「コラムVol.5」〜「勘と経験」からデータ・ドリブンの人事へ〜

2019年4月3日に、ビジネス・ブレークスルー大学(BBT大学)麹町校舎で開催されたタレントマネジメントのセミナーレポートです。

「勘と経験」からデータ・ドリブンの人事へ〜人事データを活用して社員の才能を引き出すタレントマネジメントの世界〜

このテーマに30名ほどの参加者が集まりました。BBT大学の在学生や卒業生が多く、ベンチャー企業の経営者も参加していました。スピーカーは、BBT大学経営学部准教授で、株式会社サイダス執行役員の諸橋峰雄さん。

タレントマネジメントについて解説する諸橋さん


事前課題:ハーマンモデル「効き脳」



ファシリテーター伊藤の効き脳は、戦略家思考タイプ


事前課題として、ハーマンモデルの簡易版に答えて「効き脳」の把握がありました。

ハーマンモデルは、GEの能力開発センター所長であったネッド・ハーマンが、ビジネス環境のために開発した、人の「利き脳」を知るための手法です。「利き腕」や「効き目」があるように、脳にも「効き脳」があり、その人の思考の特性を決めるものと考えられています。そして、各人の思考の特性は、その人のコミュニケーションや、意思決定、問題解決、マネジメントスタイルなどあらゆることに影響を及ぼしていると考えられ、大きく4つのタイプに分類されます。

ハーマンモデルの「効き脳」4タイプ



  • ・Why を発見する戦略家タイプ
  • ・Whoと過ごす協調家タイプ
  • ・Whatを理解する分析家タイプ
  • ・Howを適用する実務家タイプ


アイスブレークのワークとして、効き脳のタイプごとに分かれそれぞれの「トリセツ」を作成しました。戦略家グループの「トリセツ」は、以下のような内容でした。

  • ・(得意なこと)− 妄想する、新しいことを考える、整理する、聞く
  • ・(苦手なこと)−細かい作業、指図されること
  • ・(仕事の進め方)−まずやってみる
  • ・(やる気スイッチ)−褒められる、新しい人やアイデアと出会う、権限



ハーマンモデル 「効き脳」4タイプの思考癖



タレントマネジメント 「人選ワーク」


このハーマンモデルを踏まえて、人選のワークがありました。以下のリスト5名の中から幹部候補を1名、新規事業リーダーを1名選びます。このデータに加え、どんなデータが加われば何が更に分かるようになるかを考えます。

人選リスト


このワークの要点は、「人選」という思考プロセスを通じて自分たちの中にあるバイアスを知ることと、選ぶ前にどのような幹部、リーダーが望まれているかを描けたかを知ることです。


このデータだけでは、事業内容はもちろん、企業フェーズがどの段階で、どのような企業文化があるのか、各候補者の年齢や職歴も分かりません。人選に限らず何かを決めるときには、全てのデータが揃っているとは限りません。限られたデータの中で、どのように最適な解を選んでいくかは、データを活用する人の能力と感性に掛かってきます。


例えば、「幹部であれば、戦略思考であるべきだ」と考えれば、幹部としては必然的にAを選出することになります。他の要素が加味されない、まさにバイアスがかかった状態と考えられます。


また、今あるデータの中で人選に必要のないデータは排除する必要もあります。例えば、幹部選出には現在の所属部門はあまり考慮しなくても良いかもしれません。


このように自分たちのバイアスに気付きながら、データの是非を問いながら、人選という作業をしていくことが必要であると、講師の諸橋さんから説明がありました。


そして、そもそもタレントマネジメントの人選において大切なことは、そのポジションに望まれる人物像をまずは描けるかどうか、だという説明がありました。その人物像が描けなければ、どんなにデータが揃っていてもそのデータを生かしきることができず、好ましい結果には結びつかないとのことでした。


このワークでは、データを活用したタレントマネジメントにおいて、自分たちが成し遂げたいターゲットを明確にすることの重要性とデータの見方、自分たちの中にあるバイアスの存在を把握することがよく分かりました。


それでは、タレントマネジメントの世界を具体的に見ていきましょう。

タレントマネジメントとは?



タレントマネジメントとは


タレントマネジメントは、組織内のライフサイクルを統合的に扱う方法論、および関連するシステムのことで、採用、目標管理、評価、人事戦略、後継者育成まで、そのカバーする範囲は非常に多岐に渡ります。タレントマネジメントを導入するに当たって、どの領域で何をしたいかのターゲットを明確にすることが、タレントマネジメントの入口になります。

人事の役割の変化



組織ステージと人事の役割


タレントマネジメントが注目されている背景には、人事の役割の変化があります。


世の中の民間企業には、業績目標があり、それを合理的かつ効率的に達成していくことを目指す「達成型組織(オレンジ)」が多い中で、「ティール組織(濃い緑)」のような成功モデルが取り上げられるようになりました。「ティール組織」は、生命体のような有機的な組織モデルで、上下関係や、管理が少ない環境で、チームワークが発揮され、組織の存在目的を追求していきます。このような組織形態の変化とともに、人事部門の役割にも変化が現れています。


