前コラムでは、体の免疫における「自己」と「非自己」の識別の重要性について触れた。免疫細胞が「自己」の「非自己化」を観察、発見するプロセスの中で、免疫システムは、生化学的な「自己認識」から始まることを説明した。

マインドフルネスにおいても「自己認識」は大切な考え方である。「認識」や「観察」という精神活動を通じて、「自己認識」を深め、これらの行為が心の免疫力を高めることにつながる。


マインドフルネスとは


マインドフルネスとは、一言にまとめれば、「気づいていること」である。何に気づいているかというと、今、この瞬間の自分の心の状態、自分の体の感覚、周囲の状況に気づいているということである。

「今、ここ」と表現されるように、今この瞬間、自分がいるこの場所で、心、体、周囲で何が起こっているかに気づいていくことである。

今、自分の心にはどんな感情や考えがあるか。自分の体には緊張やこわばり、かゆみや痛みなどどんな感覚があるか。周囲には誰がいてどのような会話がなされ、どのような場所でどのような状況なのか。


あるがままに


マインドフルネスは、これらのことを「あるがままに」気づいていく=「認識」していくということである。「あるがままに」というのは言うほど易しい事ではない。ここでは2つの理由を示す。

1つめの理由としては、私たちの心はいとも簡単に過去や未来に彷徨ってしまうからである。心というのは、なかなか現在にとどめておくのが難しい代物である。「あるがままに」気づいていくためには、彷徨いがちな心をしっかりと自分の体がある場所に落ち着けることが必要である。

2つめの理由としては、私たちは知らず知らずのうちに心に色眼鏡をかけているからである。そして、私たちは心の色眼鏡を通じて物事を見てしまう癖がついているからである。

この色眼鏡は、本能、幼少期の親の教え、学校教育、社会通念、友人、マスメディア、宗教、地域文化など様々な要因から影響を受け作り上げられていく。「思い込み」や「勘違い」はこの色眼鏡から生み出される。「あるがままに」認識していくためには、色眼鏡をかけていることに気づき、その色眼鏡を外して物事をしっかりと「観察」する必要がある。

心の免疫力


これらのプロセスを経て、「自己認識」を深めていくことができるようになるわけだが、「心をしっかりと自分の体がある場所に落ち着けること」「色眼鏡を外して物事をありのままに観察すること」というのは易しいことではない。

これらを実現するために、瞑想やボディワーク、ジャーナリングなどのマインドフルネスの実践方法がある。これらの実践が、心をトレーニングをしていくことにつながる。

心をトレーニングすることで、心の柔軟性と筋力が鍛えられ、心を今この瞬間にとどめることや色眼鏡を外すことができるようになり、今この瞬間に起こっていることをありのままに認識することができるようになる。つまり、自分の心の状態、体の感覚、周囲の状況に気づいていくことができるようになり、自己認識を深めていくことにつながっていく。

この心のトレーニングをこのコラムにおいては、「心の免疫力」を鍛えると表現したい。


体の免疫と心の免疫の共通項は自己認識


前コラムで取り上げた「体の免疫」において、免疫の中枢器官として胸腺について取り上げた。実はこの胸腺は免疫細胞の教育機関でありトレーニングジムなのである。ここでどのようなトレーニングを行うかというと、自己の細胞を識別できる能力を高めるトレーニングを行うのである。

もしも自己の細胞を自己と識別できなければ、自己の細胞を攻撃してしまい自己免疫疾患の原因になるリスクが高まったり、外敵が侵入してきたときに非自己と認識できなくなり、免疫システム全体が機能しなくなってしまう。

このトレーニングを経て自己を認識できるようになる免疫細胞は極めて少なく、実際に胸腺の外に出て体内で活躍できる免疫細胞はごくわずか、数%である。残りの95%以上は、胸腺の中で死滅する。まさに死のトレーニングをくぐり抜けた免疫細胞のみが体内で活動することを許されるのである。

