心理的安全性を高めるためにマネージャーができる3つのこと(前編)
これまでみてきた通り、心理的安全性とは、「みんなが気兼ねなく意見を述べることができ、自分らしくいられる文化」のことです。思うことを口にすることに抵抗がなく率直に発言することができ、その場でイキイキと過ごすことができて、自由に自己表現できることです。心理的安全性が低い組織では、様々な不安が蔓延り社員のやる気が低下し、発言よりも沈黙が好まれチーム内の協力や学習が阻害されます。具体的な心理的安全性の低い組織の事例として、医療ミスの事例と福島第一原子力発電所・事故を取り上げ、心理的安全性の欠如は不祥事や不正取引につながるリスクを高めること、場合によっては、人命を脅かすリスクとなり得ることを明示しました。
どうやら、心理的安全性が重要だということが分かってまいりました。では、どうやってこの心理的安全性を組織内で高めていくことができるのでしょうか。今回は、心理的安全性をチーム内で高めていくためにマネージャーができることを考えていきます。
3つの要素
チーム内に心理的安全性を構築する上で、マネージャーの役割は非常に大きいです。エイミー・エドモンドソン教授の説明によれば、心理的安全性を構築するためにマネージャーができることとして、以下の3つの要素を挙げています。
- 仕事をリフレーミングする
- 自分も間違えることを認める
- 好奇心を持つ
本コラムでは、「仕事をリフレーミングする」を考えていきます。「自分も間違えることを認める」「好奇心を持つ」については、次回のコラム「心理的安全性を高めるためにマネージャーができる3つのこと(後編)」でお伝えします。
Building a psychologically safe workplace | Amy Edmondson | TEDxHGSE
(7分30秒〜 How do you build psychological safe?)
仕事をリフレーミングする
普段、私たちは目の前で起こっている事に対して、無意識的にフレーミングして物事を捉えています。フレーミングとは、過去の経験から、現実を解釈してしまう思い込みのことです。つまり、フレーミングによって認知バイアスがかかり、私たちはフレーミングの影響に気づかず現実を作り出し、本来起こっている現実を歪めて捉えてしまうことがあるということです。
リフレーミングとは
このフレーミングに気づき改めようとすることが、リフレーミングであり、心理的安全性を高める1つ目のポイントとなります。リフレーミングとは、新たな用語を導入し、今までの出来事や行動の意味を変えるということです。ネガティブなことが起きた時に、その出来事の意味について、違った角度から考えるように工夫して、学習の観点から仕事をリフレーミングします。エイミー・エドモンドソン教授は、リフレーミングを心理的安全性を構築する上で最重要のスキルと位置付けています。
例えば、業務上事故などのネガティブな出来事が起きた時に、その原因を「調査する」という表現を「研究する」という表現にリフレーミングします。このような言葉の表現の変化は、受け手の捉え方に変化をもたらします。調査というと責任追求のようなイメージをもたらしますが、研究というとそこから学び以降の改善に結びつけるようなイメージをもたらします。同様に、「間違い」や「誤り」を「事故」や「課題」とリフレーミングすることもできます。どのような言葉を使って出来事を表現するかは、組織の文化や慣習に応じて相応しいものを選択する必要があります。リフレーミングで重要なことは、過去の捉え方と新しい捉え方をはっきり区別して、メンバーがその意味を理解することです。
失敗をリフレーミングし、イノベーションを起こす
例えば、失敗をリフレーミングしてみましょう。自分が何か仕事で失敗を犯した時に、「失敗は怒られる」というフレーミングをしている時には、失敗を伴うチャレンジ行動を控えたり、仮にチャレンジした結果、失敗しても報告せずに黙ったまま隠蔽してしまうことがあります。この無意識的なフレーミングをリフレーミングすることで、新しいことに対するチャレンジが生まれたり、発言しやすさをもたらしもっと正確な報告が上がってきたりするようになります。つまり、メンバーが安心して失敗できるように、マネージャーが明確かつ積極的にリフレーミングすることで、必然的にメンバーは失敗を避けるような行動を控え、新しいチャレンジを試みイノベーションが起きやすくなっていきます。例えば、「失敗のプロ」ではなく「学習のプロ」であるとリフレーミングしてみるとどうでしょうか。メンバーの失敗に対する捉え方が変わり、メンバーの行動にも変化をもたらし、その経験を無駄にすることなくそこから学ぶ姿勢が生まれていくでしょう。
3種類の失敗
失敗をリフレーミングする時には、失敗には3つの種類があることを知っておく必要があります。回避可能な失敗、複雑な失敗、賢い失敗です。1つ目の回避可能な失敗は、望ましいプロセスから逸脱して悪い結果をもたらすものです。例えば、支払先の口座情報に入力ミスがあったため期日に仕入代金を支払えなかった場合などです。2つ目の複雑な失敗は、いくつかの要因が重なって起きるものです。例えば、前回のコラムで取り上げた津波によってもたらされた福島第一原子力発電所の事故などです。回避可能な失敗も複雑な失敗も、事前に注意を払い対策を立てていれば避けたり被害を最小化することが可能なものです。3つ目の賢い失敗は熟慮して新たなチャレンジをした結果起こるものであり、起きて然るべきことです。新しい製品やサービスの開発には賢い失敗を伴うものです。失敗をリフレーミングして失敗に対する態度や行動を変え、その失敗から学ぶことでイノベーションが生まれやすくなっていきます。
オープンテーブルのクリスタ・クォールズCEOは、失敗をリフレーミングし成功を生む優れた決定をするために、従業員に次のように話しています。
「早く、頻繁にとんでもない失敗を見せて欲しい。完璧である必要はない。ダメなものを見ることで、遥かに素早く軌道修正できるようになるから。」(クリスタ・クォールズCEO)
その他のリフレーミング例
心理的安全性を高めるためには失敗に対する捉え方以外にも、様々な観点から仕事をリフレーミングする必要があります。例えば、率直な発言の必要性や自分達の仕事の社会的価値や目的などに対するリフレーミングも必要になります。率直な発言の必要性をリフレーミングすることで、沈黙する組織から発言する組織へと変化をもたらします。仕事の社会的価値や目的をリフレーミングすることで、チームの方向感が明確になりメンバーのやる気を引き出すことにつながります。
リフレーミングは継続的に行う
リフレーミングされた枠組みを持つ組織では、マネージャーとメンバーの関係性にも変化が生じ、地位に関係なくメンバー全員がチームに貢献する立場にあり、それぞれが持つ知識と知恵が快く共有されます。結果的に、マネージャーはチームとしてより賢明な意思決定と課題解決のための有効な行動を取ることができるようになります。リフレーミングは、一度やったらおしまいではなく継続的に行われる必要があります。状況や関係者が変われば、その都度、意味や枠組みを捉え直し、リフレーミングしたものを再度リフレーミングする必要性が生まれてきます。
まとめ(前編)
本コラムでは、心理的安全性を高めるための要素の1つ目リフレーミングについて取り上げました。適切なリフレーミングを行うことで、心理的安全性が高まり、否定的な態度が肯定的な態度に変わり、避ける行動が減り学習する行動が増えていきます。リフレーミングを行うために大切なことは現在のフレーミングに気づくことです。無意識的に行っているフレーミングに気づくためには、心理的柔軟性という心のスキルが求められます。心理的柔軟性を高めるためには、マインドフルネスの実践が有効です。心理的柔軟性については、別のコラムで取り上げます。
残りの2つの要素「自分も間違えることを認める」「好奇心を持つ」については、次回のコラム「心理的安全性を高めるためにマネージャーができる3つのこと(後編)」でお伝えします。