【コラム】〜コロナ対策〜 免疫とマインドフルネス ⑤

前回のコラムでは、ヴィクトールフランクルの考えをベースに刺激と反応の関係を、そしてレンブラントの作品鑑賞から心の中の空間について考察した。本コラムでは、マインドフルネスを活用してこの空間づくりの仕方をお伝えする。

空間を作る

前回、紹介したヴィクトール・フランクルの考えを今一度見てみよう。

刺激と反応の間には空間がある。
その空間に、自分の対応を選択する力と自由がある。
その選択の中に、自分の成長と幸せがある

この言葉は、7つの習慣の著者スティーブン・R・コビーがヴィクトール・フランクルの考えをまとめたものと言われている。


前回のコラムで考察した通り、時々、私たちは、刺激に対して、無意識で反応してしまうときがある。今、私たちの周りにはさまざなま刺激がある。これらの刺激に対して、好ましい反応をしていくためには、刺激と反応の間に空間を作る必要がある。


空間を作ることができれば、心の中にある選択肢に気づき、選択の自由を行使することができ、刺激に対しての反応が変わり、行動が変わっていく。この空間作りのために、マインドフルネスの実践が有効である。


観察する


心の中の空間は、ソファにある空間のようなイメージである。この空間に思考や感情などの刺激を招き入れ、それらの刺激に気づき、観察する。この場所には、どのような感情や思考が座っても構わない。


ソファにはベアが座っている。このベアはあなたの分身だ。心の中にいるもう一人の自分を表している。このベアが入ってきた刺激をしっかりと観察する。

ポジティブなもの、ネガティブなもの、様々な感情や思考が心の中には現れる。現れてきた感情や思考を否定することなく、優しく招き入れ、その感情や思考に対して、好き、嫌い、良い、悪い、などの評価をすることなく、その存在を認めてやる。

隣に座っているベアになったつもりで、その思考や感情を観察してみる。空間を作り、刺激を観察する作業は、自分の心の中を客観的に眺める作業に繋がっていく。心の中を客観的に眺めることができれば、自分の状態を認識した上で冷静な反応をしていくことができる。

思考


普段、私たちは、無意識に思考や感情と自分自身が一体になってしまうことがある。ネガティブな感情が現れれば、その感情に脳が乗っ取られ、物に当たったり、暴言を吐いたり、塞ぎ込んでしまうこともあるだろう。

ネガティブな思考が現れれば、そのことが気になって、眠ることができなくなったり、仕事が手につかなくなったり、人と会う気持ちが失せてしまうこともあるだろう。



とりわけネガティブな思考は、延々と続いてしまうことがある。心のなせる技である。心はおしゃべり製造機なのである。放っておくと、勝手に様々なおしゃべりを始める。そして、本当か嘘かわからないようなストーリーを語り始める。

思考の連鎖


「今日も感染者が増加した」というニュースを見る。これは事実である。その情報が刺激となって、自分は感染しないか不安になる。

「いつになったら、感染者が減るのだろう」と考え始める。

「このまま感染が収まらなければ、いつまでリモートワークは続くのだろうか」と別の考えが現れてくる。

続けて、

「不要不急の外出を控え、友達とも会えないのだろうか」
「子供達はいつ学校で勉強やスポーツを再開できるのだろうか」
「給料はちゃんともらえるのだろうか」
「解雇されるのだろうか。」
「元の生活に戻れるのだろうか。」

などと、連鎖的に思考が思考を呼び、思考のパレードが続く。

思考の連鎖は止まらない。一つのことをきっかけに起こるかどうかわからない考えや予測が次から次へと入れ替わり立ち代り現れてくる。このような状態の時には、ただ刺激に対して、反射的に反応を繰り返し、心の中の空間がうまく作られていない。心の中のベアも影を潜めてしまう。

思考は物語


思考というのは、心の中で作られる物語である。脳は休みを知らないストーリーテラーなのである。このストーリーの脚本も監督も主役も自分自身である。この思考という心の中の物語は、単なる言葉の羅列に過ぎない。



本来、言葉の羅列そのものには何ら力はない。にも関わらず、その言葉を思い込んだり、信じてしまえば、途端にその思考が猛威を振るって自分の心の中に嵐を巻き起こすこともある。その嵐に巻き込まれ、その威力のままに行動を起こしてしまうと思いも寄らぬ結果を招く恐れがある。後になって後悔することもあるだろう。

自分の心の中に空間を作り観察することができれば、この物語は、必ずしも信じる必要はないことや、そのままに反応する必要がないことに気づける。そうすれば、思いも寄らぬ結果を招くことも、後悔することもなく、自分らしく生きていく道が現れるだろう。

マインドフルネス瞑想 〜呼吸瞑想〜


心の中に空間を作るためのマインドフルネス瞑想の実践法を簡単に紹介する。ここでは、呼吸瞑想と観察瞑想のやり方を伝える。

まずは、しっかりと自分の呼吸に注意を向ける。しばらく自分の呼吸のプロセスをたどる。呼吸がいつ始まり、いつ終わっていくか。呼吸のペースはゆっくりか早いか。好奇心を持って自分の呼吸を観察してみる。ただ、呼吸とともに座る。

