【コラム】マインドフルネスに対する誤解その2 

マインドフルネスって、呼吸のことでしょ?


と誤解される方がいます。今年は鬼滅の刃という映画が流行りました。ストーリーの中で呼吸が大切な要素として組み込まれていることから、この映画を見てマインドフルネスを連想する人もいらっしゃいます。


確かにマインドフルネス において、呼吸はとても大切な行為です。マインドフルネスの代表的な実践法である呼吸瞑想は呼吸なくしては成り立ちません。ただ、マインドフルネス=呼吸という考え方は誤解です。


この誤解を解くためには、3つのことを明らかにする必要があります。1つ目は、マインドフルネスとは何か。2つ目は、マインドフルネスにおける呼吸瞑想の位置付け。3つ目は、呼吸法と呼吸瞑想の違いとは何か。順を追って誤解を解いていきましょう。

そもそもマインドフルネスって何?

まずは、マインドフルネスとは何かを明らかにしていきましょう。


マインドフルネスを非常にシンプルに表現すれば、「気づくこと」となります。今、この瞬間の体の感覚、頭で考えていること、心で感じていること、周囲で起こっていることに気づくことがマインドフルネスです。


ジョン・カバット・ジン博士の言葉を借りれば、

「マインドフルネス とは、特別な形で注意を払うことを意味する。それは、意図的に、今の瞬間に、評価や判断とは無縁に、注意を払うことだ。」

(サーチ・インサイド・ユアセルフ、チャディ・メン・タン著)

と定義されています。


ジョン・カバット・ジン博士 マサチューセッツ大学医学大学院教授


この定義に加えて、10月に開催されたwisdom2.0Japanの講演の中でジョン・カバット・ジン博士は、「マインドフルネスとは心の状態を指しているのではない。認識する意識的な行為そのものがマインドフルネス である。」と述べていました。


ここはマインドフルネスを理解する上で大切なポイントです。マインドフルネスというのは、元々「sati」(パーリ語)の訳語です。マインドフルネスを正しく理解するためには、マインドフルネスの語源である「sati」の意味を理解しておくことが必要です。「sati」の意味には主に3つあると考えられています。


① 言葉以前の気づき ② ありのままの注意 ③思い起こすこと

(マインドフルネス 気づきの瞑想 バンテ・H・グナラタナ著)


「sati」の語源を見ても心の状態を表してはいません。意識的な行為として定義されています。マインドフルネスを英語から読み解いていくと心の状態を表しているように勘違いしてしまうことになります。マインドフルネスの実践に取り組んだ結果、ある心の状態に到るというふうに捉えると良いでしょう。


ここまで見てきたようにマインドフルネス の定義の中には、呼吸という言葉が使われることはありません。

呼吸瞑想は実践法の1つ

では、なぜマインドフルネスが呼吸と誤解されるのでしょうか。おそらく、このように誤解する人は、マインドフルネスで呼吸瞑想や呼吸法を実践するイメージを持っているからでしょう。


マインドフルネスの実践では、気づく力を培っていくために、注意力を鍛えていきます。注意力を鍛えるために呼吸瞑想を実践し、注意の対象として、呼吸が使われます。この呼吸瞑想はマインドフルネス の実践の基本であり、最もよく知られている瞑想法です。多くの入門書やインターネットの情報には、マインドフルネスと呼吸瞑想がセットで語られることも多く、このような誤解が生じていると思われます。


実際には、呼吸瞑想以外にも観察瞑想や慈悲の瞑想、ボディスキャン など様々な瞑想法があります。観察力を鍛えるための観察瞑想、体の感覚をあるがままに感じるボディスキャン、相手を慈しむ気持ちを育む慈悲の瞑想などを実践します。ただじっと座って目を瞑るだけの瞑想法以外にも歩く瞑想や食べる瞑想、手動瞑想など体を動かしながら行う瞑想法もあります。様々なアプローチで心を育み、気づく力を高めていきます。


なぜ、こんなに色んな瞑想法があるのでしょうか。呼吸瞑想だけでも良いのではないかと感じる方もいるかもしれません。なぜなら私たちの心は複雑で、1つのアプローチで心を調えることが不可能だからです。私たちの心はいとも簡単にフラフラしたり、ザワザワしたり、グラグラしたりします。心で起こる現象には、喜び、楽しみ、怒り、悲しみ、妬み、恐怖、不安、様々な感情や思考があります。心は一筋縄ではいきません。いろいろな現象に対処していくには何層にも広がる心の作用を識り、気づいていくことが必要です。


例えば、サッカー選手が、ドリブルだけ練習していても、試合で活躍できません。パスやシュート、ボールの止め方やフリーランニング、スペースの作り方、ボールの奪い方、など様々な動きができるようになってはじめて、試合で活躍することができます。

マインドフルネスも同様で段階を踏んで、心の状態に応じて必要な実践法に取り組み、時間をかけて心に馴染ませていくことが大切です。呼吸瞑想だけをやっていると、偏った心になってしまいます。過度な集中状態になってしまって、周りのことに気づけなくなったり、自分自身の中に埋没してしまう恐れがあります。

マインドフルネスは日常生活の中で生かされてはじめて、役に立ちます。仕事や日常生活の様々な困難に応じるためには、しなやかな心で対処することが重要です。そして、多くの実践法に取り組むことが、しなやかな心を育んでいくことにつながります。

呼吸瞑想と呼吸法の違い

マインドフルネスは呼吸であると誤解してる人の中には、呼吸法を呼吸瞑想のことだと誤解している人もいます。


呼吸瞑想と呼吸法は似て非なるものです。呼吸法にも色々なものがあります。多くの呼吸法の特徴として見られるのは、呼吸をあるルールに基づきコントロールすることです。例えば、4秒で吸って、8秒で吐き出す方法や、腹筋を使ってお腹を力強く膨らませたり凹ませたりする方法や、息を意図的に止めたり、長く吐き出す方法などがあります。


このように呼吸法では、呼吸そのものをコントロールするのに対し、マインドフルネス で実践する呼吸瞑想では、呼吸をコントロールしません。できるだけ自然な呼吸をして、あるがままの呼吸に注意を向けたり観察したりします。



呼吸法では呼吸をコントロールすることで、主に体に働きかけ神経系や血中の二酸化炭素濃度、pHなどの生理学的な変化を意図的にもたらそうとします。一方、呼吸瞑想では、自然な呼吸に注意を向け、主に心に働きかけ気づく力を鍛える副産物として、自律神経が調ったり、体温に変化が生じます。呼吸法は直接的に生理学的な変化を促すアプローチで、呼吸瞑想は、間接的に生理学的な変化が生じるアプローチと捉えることもできるでしょう。

決して、呼吸瞑想は体を軽んじているということではありません。座禅の取り組み方で、調身、調息、調心と言われるように、まず体を調え、安定感のある姿勢で座ることが呼吸を調え、心を調えていきます。ただそこには力を加えたり、コントロールしようとする意図はなく、自然体で安定感のある姿勢を保つことが重視されます。


以上、マインドフルネスに対する誤解その2では、マインドフルネスと呼吸の誤解を紐解いてみました。マインドフルネス とは何なのか、呼吸瞑想の位置付け、呼吸瞑想と呼吸法の違いについて、お分かりいただけたら嬉しく思います。本コラムをお読みいただきありがとうございました。

目覚めのマインドフルネス

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