生き残った免疫細胞はしっかりと自己と非自己の識別ができるよう訓練された細胞であり、いわばエリート細胞なのである。つまり、「体の免疫」においても自己と非自己を識別し、自己を認識するというのは容易ではなく、トレーニングが必要なのである。

「自己認識」というのは、「体」においても「心」においてもそう簡単ではないのである。それでもトレーニングすれば、免疫細胞が自己を識別でき外敵排除のために活躍できるようになるように、「心の免疫力」を鍛えることで、しっかりと自分の心、体、周囲の状態を認識することができるようになっていく。



刺激と反応


前々回のコラムでは、インフォデミック(情報)、エクスペリデミック(経験)を取り上げた。情報や実際の経験は、心に対して様々な刺激を与え、私たちの心を乱す要因となる。これらは、体の外からの刺激になるが、この外からの刺激をきっかけに自分の心のうちに湧き起こる様々な感情や思考も内からの刺激となり、心を乱す要因となる。

刺激が与えられれば、何らかの反応がある。どのような反応をするかは人それぞれであり、その人の心の状態やその人がかけている色眼鏡もその反応に大きく影響を与える。

マインドフルネスの状態を作り出せれば、現状をあるがままに認識することができるようになり、より好ましい反応を選択できるようになっていく。トイレットペーパーがなくなるといった情報に対して、どのような反応を示し、どのような行動をするか。その情報をどのように受け止め、認識するかで、その反応も行動も変わってこよう。



情報=刺激


私たちの身の回りには、今どのようような刺激があるだろうか。

情報化社会において、情報は刺激の最たるものである。テレビ、ラジオ、インターネット、SNS、様々な経路で私たちは情報にアクセスできる。非常に便利である反面、ネガティブな情報にさらされていると心の健全性を保つことが難しくなっていく。

ここに心の免疫力が試される。その情報が自分にとって有益なものなのか、それとも、ネガティブな感情を惹起し鬱々とした気持ちにさせるものなのか、しっかりと識別していくことが大切である。

情報という外部からの刺激に対し、それを自己に取り込むべきものか、非自己と識別し自分の内に取り込むべきでないものなのかをしっかりと認識することで、心の健全性を保つことができるようになっていく。

この情報=刺激を認識した上で、自分の心にはどのような感情や気持ちが生まれるか。体にはどのような感覚があるかに気づいていく。この時に自分の心の中をしっかりと観察することで、自分の反応を選択する余地が生まれてくる。

マインドフルネスの実践により心の免疫力を鍛えることで、刺激と反応の間に空間を作ることができるようになり、より賢明な選択をしていくことができるようになる。


人生を見つめ直す機会


私たちを刺激するものは、情報だけではない。

Stage3のエクスペリデミックの段階における経験を通じた刺激には様々なものがある。リモートワークや学校の休校などによる生活環境の変化、それに伴う家族関係、同僚や知人、家族の感染、外出自粛による行動の制限、収入の減少、など。

この2ヶ月あまりで今まで経験したことのないような刺激が私たちに肉体的に精神的に影響を及ぼしている。ここで忘れてはならないのは、肉体的な制限があろうとも、私たちの心は自由であるということである。

これらの刺激に翻弄され、心を閉ざし、塞ぎ込んでしまうのも、この経験を通じて、自分の心について学び、自分の生き方を選んでいくのも自分次第なのである。いわば、この状況下は、胸腺で免疫細胞が生き残りをかけて、トレーニングを受けるように、私たち自身がマインドフルネスの実践を通じて、心の免疫力を高め自分自身の人生を見つめ直す機会になりえるであろう。




認識


私たちは、物事をどのように認識するかでこの世界を感じ、見ている。COVID-19に脅かされる現状をただ悲観的に捉えるのか。それとも、心の免疫力を高め自分自身の人生を見つめ直す機会と捉えるのか。どちらを選択するかは、今、この瞬間の状況をどのように「認識」するか、ということに関わっている。

