良い面ばかりが強調されるマインドフルネスですが、その影の部分についてもしっかり検討していく必要があることが池埜教授から示されました。3つの問題、「組織構造問題から個人問題への転嫁」「倫理的問題」「歪なカルチャー形成と多様性に対する閉塞感」について、マーフィー教授が示した「Relational Mindfulness」を軸に、「セルフコンパッション」と「コンパッション」の切り口からアプローチしてみたいと思います。

セルフコンパッション

「セルフコンパッション」は、自分を慈しむ、自慈心です。忙しい日常生活、調和を重んじる日本社会のなかで、私たちは、自分のことより周囲のことを優先してしまい、自分に厳しく接してしまいがちです。失敗や挫折を経験すると不必要な言葉で自分を責めたり、非難したりしてしまいます。もしも友人や家族の誰かが同じような失敗をした時には、優しく勇気付ける対応をするにも関わらず、自分にはそうできない自分がいます。友人や家族に接するように自分自身にも優しく接してあげることが大切です。そのことにまずは気づくことからセルフコンパッションは始まります。

「セルフコンパッション」については、京都大学大学院の岸本研究員が、「マインドフルネス&セルフコンパッションが導く心のつながり」というテーマで講演し、実践ワークを体験することができました。



セルフコンパッション 〜3つの要素〜

岸本研究員は、セルフコンパッションの第一人者であるテキサス大学のクリスティンネフ准教授の考え方を説明しました。セルフコンパッションには3つの大切な要素があります。「マインドフルネス」「人類の共通性」「自己への優しさ」です。

「マインドフルネス」

私たちは、自分の感情を自分自身と感じてしまい、自分と感情を過剰同一視してしまうことがあります。怒ったり、悲しんだりした時に起こる感情は、自分自身ではありません。感情を自分そのものであると考えるのではなく、怒りや悲しみという感情を経験していることに気づくことが大切であり、そのためには「マインドフルネス」が有効なアプローチになってきます。


「人類共通事項」

自慈心が低いと、失敗の原因は全て自分にあり、その失敗の影響は永遠に続くと誤解してしまうことがあります。悩みや失敗は「人類共通事項」で、人間であれば、誰もが経験することです。自分だけが悩み苦しんだり、失敗する訳ではありません。人である以上、失敗して当たり前、悩んで当たり前という風に悩みや失敗の原因を自分から切り離して考えることが大切です。

「自分に対する優しさ」

失敗や挫折を経験すると不必要な言葉で自分を責めたり、非難したりしてしまいます。もしも友人や家族の誰かが同じような失敗をした時には、どのように対応するでしょうか。失敗や挫折から立ち直るためには、自分を責めたり、非難したりするのではなく、「自分に対して優しさ」を向けることが大切です。

セルフコンパッションとRelational Mindfulness

セルフコンパッションが高まると、自分を大切にして不必要に自分を責めることなく、慈しむことができるようになり、本来の自分とつながることができるようになります。より健康的で健全な人生の選択をすることができるようになっていきます。自分とつながることができれば、相手や周囲とのつながりも生まれポジティブな人間関係を築くことができるようになります。そうすることで、組織の中でも、相手を思いやるような行動を取ることができるようになったり、多様性を受け入れる受容力が高まっていくと考えられます。「セルフコンパッション」は、「Relational Mindfulness」のベースとなりえましょう。

コンパッション

「コンパッション」は、慈悲心です。相手の気持ちや感情に寄り添い、その苦しみや悩みを取り除こうとすることです。実際には、私たちは他者の苦しみを取り除くことはできません。自分の苦を自分の手で取り除く手伝いをすることしかできません。相手を見守り、共に過ごし、相手が必要としている時に言葉をかけたり手を差し伸べるのが、一つの慈悲の行いということになりましょう。

「コンパッション」については、京都大学大学院の藤野助教授が、「苦しみを抱えた人と共にいること」というテーマで脳科学研究の調査結果を交えながら講演をしました。


「コンパッション」のベースにあるのが共感です。共感は、生まれた時から我々には備わった感情であり、育まれていくものです。いわゆるサイコパスは、他者の気持ちや感情に共感することができません。我々は通常、相手が辛そうだ、相手が助けを必要としている、相手が傷ついている、そのようなことを表情や言葉、雰囲気から読み取り、何ができるかを感じたり考えたりすることができます。藤野助教授は、fMRIの研究結果を示し、パートナーの痛みを見ると、自分が痛みを感じる時と同じ感情関連の皮質(前部帯状回、前部島皮質)が活性化することを説明しました。

(出典: ZEN2.0藤野氏資料)