しばらくすると、呼吸から注意は逸れる。逸れて構わない。むしろ逸れることが当たり前だ。これは心がおしゃべりのせいである。ここで大切なことは、注意が逸れたことに気づくことだ。


ソファのベアーを思い出してほしい。心の中のベアはあなたの呼吸を静かに観察している。もしも注意が呼吸から逸れれば、ベアは逸れたことに気づきあなたに教えてくれる。もちろん、心の中のベアはあなた自身でもある。このベアはあなたの中にいるもう一人の自分を表している。

3分ほど、呼吸に注意を向け、自分の注意が逸れては気づき、呼吸に戻すという作業を繰り返す。この間、自分がどれだけいろんなことを考えているかに驚くかもしれない。もしくは、ほとんど何も考えることなく、呼吸にしっかりと注意を向け続けられるかもしれない。

その日の体調や心のコンディションによって、注意をうまく向けられるときとそうでない時があるかもしれない。どのような状態でも構わない。必ず、こうでなければならないという理想を掲げて取り組む必要はない。

今の自分の状態をただ受け入れ、呼吸に注意を向ける。大切なことは、良いとか悪いと評価や判断をすることなく、ただ呼吸に注意を向け、そして、逸れたら気づき呼吸に戻すことである。

マインドフルネス瞑想 〜観察瞑想〜


次に、自分の思考を観察する。これは呼吸瞑想ほど簡単ではないが、取り組んでいくうちに、段々と心の中に空間を作ることができるようになり、観察できるようになってくる。

呼吸瞑想の時の注意が逸れるきっかけとなった思考が現れたら、そのことに気づき、その思考を観察する。この時のコツとしては、自分が解説者になったつもりで、自分の思考を心の中で解説していく。


例えば、

「リモートワークいつまで続くんだろうな」という考えが浮かんだら、
「リモートワークがいつまで続くんだろうか、と感じた」と解説する。

「体がなまってしょうがない、少し走ろうかな」という考えが浮かんだら、
「体がなまってしょうがない、少し走ろうかな、と考えた」と解説する。

浮かんできた思考の文末に「〜と感じた」「〜と考えた」と加えてやることで、自分の思考を観察することにつながる。一つの思考を観察できたら、呼吸に戻って、しばらく呼吸を観察する。そのうちにまた別の思考が現れたら、同じように、思考を解説し、観察していく。ここでも大切なことは、自分の思考に対して特に、良い、悪いと評価や判断をしないことである。また、心の中には何が現れても良いことを許してやる。

ドラえもん瞑想


別の方法としては、ソファの上のベアになったつもりで、自分の心の中を観察する。そして、ベアと対話をしていく。

例えば、

「リモートワークいつまで続くんだろうな」という考えが浮かんだら、
「リモートワークがいつまで続くんだろうと、感じたでしょ」
とベアが突っ込んでくる感じである。

「体がなまってしょうがない、少し走ろうかな」という考えが浮かんだら、
「体がなまってしょうがない、少し走ろうかな、と考えたでしょ」
という感じである。



ベアでなくても構わない。自分の好きなアニメのキャラクターや好きなスポーツ選手や芸能人でも構わない。私の個人的なオススメはドラえもんである。あの独特の声で自分の心の中を観察してみると、シリアスに考えていたことも、深刻にならずになんとかなると感じられるようになってくる。

観察の仕方がわかってくると、だんだんと心も穏やかになっていく。そして、その思考から距離をとって、その思考を観察することで、思考の渦に巻き込まれることなく客観的に考えられるようになっていく。この時には、心の中に空間が生まれている。いずれ、心の中をしっかりと観察できるようになれば、レンブラントの作品「瞑想する哲学者」のような整然とした空間が現れるようになる。


ありのままに気づくために

ここまで、刺激と反応の間の空間作りのために、マインドフルネス瞑想で代表的な呼吸瞑想と観察瞑想の実践法をお伝えした。心に空間を作ることができれば、物事をありのままに見ることができるようになり、ありのままに気づいていくことができるようになる。コラム③で、ありのままに気づいていくことの難しさの理由を2点挙げたが、それに対する解決方法が、この呼吸瞑想と観察瞑想となる。


1つめの理由としては、私たちの心はいとも簡単に過去や未来に彷徨ってしまうことを挙げた。呼吸瞑想では、呼吸に注意を向け、逸れたら気づき呼吸に戻すという作業を繰り返すことで、自分の注意力をコントロールする力が高まり、彷徨いがちな心をしっかりと自分の体がある場所に落ち着けることができるようになっていく。

2つめの理由としては、私たちは知らず知らずのうちに心に色眼鏡をかけていて、その色眼鏡を通じて物事を見てしまう癖がついていることを挙げた。観察瞑想では、注意力を使って、心の中を観察する力が高まり、色眼鏡をかけていることに気づき、その色眼鏡を外して物事をしっかりと「観察」することができるようになる。



呼吸瞑想と観察瞑想の実践で、自分の心の状態にありのままに気づくことができるようになり、現れてくる思考が自己であるのか、非自己であるのかを認識することができるようになる。自己認識が深まり、心の免疫力が高まっていくことにつながる。

次回は、COVID-19の状況を俯瞰して私たちにある選択肢について考えてみたい。