雨が降っている時に、「外に出るのが嫌だなあ」「傘さすのが面倒くさいなあ」と感じるか、「植物が喜び、花を咲かせ、野菜や果実が実る」と感じるか。同じ現象でも受け止め方、「認識」の仕方は人それぞれである。あなたは現在の状況をどのように「認識」しているだろうか。


次号では、刺激と反応とマインドフルネスの関係について触れてみる。

前コラムでは、3つの”デミック”で現状を認識した。「パンデミック(ウイルス)」「インフォデミック(情報)」を経て、現在は、経験(エクスペリエンス)が感染していくステージ「エクスペリデミック(経験)」とマインドフルネスプロジェクトでは認識している。

政府からの要請に基づいて、リモートワークや学校の休校などで、私たちの肉体的な自由が制限される中で、今までの生活が思い通りにできない不自由さを経験する。また、職場の同僚や家族知人が感染し、COVID-19に実体験として触れる段階であり、身を以て異常事態を痛感させられる出来事を経験する。

心は自由

このような状況下で、まずは、一旦立ち止まり、肉体的な不自由さの中であっても、心は自由であることを思い出したい。そして、健全なライフスタイルを確立していくための智慧をマインドフルネスの考え方の中に見出していきたい。


マインドフルネスを活用して、「不要不急の思考や感情に振り回されず、心の免疫力を高める」ためのアプローチとして、今回は、「体の免疫」についての理解を深め、「心の免疫」との共通項を見出し、マインドフルネスを通じた心の免疫力を高めるための手がかりを得ていく。

体の免疫

そもそも免疫とはなんであろうか。

免疫は病気や感染症から体を守る防衛システムで、日本語では、疫を免れる、病気にならないという意味に取れる。

英語では、「immunity」と表記され、語源はラテン語の「immunitas」である。課役(munitas)から免除されるという意味である。中世以来、教会領内の住民が行政上、司法上、国家権力によって拘束されないような特権を指す言葉である。

これが転じて、免疫学においては、病気を免れるという意味で、「immunity(免疫)」という言葉が使われている。



免疫は、様々な免疫細胞が関わって成り立つシステムである。細菌やウイルスなどの外敵から身を守るために、白血球に属する細胞群が免疫チームを組成し、感染された細胞を修復したり、もしくは正常な細胞が感染されるのを防ぎ、体内に感染が広がるのを抑える防衛システムである。

「自己」と「非自己」の認識

この免疫の仕組みを機能させるために、大切なことは、「自己」と「非自己」の識別である。この識別ができなければ、外敵を認識することができず、適切な防衛反応を行うことはできない。「非自己」成分が体内で増殖し、「自己」の生体の恒常性を乱し、病気に感染するリスクが高まるのである。

関節リウマチなどの自己免疫疾患は「自己」の成分を正しく認識できず、「自己」を誤って「非自己」として認識し自分自身の正常な細胞や組織に対してまで過剰に反応し攻撃を加えてしまうことで症状を起こす。

免疫の仕組みや働きについての詳細は専門誌や専門サイトでご確認いただくとして、このコラムでは、「心の免疫力」を考える上で参考となる「自己」と「非自己」の認識の仕組みについて取り上げる。


実は、ウイルスや細菌などの「非自己」の外敵が体内に入ってくると、体ではすぐにそれを「非自己」であると認識することはできない。つまり、COVID-19が体内に入ってきても、すぐに外敵とは見なされないということである。

では、どうやって「非自己」と認識するのだろうか。それは、「自己」の「非自己」化によって認識するのである。やや分かりにくいかもしれないが、これは免疫の仕組みを理解する上で、大切な部分である。「自己」の「非自己」化とは、今まで「自己」と認識していたものが、「自己」ではなくなるということである。

ざっくりとしたイメージで言えば、織田信長に仕えていた忠臣、明智光秀が本能寺の変を起こしたように、細胞の中で謀反が起こるような現象が起きて初めて、外敵侵入のサインを体は感知するのである。「光秀、今までよく仕えていたのに、なぜ?」という状態になって、免疫細胞チームの防衛システムが作動する。