コンパッションと共感疲労

また、藤野助教授は、この共感には、共感疲労という精神的苦痛を伴うことがあると説明しました。相手の感情や状況にどっぷりと浸かってしまい、自分の感情と相手の感情を区別することができなくなるために、その苦痛を自分のものとして受け止めてしまい、疲労してしまうことがあります。このような共感疲労は医療現場やボランティアの現場で多く見受けられます。自分自身に視点を向けてしまうと、相手の状況を過去の自分の状況と重ね合わせ、過去のネガティブな経験を思い起こしてしまい、共感疲労を招いてしまいます。マインドフルネスの実践で心の柔軟性を保ち、しっかりと自分と相手の感情を区別し、相手に視点を向け、その上で自分にできることを考え実行していくことが大切となります。

(出典: ZEN2.0藤野氏資料)

コンパッションとRelational Mindfulness

共感疲労ではなく、コンパッションを育むことができれば、相手とのつながりが生まれ、コミュニケーションは円滑になっていきます。組織内でもコンパッションを持って行動することができれば、信頼感が生まれ活気あるチーム作りができて、リーダーシップを発揮することができるようになるでしょう。コンパッションのベースは、セルフコンパッションです。自分のことを慈しむことができて、はじめて相手のことも慈しむことができるようになります。コンパッションは「Relational Mindfulness」のベースになると同時に、自分のことを考えるだけでなく自分と関わりのある周囲に対しての思いやりが生まれ「Think Global, Act Local」へと繋がっていくと考えます。コンパッションは、「組織構造問題から個人問題への転嫁」「倫理的問題」「歪なカルチャー形成と多様性に対する閉塞感」この3つの問題を解決する糸口となるでしょう。

考察 〜まとめ〜

Relational Mindfulness

池埜教授が示した3つの問題、「組織構造問題から個人問題への転嫁」「倫理的問題」「歪なカルチャー形成と多様性に対する閉塞感」は、今後日本でも同様のことが起こるかもしれません。すでにアメリカでそのような状況にあることを知ることは有意義なことだと感じます。セルフコンパッションとコンパッションを育み、自分との「つながり」と人との「つながり」を生む「Relational Mindfulness」がその対応の鍵になると感じます。マインドフルネスプロジェクト では、「Relational Mindfulness」を「相手の状態に気づき、自分の状態に気づき、両者の関係性を深めていくためのマインドフルネス」という風に解釈しております。

マインドフルネスプロジェクト のアプローチ

とりわけ企業向けマインドフルネスにおける「組織構造問題から個人問題への転嫁」については、マインドフルネスプロジェクト では、クライアント企業と取り組む課題を明確にして焦点を絞りながら、慎重かつ最良のアプローチを提案して参ります。どのような目的でマインドフルネスを活用し、その目的が誰のためのものなのかを明確にし、組織や地域全体がその恩恵を享受できるかを検討することが大切であると考えております。

例えば、企業がストレスケア のためにマインドフルネスを導入するならば、形式的に取り入れるだけでなく、実質的に効果が出るようにしっかりとプログラムを組み立て、プロのファシリテーターに依頼し効果を検証していくことが必要でしょう。その上でストレスを個人の問題として捉えるだけでなく、チーム内のコミュニケーションやハラスメント、企業文化、エンゲージメントなど多角的な観点からその原因を探っていくことが大切になります。本来、組織の中で起こる問題というのは、人と人との関わり方の中で生まれるものです。どのように人と関わり、どのような人間関係を構築するかは、その人の資質や組織文化にも左右されます。個人の問題、組織の問題、両方を踏まえた上で具体的な対応をしていく必要がありましょう。


マインドフルネスはコミュニケーションを円滑にして、今回のZen2.0のテーマでもある人と人の「つながり」を生むことができます。マインドフルネスプロジェクト では、ポジティブで建設的な人間関係を構築するためには、自分の状態に気づく「マインドフルネス」、自分を慈しみ自分とつながる「セルフコンパッション」、相手の難しい状況のために行動する「コンパッション」が非常に大切だと考えております。セルフコンパッションやコンパッションは、サーチ・インサイド・ユアセルフのコンテンツの一部でもあります。まさに、VUCA時代のリーダーに求められる資質と言えるでしょう。そして、自分を調える「マインドフルネス」から、相手や周囲、環境を調えていく「Relational Mindfulness」は企業経営において価値ある考え方となるでしょう。



伝える側の質

マインドフルネスプロジェクト は、マインドフルネスがもたらす影の部分や諸問題にも真摯に向き合い、マインドフルネスが一過性のトレンドやブームで終わってしまわぬよう、本質的なマインドフルネスの普及に努めて参ります。


