神経科学者デイビッド・イーグルマン（D・イーグルマン）の記事をご紹介します。「私たちの脳の機能は麻薬ディーラーに似ている」というタイトルです。なかなかインパクトのあるタイトルですが、神経可塑性を見事に表現しているように感じられます。「どんなことに注意を向けるか」「どんなことを考えるか」で脳は変化し、心を作っていきます。

脳は毎秒変化する

脳にはそれぞれ1万もの接続部を持った860億のニューロンがあり、人が生きている毎秒ごとに再構成され続けています。（D・イーグルマン）

つまり、今、このコラムを読んでいる瞬間にもあなたの脳は変化しているということです。このコラムを読み終わるころには、その時間分脳は変化しています。

近年の研究結果で、脳には驚くほど変化する力があり、適切な刺激を与えれば何歳になっても学習や経験を生かして、脳は新しいネットワークを形成し、発達していくことが明らかになってきています。頭に浮かんでは消える思考レベルの、表層的な変化ではなく、脳の物理的な構造において、変化が現実に起きることが確認されています。

このように脳の機能や構造が変化していくことを「神経可塑性」と呼び、神経には環境に応じて柔軟に変化する力があります。テストのような記憶に関わる部分においてのみ、神経可塑性が発揮されるわけではありません。私たちの行動や思考が神経細胞に、そして神経細胞同士の結びつきに影響を与え、その結果、新たな神経ネットワークができたり、活性化されたりして、脳の働き方が変わることが多くの研究で確認されています。

心のトレーニングであるマインドフルネスの実践はその有効な手段であり脳に対する適切な刺激となり、脳の機能と構造を変えていくことが科学的に明らかにされています。この神経可塑性という考え方が定着したからこそ、マインドフルネスが科学の対象とされ、数多くの研究論文が発表されるようになりました。科学の対象ということは、マインドフルネスによる効果に再現性があるということに他なりません。つまり、私たちはマインドフルネスの実践を通じて脳を意図的に変えることができるということです。

脳の変化は麻薬ディーラーの縄張り争い

脳のはたらきはアルバカーキの麻薬密売人に似ている

ニューメキシコ州のアルバカーキ出身のD・イーグルマンは、脳の変化を「麻薬ディーラーの縄張り争い」に例えます。もしも、地震でニューメキシコ州の土地が半分になったら、麻薬の売人たちは、残った土地で自分たちの縄張りを拡大するように、もしも脳の半分が事故で亡くなったとしても、残された脳で神経細胞の繋がりが再編されたり、再接続されその機能を果たそうとしていると説明しています。

ぼやぼやしていると、私たちの脳はどうでも良いことや考えるに値しないことで埋め尽くされ、そのネットワークが強化されてしまいます。意味のあることを考え、有意義なことに時間を費やすようにすればするだけ、脳もそのように配線をしていきます。あなたの脳の中でどんなことが考えられているかを知りたければ、Youtubeのtop画面を見れば一目瞭然かもしれません。

視覚を閉ざすと磨かれる感覚

誰かを1時間目隠ししておくだけでも、その人の脳内では、触覚や聴覚を司る部分が、視覚を司る領域にまで進出し始める（D・イーグルマン）

夢は、視覚系に関わる部位を守るための行動であることを紹介し、進化論的に見ると、地球が夜の闇に包まれた際に、視覚系が乗っ取られるのを防ぐ方法と説明しています。目を瞑って、行う瞑想では、視覚以外の五感が研ぎ澄まされていく感覚を持つ方が多いのも関係があるかもしれません。体の感覚に気づくボディスキャンや音に注意を向ける瞑想、食べるものに注意を向けるマインドフル・イーティングなどでは、視覚を閉ざすことで、より敏感に対象物に気づくことができるようになっていきます。

脳の柔軟性を高めるには好奇心を持つこと

脳は何かに好奇心を持ち、答えを得ているときに最も柔軟になる（D・イーグルマン）

マインドフルネス瞑想で大切にしている心の態度には、いくつかありますがその一つが「好奇心」です。いったい、今、この瞬間何が起こっているのか、何を感じているのか、好奇心を持って今、この瞬間の現実と向き合っていきます。D・イーグルマンは、「好奇心を持ち、答えを得ているときに最も脳は柔軟になる」と説明しています。マインドフルネス瞑想で好奇心を持って実践に取り組み、その都度対象物に注意をむけ、現実に気づくことができれば、脳の柔軟性が高められるということにつながります。

神経科学者デイヴィッド・イーグルマン「私たちの脳の機能は“麻薬ディーラー”に似ている」 | この記事を読む前と読んだ後では、あなたは「違う人間」になっている