「非自己化」のプロセス

順を追って説明していく。

胸部、心臓の前あたりに胸腺という器官がある。この胸腺は、「自己」と「非自己」を識別する能力を決定する免疫の中枢器官である。胸腺は、10代で最も大きく35グラムほどになり、40代では半分、60代では4分の1、80代になると脂肪に置き換えられて痕跡程度になる。

胸腺は、英語ではThymusと表記され、胸腺で作られる免疫細胞の一部はこの頭文字をとって「T細胞」と呼ばれ、T細胞は、「非自己」の成分を排除するための免疫反応の主役である。T細胞には、様々な種類があり、それぞれに役割がある。ここでは、T細胞の中でも、監視役「ヘルパーT細胞」を取り上げる。ヘルパーT細胞は、「自己」と「非自己」を識別する監視官のような働きをし、免疫細胞チームに臨戦態勢に入るよう指示をする免疫反応の司令塔である。


樹状細胞やマクロファージなどの免疫細胞は、ウイルスや細菌などの外敵が体内に侵入してくると、「非自己」成分を自らの細胞内に取り込み、侵入者のかけらを侵入されたことの目印として自らの細胞膜上に提示する。

味方の城に敵が攻め入り、攻略され今まで味方の印であった青旗を掲げていたところに敵方の印である赤旗を掲げ、敵方の城になっったことを明らかにするように、今まで「自己」の細胞であったものが、今や「非自己」になったことを提示する。

「非自己」化した細胞をヘルパーT細胞が発見すると、免疫細胞チームに情報を伝達し、免疫細胞チームが連携して外敵排除の動きを活性化する。この「自己」の「非自己」化のプロセスをきっかけに、精妙な免疫システムがダイナミックに働き始めるのである。


「自己認識」から始まる免疫

免疫において極めて大切なことは、その第一段階となる「自己」と「非自己」の「認識」である。この認識が適切に行わなければ、適切な免疫反応が起こらない。免疫システムは、生化学的な「自己認識」から始まるのである。一方で、マインドフルネスは、精神的な「自己認識」を深めていく。ここに、「体の免疫」と「心の免疫」の共通項として「自己認識」が浮上する。

あなたが意識していないところで、体内では自分の体を守るために、自分の体を絶えず「観察」しているのである。実は、この「認識」や「観察」が、マインドフルネスにおいても大切な精神活動であり、「心の免疫力」を高めるためにも必要なことなのである。

体の免疫において、自己認識の重要性を理解した上で、次回のコラムでは、心の免疫力を高めるためにマインドフルネスをどのように活用できるかにアプローチする。

本日(2020年4月7日)、日本政府より緊急事態宣言が発令された。この状況下で、マインドフルネスができることは何かを数回のコラムに分けて考えてみたい。なお、本コラムでは、新型コロナウイルス感染症をCOVID-19と統一して表記する。

私たちに問いかけるCOVID-19

COVID-19には自己複製のための宿主を求めること以外の意図がある訳ではないことは承知で、COVID-19が現れた意味を考える。

・ 私たちは、根本的な価値観や生き方を見直す時期なのではないだろうか。

・ COVID-19は、私たちに今の時代をどう生きるかを考える時間を与えてくれているのではないだろうか。

・ COVID -19は、世界中に「ウイルスから人類を守る」という共通の問題をもたらし、グローバル化が進んだこの世の中をどのような価値観で生きていくのかを問いかけているのではないだろうか。

人間の智慧が試されているように感じられるのは私だけだろうか。

SDG’sやESG投資を通じて、危機感の醸成をしながら考え方を整理したり政策を検討していても、「総論賛成、各論反対」に近い状態で抜本的な動きになかなか繋がらないもどかしさを感じていた読者も多いのではないだろうか。



ところが、このCOVID-19の現象により、各国ではロックダウンという今までの議論の延長では実現し得なかったであろう強烈な施策を短期間のうちに決断、実行している。

今までは、問題の先送りでなんとか取り繕っていたのが、ウイルスという目に見えない刃物を喉元に突きつけられて初めて必要な行動をとる人間の愚かさと鈍さを露呈しているようにも感じられる。