今回、提示された3つの問題の原因として、マインドフルネスを伝える側の質の問題も挙げられると思います。今後、マインドフルネスを伝えていく人の意識、モラル、倫理観が問われていくことになるでしょう。日本では、アメリカと違った日本のカルチャーに則した問題や影の部分が現れるかもしれません。マインドフルネスプロジェクト では、欧米の取り組み事例やプログラムを検証し、日本のモラルや倫理観に照らし合わせながら、マインドフルネスを日本で適切に受け入れられるように日本式に変換しながらお伝えしていくよう努めて参ります。

また、マインドフルネスが広く行き渡るに従い、マインドフルネスのファシリテーターも増えていくことが予測されます。その中には適切なトレーニングを受けていないファシリテーターが生まれてしまう恐れがあり、マインドフルネスの質を低下させたり、3つの問題のような社会問題が浮かび上がってくるリスクがあります。マインドフルネス業界の今後の課題として質の良いファシリテーターを育成していくことが挙げられます。マインドフルネスプロジェクト でも、プロとして確かな知見と経験を有するファシリテーターとのパートナーシップを進めると同時に後進の育成にも取り組んで参ります。


2019年9月21日、22日に建長寺で開催されたZen2.0の様子をレポートします。

Zen2.0とは

Zen2.0は、2017年から始まった「マインドフルネス」と「禅」を分け隔てなく体験できる国際フォーラムです。日本文化に大きな影響を与え続けている伝統的な「禅」とアメリカで大きく発展し日本に逆輸入された「マインドフルネス」が、社会にもっと知られれば、より良い世の中になるという想いで、三木康司氏と宍戸幹央氏によって立ち上げられた企画です。三木氏と宍戸氏は、鎌倉をベースにマインドフルネスを企業や個人、地域社会に広く伝える活動に力を注がれています。


Zen2.0のユニークなところは、鎌倉は建長寺という由緒正しき歴史のある禅寺で、「マインドフルネス」と「禅」という異質なものと捉えられがちなものを同じ場所に並べ、多種多様な分野から様々な講演者が登壇し、「マインドフルネス」や「禅」について最先端の知の共有がなされることです。ただ知識を得るだけでなく、様々なワークを実践したり、日本の伝統文化に触れたりすることができるのもZen2.0の特徴です。



テーマ 〜つながり〜

今年のテーマは「つながり」でした。自分自身とのつながり、家族や友人とのつながり、参加者同士のつながり、地球、自然とのつながり、マインドフルネスと禅のつながり、などなど、様々な切り口でこの「つながり」が紡がれていきました。


登壇者は、総勢28名、多士済々です。例えば、僧侶、大学教授、マインドフルネスの指導者、脳科学研究者、舞踏家、茶道教授、教育家、企業経営者、翻訳・執筆家など、一線で活躍されている方々がご自身の経験や研究結果をお話されます。また、瞑想や茶道、舞踏、ヨガなどの体験ができます。


複数のプログラムが同時並行で進行するため、全プログラムに参加することは叶わず、参加者は自分の興味のあるものに参加します。歴史のある建長寺という非日常の空間で、「マインドフルネス」や「禅」に興味のある参加者との交流や様々なワークの実践、最前線の知性に触れることで、身体と心に心地よい緊張感がもたらされ、穏やかで刺激的な時間が流れていきます。


「アメリカにおけるマインドフルネス・ブームの光と影」

関西学院大学の池埜教授とスタンフォード大学のスティーブン・マーフィー重松教授の講演は、「アメリカにおけるマインドフルネス・ブームの光と影」というテーマでした。


池埜教授は、2012年のデータを示し、アメリカでマインドフルネスを日常に取り入れている人は総人口の4.1%、930万人もいると報告しました。これは、元々アメリカではマインドフルネスがMBSR(マインドフルネスストレス低減法)等のストレスケアのためにプログラムが開発されたことが背景にあり、補完代替医療として幅広く医療機関に導入されていったことも影響していると考えられます。


また、未成年者も92万7000人が実践していると報告がありました。この背景には近年アメリカの教育現場で広がりを見せている「SEL」の流れがあり、約6,000の小中学校でマインドフルネスが正式科目として実践されています。「SEL」とはSocial and Emotional Learning の頭文字をとったもので、「感情を理解し適切に対処する、前向きな目標を設定し達成する、他人に対して思いやりを示す、他者と良い関係を築き維持する、責任ある意思決定をする一連のプロセスの学習」とされています。(教育団体CASEL(Collaborative to Advance Social and Emotional Learning)の定義)

