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人的資本経営

人的資本経営の鍵はEI(後編)

人的資本経営

人的資本経営を実践する時には、理想の状態を描き自社の現状を把握しギャップ認識をした上で、取り組むべき課題を明らかにして、最適なアプローチを試みることが大切です。2022年5月に発行された人的資本経営の実現に向けた検討会報告書の冒頭で、座長の伊藤邦夫氏は、「人材の一人ひとりと向き合い、その価値を見出し伸ばす経営を実践してきたかが、いま真に問われている」と述べています。さらに「自社の企業文化が果たして組織や個人の行動変容を促すようなものになっているか。「メンバー」である社員の間の「一体感」を楽観し、企業文化の変革を断行してきただろうか。」と問題定義をしています。まずは、3つの視点と5つの共通要素を確認しておきましょう。

3つの視点と5つの共通要素

前編では、3番目の視点「企業文化として定着」、共通要素2番目の「環境」と4番目「社員エンゲージメント」に注目して、EIとの関連性を取り上げ、人的資本経営の本質について考えてみました。上司が部下を管理するという従来の官僚的なマネジメント手法を見直し、上司と部下が互いの価値観や個性を理解、尊重し、共に学び高めあう関係を築いていくことを提案しました。

3つの視点

  1. 経営戦略との連動
  2. 戦略のギャップ認識
  3. 企業文化として定着

5つの共通要素

  1. 動的な人材ポートフォリオ
  2. 環境:ダイバーシティ&インクルージョン
  3. リスキル・学び直し
  4. 社員エンゲージメント
  5. 時間や場所にとらわれない働き方

本コラムでは取り上げていない、他の視点と共通要素も、少なからずEIが関わっていると考えられますが、とりわけ、文化、環境、エンゲージメントには、EIが強く関わっていると考えられます。後編では、具体的にEIがどのように人的資本経営に貢献するのか、自己認識と心理的安全性を中心に考えていきましょう。

文化、環境、エンゲージメントはいかにできるのか

文化、環境、エンゲージメントは、そこにいる「人」によって醸成され、出来上がります。文化や環境、エンゲージメントにはチームリーダーの考え方が大きく影響します。チームリーダーはそのことを自覚した上で部下とコミュニケーションを取ることが大切です。

この「人」が、

  • どんな風に感じているか
  • どんな風に考えているか
  • どんな価値観を持っているか
  • どこにやりがいを見出しているのか
  • 将来どんな風になりたいのか

社員自らが自己の中にこれらに対する答えを発見し、これらの情報を上司が部下から汲み取ることで、文化が醸成され、環境がつくられ、エンゲージメントが高まっていきます。社員自らが自己の中にこれらの問いに対する答えを発見するプロセスは、自己認識です。

自己認識とは、自分の内面の状態、好み、資質、直感を知ることで、EIの基盤です。自己認識を深めることが、EIの他の3つの要素、自己管理、社会認識、対人調整に好影響を及ぼし、EIのスキルが高まっていきます。では、いかに自己認識を深めていけば良いのでしょうか。

いかに自己認識を深めるか

EIの基盤である自己認識を深めるには、内からと外から、大きく分けて2つののアプローチがあります。自ら自分の心の中を観察する内からのアプローチと他者との対話や他者からのフィードバックを通じて行う外からのアプローチです。

例えば、内からのアプローチとしては、マインドフルネスの実践やジャーナリングなどの内省が挙げられます。また、外からのアプローチとしては、マインドフル・リスニングを活用した対話や360度評価、1 on 1、コーチングなどが挙げられます。自分自身の状態、組織の文化やフェーズに応じて、最適なアプローチで自己認識を深めていくことが望まれます。

社員が自己認識を深め、自分のことをより的確に認識することで、心理的柔軟性が高まり自分のことを上手にマネジメントすることができるようになるだけでなく、自分にとっての大切な価値観を発見し、現在の仕事の意味合いや内発的動機付けに気づくことができるようになります。

結果的に、働きがいや生きがいを持って業務に取り組むことができるようになり、自発性や主体性が生まれていくでしょう。このような心の姿勢が社員の間に根付いていくことで、3番目の視点「組織や個人の行動変容を促す企業文化」が定着していくことが期待されます。

自己認識ができると共感力が高まる

自己認識ができている人ほど共感力が高いことが、神経科学の知見から確認されています。つまり、自分のことを的確に認識することで、相手のことを的確に理解することができるようになるということです。共感力を持って相手のことを的確に理解することができれば、コミュニケーションの取り方を工夫することができ、ポジティブな人間関係を築くことができるようになります。