緊急の度合いをどれだけ自分たちに惹きつけられるかが、人間の行動を決める一つの事例となった。今後のSDG’sの議論も関連当事者たちが「急を要する我が事」として受け止め、議論を深め実行策を考えていく姿勢が望まれる。

私は政治は門外漢であるが、欧米各国の政治的な動きを傍から見ていると、緊急事態においては、与野党の垣根を超えて、国難を乗り切るために大統領、首相のもとに一致団結して取り組んでいる姿勢が伺える。

一例に、イギリスのジョンソン首相が新型コロナウイルスによる症状が悪化したため集中治療室に入ったことを受け、英最大野党・労働党のスターマー新党首は「国中の国民の気持ちが、困難な時にある首相とその家族と共にある」とコメントしていることが報じられている。



心の免疫力を高める


このような状況下で、マインドフルネスは何ができるだろうか。

先に一言で申し上げれば、

「不要不急の思考や感情に振り回されず、心の免疫力を高める」

ことが大切である。



そのためには、自分の思考や感情が今どういう状況なのかをしっかり観察することが大切である。観察するためには、立ち止まる必要がある。ここにマインドフルネスが力になれる可能性が感じられる。

折しも、リモートワークや学校休校の流れの中で、私たちには今立ち止まる機会が与えられている。私たちは、この機会を活用するのか、ただ不安や恐怖に跪き心を閉ざし危機感に怯えながら過ごすのか、賢明な選択を迫られている。

また、識者たちの話を伺っていると、感染症は一度で一遍に収まることはなく、何回かの山を迎えながら、収まっていくようである。そのことを踏まえると、数ヶ月〜1年程度、もしかしたらそれ以上の中長期的な覚悟と備えをしておく必要があるように感じられる。

情報を選別しながら、不必要に不安や恐怖に駆られるのではなく、マインドフルに今をしっかりと生きることで、この難局を乗り越えていく心の姿勢を保っていきたい。

現状認識 〜3つのデミック〜

まずは、現状を認識する。

マインドフルネスプロジェクトでは、ウイルス発生から現段階までを「3つの”デミック”」として3つのステージに分けてみた。Stage1「パンデミック」、Stage2「インフォデミック」、Stage3「エクスペリデミック」である。現在はStage3「エクスペリデミック」の段階と考えている。エクスペリデミックは、マインドフルネスプロジェクトの造語である。(詳細は後述)



Stage1は、「パンデミック」である。COVID-19のウイルスが国境を超えて人から人へと感染し、世界中で大勢の人々に影響を及ぼすフェーズである。武漢の街が完全に封鎖されているニュースやYouTube動画を初めて見た時には、「対岸の火事」と考えていた方も多かったのではないだろうか。私自身そのように感じていた節があることを否定はできない。

世界保健機関(WHO)が、2020年3月11日にCOVID-19の流行を「パンデミックとみなせる」と発表した。その後、ヨーロッパ、アメリカへと広がり、次々とロックダウンの波が広がり、今、日本も緊急事態宣言の時を迎えている。

日経新聞の集計によれば、2020年4月7日現在、感染は世界182カ国に広がっている。累計感染者は世界全体で130万人を超え、死者は7万3000人を上回る。パンデミックの状況を踏まえると、グローバル化は「モノ」「カネ」「情報」の移動をもたらしただけではなく、改めて「ヒト」の移動をもたらしていたことを感じずにはいられない出来事となっている。

ダイヤモンドプリンセス号の受け入れ処置やヨーロッパの移民問題に見られるように、国が国民を守るための「閉鎖的な考え方」と情報開示や医療連携などの各国が協力して取り組む「協調的な考え方」のバランスが問われ、政治家や感染医療チームたちの舵取りが難しい状況が続いている。

