミュニケーション)  他人と関わる時、相手の感情に気づいていると感じる
(生きがい)              有意義な人生を送っていると感じる
(楽観性)                 肯定的な感情経験をする
(優先順位)              最も重要なことの優先順位をつけることができる
(睡眠)                    睡眠の質

アンケート項目は、上記12項目です。FLEX受講前と受講後にアンケートを取り、その変化を比較しました。

■ アンケート結果

睡眠以外の11項目が、受講前に比べて改善しました。変化率の大きかったものは、コンパッション(+0.75)、ストレスマネジメント(+0.75)、集中力(+0.63)となっております。どれもレジリエンスには欠かせない心のスキルです。コンパッションは、レジリエンスの源となる人とのつながりを作り出します。ストレスマネジメントが上手になると、変化への適応力を高まります。集中力が高まることで、コントロールできることに取り組むことができるようになります。

結果的に、ストレスの捉え方が変わりました。ストレスに対して無力だと感じていた人はいなくなり、ストレスに対して有力だと感じる人が増えました。ストレスに対しての自己効力感の高まりを示しており、変化や困難な状況に見舞われても、自分は対応することができると認識できるようになったということでしょう。

また、ストレスが自分の人生にとって有害だと思う人はいなくなり、有益だと思う人が増えました。ストレスは健康を害し、自分にとって悪いものと捉えられがちですが、実はストレスには良いストレスと悪いストレスがあります。ストレスそのものを適切に理解することができれば、ストレスは自分にとって意味があることだと理解することができるようになり、ストレスはむしろ自分にとって有益であると考えられるように至ったのでしょう。これらの結果は、前述アンケートのストレスマネジメントが改善した結果(+0.75)と付合しています。

レジリエンスが高まったかどうかについては、7名中6名が「高まった」と回答しています。この要因として考えられるのが、前述の12項目の改善により、物事の捉え方が変化したこと(7名中6名が「変化した」と回答)、自分についての理解が深まったこと(7名中6名が「深まった」と回答)が挙げられます。物事の捉え方が変わることで、自分の行動の選択肢が増えます。自分についての理解が深まることで、自分の感情や思考、自分にとっての大切な価値観に気づくことができるようになります。

■ 参加者の感想

  • 今回この講座に参加でき、私の人生がさらに豊かになりそうな気がします。 まずは瞑想を少しずつ実践し、スモールステップでFLEXの内容を取り入れていきたいと思います。そして少しずつ周囲の人にも広げられればと嬉しいです。
  • とても分かりやすく役立つ内容で、本当に学びになりました。少しずつサポートアイテムを増やして、自分自身と、周りの関わる人たちと、良い関係を築いていきたいと思います。その時FLEXで学んだことを思い出していきながら身に着けたいです。
  • 自分の身体感覚から、自分の感情に意識を向ける自分が出てきた事に、嬉しく思っています。4回のコンテンツは盛り沢山でありながら、全てが私の好奇心が喜ぶ刺激でした。頂いたパワポ資料や、動画で復習しながら、実践をしどのように自分が変化していくか、楽しんで行きます。楽しく学ばせていただきありがとうございました。

■ 考察

今回のアンケート結果から、マインドフルネスがレジリエンスに有効であることが確認できました。心理学で使われるABC分析のモデルをマインドフルネスと結びつけ体系化することで、その効果が現れたと考えられます。ABC分析は、出来事-思考-感情-行動の要素で構成されます。

ABC分析 マインドフルネス 効果
出来事 集中瞑想
  • 気づく力を培い出来事をありのままに見る
  • コントロールできることとコントロールできないことを見分ける力を育む
思考 観察瞑想

ヴィジュアライゼーション

  • 思考の癖やパターン、ネガティビティ・バイアスに気づく
  • 現実的な楽観主義を育み、物事の解釈の視点を増やす
  • ストレスに対する捉え方を柔軟にする
感情 ボディスキャン

セルフコンパッション

  • 感情をありのままに観察し、自己受容を高める
  • ネガティブな感情を受け入れる。
行動 コンパッション

ボディスキャン

観察瞑想

  • 自己認識を深め、価値観や利他的な目標に気づく
  • 行動の選択肢を増やす。

レジリエンスは後天的に鍛えられる心のスキルと考えられ、様々なアプローチ方法があります。一般的にレジリエンスを高めるためには、認知トレーニングを中心に組み立てられることが多いかと思います。FLEXでは認知トレーニングに加え、マインドフルネスの実践を通じてより自分の身体的な感覚や心の動きに注意を向けることで、頭だけで理解することに留まらず、体と心に落とし込んでいきます。

特にボディスキャンは有効だと考えられます。FLEXにおいても、ボディスキャンは最も多く実践の機会を作っています。身体知を高めることで、自分のストレスの状況や感情の動きにより微細に気づくことが可能となります。ここに認知的なアプローチを加え、体のメッセージをいかに読み解くか、感情とどのように向き合うかについての視点を増やしていくことができるようになっていきます。結果的に、アンケート結果に見られるようにストレスに対する捉え方が変わり、ストレスを味方につけられるような解釈が生まれていきます。

また、コンパッションを育むことで、レジリエンスの源となるつながりが生まれ、孤立感が和らぎ、逆境に向き合う体制を整えることができるようになっていきます。つながりが生まれれば、ネガティブな状況においても恐怖感が鎮まり、行動する勇気が湧いてきて、将来に希望を持つことができるようになっていきます。

レジリエンスの難しいところは、今まさに困難な状況の時にどのように向き合うか、という点です。リアルタイムな反応の選択には、認知的なトレーニングだけではなくマインドフルネスの実践が欠かせません。頭でわかっていても、できないことは数多くあります。マインドフルネスは、今まさに起こっていることに対してどうしたら良いかを示してくれる知恵となり、体と心でストレスに向き合うことができる知性が身に付きます。

マインドフルネスの実践は、神経可塑性を通じて、脳の機能と構造を変化させることが広く知られています。今回のアンケート結果は、そのことを裏付けていると考えられます。参加者の脳に変化が生じ、レジリエンス回路が生まれていると言えるでしょう。

 

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