上司が自己認識を深めることができれば、普段の部下とのコミュニケーションにおける、自分の言動により注意深くなり、好ましい反応を選択することができるようになります。自己認識を深めることがハラスメントの予防にもつながり、より健全な職場環境が整い、2番目の共通要素「ダイバーシティ&インクルージョン」に繋がっていくでしょう。

自己表現できる心理的安全性を高める

自己認識を深めることができたら、次に何をしたら良いのでしょうか。それは自己開示です。自己開示ができればできるほど、組織内に個性が現れ、多様性のある文化形成がなされ、人的資本経営の実現に近づいていきます。そのための鍵は、心理的安全性です。心理的安全性とは、「支援を求めたりミスを認めたりして対人関係のリスクをとっても、公式、非公式を問わず制裁を受けるような結果にならないと信じられること」です。そして、心理的安全性のある組織とは、「沈黙ではなく率直な発言をし、知識やアイデアの共有を増やし、失敗を恐れるのではなく、対話を通じて失敗から学び合う組織」です。

心理的安全性のある組織では、社員が自分の考えや感情を率直に発言をして、個々人の多様性が認められます。心理的安全性は、2番目の共通要素「個々人の多様性が、対話やイノベーション、事業のアウトプット・アウトカムにつながる環境」につながっていきます。また、自分の存在が認められることで、ますます、やりがいや働きがいを見出し、多様な個人が主体的、意欲的に取り組むようになり、4番目の共通要素「社員エンゲージメント」が高まっていきます。学習するチームとして健全な対話が生まれ、 イノベーションや事業の成果につながる環境が整い、3番目の視点「組織や個人の行動変容を促す企業文化」が定着していきます。

心理的安全性を高めるためにはチームリーダーが自己認識を深める

心理的安全性を高めるためには、チームリーダー自身が自己認識を深めることが求められます。自分の発言が周囲にどのような影響を与えるか、自分の行動がチームの目標や価値観に沿ったものになっているか。チームリーダーは常に自己の言動に注意を払い、責任を持つ必要があります。なぜなら、チームリーダーの言動こそが、チームの心理的安全性に大きな影響を与えるからです。

自己認識を深め自分の言動に気づき、より相応しい自分の行動を選択していくことが大切です。そのためには、心理的柔軟性を高める必要があります。心理的柔軟性は、「開かれた心で今この瞬間起こっていることに気づき、集中力をもって状況に対応し、自分の価値に沿った効果的な行動をする能力」のことです。心理的柔軟性が高まるほど、自分の思考や感情により上手に対処できるようになり、コミュニケーションが円滑になったり仕事で成果を上げたり、人生を豊かで意味あるものとしていくことができるようになります。

まとめ

人的資本経営をいかに組織内で実現していくか。現在抱えている課題に応じて、具体的なアプローチは様々考えられます。3つの視点と5つの共通要素を網羅的に実現していくには、EI以外のアプローチ方法も検討していく必要はあるでしょう。本コラム(前編・後編)では、文化、環境、エンゲージメントに注目して、人的資本経営の本質的なアプローチとして、EIの有効性を検証してみました。個人のEIスキルとしては、自己認識と心理的柔軟性、組織のスキルとしては、心理的安全性を取り上げました。

本コラムで取り上げたような課題感のある企業は、すでにEI心理的安全性エンゲージメントレジリエンス、ダイバーシティ、ハラスメント予防、1 on 1など、組織と個人の課題感に対して、様々な研修やトレーニングをおこなっています。これらの課題感のベースは、人の心にあると考えます。

留意すべき点は、研修で学んだ内容を一生懸命覚えて、テストをして点数を競っても全く意味がないということです。大切なことは、いかに現場で体現し応用していくかでしょう。そのためには、研修のための研修ではなく、本来の目的に則した研修設計をすることと人の心に則したアプローチが欠かせません。

人の心と向き合う時に鍵となるのが、本コラムで取り上げた通り、EIであり、その基盤が自己認識です。まず自分を知ることからはじまっていきます。この自己認識の向上こそが、EIの向上につながります。自己認識を深めた上で、それを自己開示できる心理的安全性を高めることで文化が醸成され、環境がつくられ、エンゲージメントが高まり、人的資本経営が実現していきます。

人的資本経営の鍵はEI(前編)

 

 

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