トップダウンで指示したり、計画と管理を重んじる「組織目線」の人事から、社員を巻き込み、社員の満足度を向上させる「Engagement」や必要な場や環境を提供し社員の自立を促す「EmpowerExperience」を重視する「個人目線」の人事へとその役割が変わってきています。

Engagementと生産性


Gallup社の調査によれば、Engagementが高まると生産性や利益が22%向上するという結果が出ています。Engagementとは、会社と従業員の結びつきのことで、従業員が会社に対して愛社精神を持ったり、仕事への愛着心を持ったりすることで会社と従業員が共に成長していく関係を表しています。

日本企業のEngagementスコアは低い




日本企業のEngagementスコアは低く、グローバル平均が65%に対し、日本企業は40%弱です。Engagementが高ければ、優秀な人材の流出を止めることができます。2018年のラスベガスで開催されたHRTechカンファレンスで発表された内容を元に、世界のCEOの関心事は、「トップタレントの獲得とその維持」であり、そのためにはEngagementを高めるタレントマネジメントが必要であると説明がありました。

世界のトレンドと日本の現状




グローバルではHRTech市場は伸びており、米国では2014年15億USD、2015年24億USDが投下されており、2014年から2017年までに合計55億ドルのベンチャーキャピタル投資が行われています。主なツール導入の目的としては、リクルーティング、eラーニング、評価管理、新メンバーに組織の文化やルール、オン・ボーディング・プログラム(仕事の進め方などにいち早くなじませ、パフォーマンスを引き出すための教育・訓練プログラム)、人事戦略、給与査定などがあります。


一方、日本ではタレントマネジメントシステムを導入している企業は13%で、検討している企業を含めても3割弱という状況です。導入目的としては、社員プロファイル、人事考課、目標管理、キャリア開発、スキル管理、研修管理などです。

HRTeckのトレンド


HRTechのトレンドは、主に6つです。

・Slackが企業内でのコミュニケーションツールとしてデファクト化しており、Slack上のデータがシステムに流れるようになっていて、データ収集及び管理においてSlackが重要視されています。

・モバイルでの活用が優先されています。

・自動化されたタスクを実行するボットの活用度が増しています。ボットの活用により、従業員の経験が高まり、仕事の流れを可視化、整理することが可能となり、仕事の流れそのものが変わります。

・AIが実用段階にきています。一つの事例として、画像認識で応募者の顔の表情を読み取り、その人の性格まで読み取り採用可否を決定するツールが開発されています。

・採用分野においては、日米で共通項目が多く、ツール開発においては自動化、効率化、高精度化が図られています。

・分析とプラットフォーム化が進んでいます。今まで勘や経験に頼っていた、配置転換などをや1on1の実施をデータ分析に基づいて判断します。



期待される効果



データの格納、説明から予測、対策へ


今まで勘と経験に頼っていた人事事項において、タレントマネジメントシステムを導入することで、予測や対策がしやすくなることが期待されています。ガートナーのレポートでは、人事の予測分析をする企業は、利益を2割増やすと報告しています。そのような期待がされる一方で、現状は必要なデータが不足していたり、この分野の人材が不足しているために、なかなかツールの導入までに至っている企業は少ないのが現状です。

データの収集状況

タレントマネジメントの実現のために




タレントマネジメントの実現のためには、何が必要なのでしょうか。


運用において抱える悩みは顧客毎にそれぞれで、かつ悩みはひつとではなく様々な悩みを抱えているケースが多いです。タレントマネジメントを導入するに当たって、まず取り組むべきは論点整理です。

  • 人事課題は何か
  • 課題に対してどのようなデータが必要か
  • 今のデータで何がわかり、何が分からないか
  • データの収集、管理方法
  • どのように人材を可視化するか
  • どのように育成、配置、採用に使えるか


以上のような論点を整理し、システムの運用、流れを理解することがタレントマネジメントの実現のはじめの一歩であり要点になってきます。

仮説検証サイクル


タレントマネジメント運用の成功の鍵は、仮設の設定と検証を繰り返すサイクルをまわすことです。データを「作る」「見る」「活かす」の3ステップを繰り返すことで実現できます。

・「作る」− どのようなデータを集めるかを考え、実際にデータを収集、更新し、一元化します。

・「見る」− 蓄積されたデータを加工処理して可視化します。

・「活かす」− 可視化されたデータを元に分析し、意思決定を行い、実行します。




例えば、残業が多い部署に対するアプローチとして、担当者の能力、業務内容、組織文化という切り口でデータ分析を行い、必要なスキルの向上策、配置転換、業務配分の見直し、情報共有の効率化、上司への指導、評価指標の見直しなどの対策を浮き彫りにします。

まとめ


タレントマネジメントは、目的とゴールが大事です。そのカバー範囲は広いためまずは成功イメージを描き、そのイメージに対し「今ある」データでできることを考えます。その上で必要なものを揃えていきます。また、現状の企業フェーズ、人事フェーズに合わせた施策を適用する必要があります。システム導入や理想論だけではタレントマネジメントは実現できません。そして、スモールスタートで「作る」「見る」「活かす」の仮説検証サイクルを回し、データを蓄積して精度を上げていきます。タレントマネジメントは、日本ではまだまだこれからの分野ですが、雇用慣行や社会制度の枠組みが変化していく中で、今後注目される人事戦略の一つとなっていくでしょう。