このStage1では、「対岸の火事」から「明日は我が身」と少しづつ視点が切り替わり不安感が高まっていく人と、それでも「自分は大丈夫だろう」とタカをくくっている人とに分かれたように感じられる。また経済的な理由を優先し、行動を選択した企業や個人も多かったと思われる。政府の方針の曖昧さや具体的な政策が提示されない中で、国と国民の間に共通理解が生まれなかったのは、致し方ない反応であったと感じられる。実態が掴めない中で、得体の知れないものに対する不安感と政府による中途半端な行動の制限が主なストレスの原因となっていた。


Stage2は、「インフォデミック」である。パンデミックからの造語で、情報の感染という意味である。パンデミックの前後に様々な情報が錯綜した。今なお、玉石混合の情報が溢れ、どの情報に頼ればいいのか混乱をもたらしている。オイルショックの時を彷彿とさせるトイレットペーパーの買い占めがその顕著な一例だ。誰もが我が身が大事である。パニック買いしてしまった人たちを責めるつもりはない。また、COVID-19は、熱に弱く26-27度の温度で死ぬため、お湯をたくさん飲めば予防できる、という情報まで出回り、これを信じて実行した人もいたと聞く。

このStage 2では、パンデミックという現象の前に、冷静な判断力は失われ、情報の真偽を問うことなく、行動をしてしまう人が多くいる。情報化の利便性の裏返しで、次から次へと更新される情報に振り回され、コロナ疲れ、情報疲れで、疲労感も高まりストレスレベルも高まっていく。イタリアやニューヨークの状況に触れ、強い不安感や恐怖心を抱く人や、政府の対応にイライラするする人が多く見受けられる。ネガティブな感情が心を覆う時間が増えていく。

現状はStage 3 「エクスペリデミック」

Stage3は、エクスペリデミックである。エクスペリデミックは、マインドフルネスプロジェクトの造語であり、ウイルスや情報が感染していくように、経験(エクスペリエンス)が感染していくステージである。政府からの要請に基づいて、リモートワークや学校の休校などで、私たちの肉体的な自由が制限される中で、今までの生活が思い通りにできない不自由さを経験する。また、職場の同僚や家族知人が感染し、COVID-19に実体験として触れる段階である。

このStage3では、「向こう半年の仕事がキャンセルになった」「福利厚生の仕事でウイルス保因可能性の人たちの対応に追われている」「準備していなかったリモートワークの対応に追われている」「遠方に住んでいる家族に会いに行けない」「休校になった子供達の世話が大変」など、身を以て異常事態を痛感させられる出来事を経験する。

今やCOVID-19は「対岸の火事」などではなく、「隣の火事」となり、自分たちの感染リスクを心配する。場合によっては、自分が感染していることに気づかずに、他者に感染させてしまっているリスクを知り、自分の行為を顧みて自己嫌悪感を覚えた人も少なくないようである。

自分たちの行動が制限され、不慣れなライフスタイルに戸惑い、今まで当たり前にできていたことができなくなるフラストレーションが一気に高まる。「この先どうなるのか」という将来に対する不安感が高まり、心は落ち着かない状態になる。

今までの人と人との繋がりが消え、孤独感を味わう人も増える。ネガティブな感情が沸き起こり、ネガティブな思考が心を支配する。Stege3のストレスレベルは、今までの間接的なストレス要因に加え、肉体的制限による直接的なストレス要因が加わり、Stage1とStage2よりさらに高まっていると感じられる。

心のオーバーシュート


オーバーシュートは、何もウイルス感染だけの話ではない。情報への感染、経験への感染による、心のオーバーシュートが私たちの精神衛生を犯していく。これらの感染源を断つのは容易ではない。そのような中で、私たちはどのように心を調えていけば良いのだろうか。

「不要不急の思考や感情に振り回されず、心の免疫力を高める」ためにはどのようにしたら良いのだろうか。

まずは、立ち止まり、肉体的な不自由さの中であっても、心は自由であることを思い出したい。そして、健全なライフスタイルを確立していくための智慧をマインドフルネスの考え方の中に見出していきたい。

次回のコラムでは、「自己」と「非自己」という切り口で、「体の免疫」についての考察を通じて「心の免疫」について触れていく。