マインドフルネスが欧米で受け入れられた理由
欧米で受け入れられた理由
故スティーブ・ジョブズ氏(アップル社の共同設立者)やビル・フォード氏(フォード・モーター社会長)、アリアナ・ハフィントン氏(ハフィントン・ポスト創設者)などの著名な経営者がマインドフルネスを実践しています。Google社、Intel社、Facebook社、LindedIn社、Oracle社などの大企業がマインドフルネスを人材開発の研修プログラムとして企業導入しています。スタンフォード大学、カリフォルニア大学、マサチューセッツ大学、ハーバード大学などの教育機関では、マインドフルネスの教育及び研究が盛んに行われ、医療機関でも積極的にマインドフルネスが導入されています。
NBAのプロバスケットボールチームやオリンピックのナショナルチームがチームビルディングやメンタルトレーニングのためにマインドフルネスを活用しています。イチロー選手やジョコビッチ選手のような一流アスリートがメンタルを整えパフォーマンスを最大化するためにマインドフルネスを実践しています。イギリスでは、国家プロジェクトとして様々な分野でマインドフルネスの有効性を検証し、導入することを提案しています。
なぜ、激しい競争社会の中でハードワークをこなす成功者達が毎日貴重な時間を割いてまで、マインドフルネスを実践しているのでしょうか。また、なぜ、国家のプロジェクトとしてマインドフルネスの調査研究が進められているのでしょうか。
それは、宗教性が排除されマインドフルネスの効果が神経科学で実証され、臨床データが蓄積され理論的な枠組みが示されているからです。
マインドフルネスは、仏教の考え方や実践法をベースにしているものの宗教性が排除されており、誰もが実践しやすいシンプルな方法を考案することで、経営者、ビジネスパースン、アスリート、学生、主婦などに幅広く受け入れられています。神経科学の分野でマインドフルネスについての研究が盛んに行われてきたことや医療機関や教育機関での臨床データが蓄積されてきたことにより、マインドフルネスの効果が科学的に実証されてきました。これを受けて、ストレスケアや人材開発、組織開発の観点から、企業、医療機関、教育機関などでマインドフルネスの導入が広まりました。ビジネスの分野においては、マインドフルネスの実践により、集中力や創造力、記憶力、レジリアンス、自己管理能力や対人調整力などが高まり個人の職務遂行能力が向上することが期待されます。また、共感力や洞察力が高まり、コミュニケーション能力や意思決定能力が向上し、リーダーシップが発揮されることが期待されます。
発展の経緯
アメリカでは、1979年にジョン・カバット・ジン博士(マサチューセッツ大学医学大学院教授・同大マインドフルネスセンターの創設所長)がマインドフルネスストレス低減法(MBSR)を開発し、医療分野でマインドフルネスが広まりました。MBSRでは、患者の症状に対する認知の変化や症状の改善が期待され、様々な臨床データが蓄積されました。また、fMRI(機能的磁気共鳴画像装置)などの脳の状態をモニタリングする医療測定器の発達に伴い、マインドフルネスの有効性を科学的にアプローチすることが可能となり神経科学に基づいたエビデンスが蓄積されました。例えば、マインドフルネスを実践している人と実践していない人の脳の状態を比較したり、マインドフルネスを実践する前と後を比較することで、その効果を測定します。また、ダライ・ラマが「マインドフルネスと脳科学の研究」に高い関心を示し研究機関の様々な調査に積極的に協力しています。瞑想経験豊富な僧侶の脳の状態と一般人の脳の状態を比較調査することが可能となり、マインドフルネスの効果が科学的なデータに基づいて立証されてきています。
2007年には、Google社がマインドフルネスプログラムSIY(SerchInsideYourself)を開発しました。SIYは誰もがマインドフルネスを実践できるようにシンプルにプログラム化されたものです。元々は人材開発、生産性向上のためにグーグル社員向けに開発されたプログラムでしたが、同プログラムの開発者であるチャディー・メン・タン氏のマインドフルネスによる世界平和の実現という想いからGoogle社外にオープン化されました。これをきっかけにシリコンバレーを中心にパフォーマンス向上、人材開発、リーダーシップ開発の方法としてマインドフルネスの企業導入が活発化しました。
イギリスでは、2015年に「MINDFUL NATION UK(マインドフルな国家 英国)」というレポートが議会に提出され、マインドフルネスの可能性についての調査結果と政策が提案されています。国家プロジェクトとして、健康、教育、職場、司法の分野でマインドフルネスを推進していくという提案内容は、国家の将来を見据えた先進的な試みとなっております。各分野において、対象者を設定し、プログラム、トレーニングとして提供することを前提とし、再現性を認め、一定の効果が期待されています。2016年には、「職場におけるマインドフルネスの組み立て事例」として、BT社、アーンスト・アンド・ヤング社、ゼネラル・エレクトリック・カンパニー社、HSBC社、ジャガーランドローバー社などを対象にした調査結果が報告されています。レジリアンス・ストレスケア、人間関係、リーダーシップについての調査が含まれ、引き続き科学的な検証が必要ではあるものの、いくつもの文献調査とメタ分析を踏まえると職場におけるマインドフルネスの有効性についての定性的な証拠が十分揃っていると報告がされています。
日本の現状と今後の展望
日本においても、マインドフルネスは雑誌やテレビ、インターネットなど各メディアで特集が組まれたり、様々なマインドフルネス関連の書籍が出版されるなどその注目度は高まってきています。人材開発やリーダーシップ開発、組織活性化、健康経営に課題を抱えている企業からの高い関心も伺えます。「働き方改革」「ワークライフバランス」が標榜され、企業がいかに人と向き合うかを模索する上で、今後マインドフルネスの重要性はますます高まっていくものと考えられます。
現在、日本の多くの企業はSDG’sやESGの流れを受け、短期的な利益成長から長期的な利益成長にシフトチェンジし、持続可能性の実現を模索しています。持続可能性の実現のための健康経営や組織活性化などの経営課題に対して、マインドフルネスは有効なアプローチとして期待されています。ヤフー株式会社、株式会社クレディセゾン、株式会社LIFULLなど、すでに多くの企業がマインドフルネスを研修プログラムとして導入しています。今後その導入効果が認識されるに従い、欧米各国のようにマインドフルネスに関する取り組みが様々な分野において、ますます活発化していくことが期待されております。