アメリカでは、80年代からSELを活用することで、生徒の問題行動が減少し、学力も上昇することが明らかになってきており、「自分の感情を客観的に認識する方法」「衝動をコントロールする方法」「ストレスを軽減する方法」として、その有効性が認められていました。

「Mastery」から「Mystery」へ

マーフィー教授は、アメリカ人の学生は、「ダックシンドローム」になっているために、マインドフルネスが必要とされていると説明しました。ダックシンドロームとは「一見、物静かで知的に見える学生たちが、悠々と泳ぐ水面下で足をバタつかせるカモのように、内面ではもがき苦しんでおり、孤独や将来に対して不安を抱えている実態」のことです。勉強に追われながら、SNSやゴシップ、様々な情報に塗れてストレスを感じなら、スクールライフを過ごしている裏返しということでしょう。


また、現在の教育現場では、先生は知識だけを教室に持ち込み、智恵や、心、精神は教室の外に置いてきてしまうことを嘆いていました。これでは先生と生徒の間には「つながり」が生まれず、心の通った本来の教育が施されません。マーフィー教授は、このような状態を「Mastery」と「Mystery」という言葉を使って表現しました。

現在の教育現場は、「Mastery」になっており、知識を獲得することに重きが置かれ、知識で生徒のことを管理しようとしている。本来は、先生にも生徒にも好奇心を持って「Mystery」を解いていく姿勢が望まれ、そこには智恵の共有や人間性を育むことが含まれている。


そのような状況を踏まえて、マーフィー教授は、マインドフルネスの実践が必要とされていることを実感しマインドフルネスを授業に取り入れてるとのことでした。その授業は非常にユニークで、例えば、「喋らない生徒を評価する」そうです。アメリカでは通常発言する人が評価されるよう教育されてきているので、授業中はみんな活発に自分の意見を言おうとします。その際学生の頭の中では、次に自分が何を言うかに注意が向かい、人の話を聞いていません。スティーブ教授は、沈黙よりも大事なことがあれば喋るように指導し、教授の話を黙ってちゃんと聞ける人を評価するそうです。授業の中でマインドフルリスニング が生かされているエピソードです。

「3つの問題」

このように、アメリカではマインドフルネスが社会的に広く受け入れられていく一方で、いくつかの問題が浮き彫りになってきていると池埜教授から報告がありました。

① 「組織構造問題から個人問題への転嫁」

企業向けのマインドフルネスは、人間関係、ストレス、リーダーシップ等いろんな問題を解決できる一方で、組織の構造上の問題を個人に帰結してしまい、本質的な組織の構造問題を隠してしまう恐れがある。


② 「倫理的問題」

価値中立的なマインドフルネスは軍隊でも使われ倫理的な問題を孕んでいる。トラウマの治療や社会復帰のために使われるだけでなく、集中力を高めるなどの軍事スキルを磨くためにも使われている。


③ 「歪なカルチャー形成と多様性に対する閉塞感」

2017年のデータでは、マインドフルネス実践者の83%が白人系で、大学卒業の富裕層、女性が積極的に取り組んでおり、自己実現の道具として使われナルシズム文化を形成してしまい、多様性に対して閉鎖的な考え方になってしまうことがある。


「3つの問題」に対するアプローチ

これらの問題に対する明快な回答は講演の中ではありませんでしたが、マインドフルネスプロジェクト は、マーフィー教授が残したコメント「Think Global, Act Local」「Relational Mindfulness」に解決のヒントがあるように感じます。

「Think Global, Act Local」地球規模で考えて、地域社会で活動する。マインドフルネスプロジェクト では、これを「相手や組織、社会のことを考えたうえで、自分が置かれている状況において、目の前の今できることをしっかりとやる」という風に解釈しました。

「Relational Mindfulness」今回のZen2.0のテーマでもある「つながり」を深めるうえで、必要なのがこの関係性の中で気づくマインドフルネスだと思います。マインドフルネスプロジェクト では、これを「相手の状態に気づき、自分の状態に気づき、両者の関係性を深めていくためのマインドフルネス」という風に解釈しました。


「つながり」をキーに、この「Think Global, Act Local」「Relational Mindfulness」のなかに、「3つの問題」に対する答えのヒントが含まれていると感じます。マインドフルネスプロジェクト は、「セルフコンパッション」や「コンパッション」がそのアプローチとなると考えます。


レポート後編では、「セルフコンパッション」「コンパッション」の切り口から、これらの問題に対してのアプローチを考察してみたいと思います。また、マインドフルネスを伝える側の責任と価値観にも触れてみたいと思います。

〜Zen2.0 レポート 後編へつづく〜