【コラム】〜コロナ対策〜 免疫とマインドフルネス ④

前回までのコラムでは、「体の免疫」と「心の免疫」の共通項として、「自己認識」を見出し、「心の免疫力」を鍛えるためのマインドフルネスの位置付けを確認した。「認識」「観察」という言葉をキーワードに、心の免疫力を鍛える。

COVID-19の現状において、私たちの周りには様々な「刺激」が存在する。これらの「刺激」に対して、私たちは様々な「反応」をしている。本コラムでは、「刺激」と「反応」の関係から、マインドフルネスが果たす役割を考察する。

立ち止まる

今日はしばし立ち止まるところから始めたい。情報を始めとした様々な刺激にさらされる中で、私たちの心はあくせくして、なかなか立ち止まることがない。

このコラムを読み始める前に、目を閉じて、ご自身のペースで深呼吸を3回ほどしてみよう。鼻からしっかりと息を吸い込み、口からゆっくりと吐き出していく。シンプルに呼吸をして、その呼吸の時間を楽しむようにただ、深呼吸をしてみる。



どうだろう?

深呼吸をして少しは心が落ち着いただろうか。それとも深呼吸の間も何か心の中に思考や感情がよぎっただろうか。もしかしたら、深呼吸前にインプットした情報が刺激となり、心の中で何か反応を示していたかもしれない。

今は、心が落ち着こうがざわつこうが、どちらでも構わない。良いとか悪いとか、いいなとか嫌だな、とかそのような判断をせずに、今はただ深呼吸をしてみたら、こんな状態だったということを受け入れてみよう。

そのようなつもりで、もう1度、目を閉じて、3回深呼吸をしてみよう。あまり深く考えずに、ただ、深呼吸をしてみる。立ち止まって深呼吸をすることはあまりないかもしれない。もしかしたら、体と心はそのような静かな時間を求めているかもしれない。

深呼吸


どうだろう?

深呼吸を気持ちよく行えただろうか?先ほどと比べて何か変化はあっただろうか?この深呼吸の間は、何を感じても何を考えても、許してあげるつもりで、ただ深呼吸をしてみてほしい。

今一度、目を閉じて3回深呼吸をしてみよう。今度は、1つ1つの呼吸を丁寧に丁寧に行ってみてほしい。そして、その1つ1つの呼吸を好奇心を持って観察してみてほしい。呼吸がいつ始まって、いつ終わるのか。その呼吸のプロセスを好奇心を持って辿ってみてほしい。


どうだろう?

心や体には今どんな感覚があるだろうか?前回の深呼吸とは何か違っただろうか?一つ一つの呼吸の違いに気づけただろうか?

深呼吸の後の感覚は人それぞれだ。決まった感覚にならなければならない、ということはない。ただ、今抱いている感覚を優しく受け入れてほしい。

このコラムのキーワードになっている「認識」や「観察」は、自分の中にある「注意の力」が基盤となっている。呼吸はその「注意の力」を培うのに最も適したツールである。

未だ、心がざわざわして落ち着かないようであれば、この先を読み進める前に、ご自身で何回か繰り返し深呼吸をやってみてほしい。


レンブラント 〜心の中の空間〜


それでは、そろそろ本題に入ろう。

ここに1枚の絵画の作品がある。

作者はレンブラントである。先ほど、深呼吸で呼吸を観察したように、この絵画を1分間まじまじと観察してみてほしい。

あなたは、どのようなことを感じ、どのようなことに気付くだろうか?


どうだろう?

じっくりと観察できただろうか。

光と陰
温かさ
落ち着き
明暗
静寂
開放と密室
寂しげな老人

どのような印象を持つかは、人それぞれである。これは、読書をしていた哲学者が、瞑想をしている時間を切り取った「瞑想する哲学者」という作品である。

左手に差し込む陽の光は、哲学者の理性、右手の暖炉の炎は哲学者の情熱。そのように感じ取る時、この空間は哲学者の心の中を映し出しているように見えてくる。

心の内側から外部の世界へとつながる螺旋階段、さらに心の奥深くへと潜り込んでいく地下牢への扉。探求する心を満たす分厚い本。この瞬間を指し示す壁に掛けられた時計。余計なものが置かれていない整然とした空間は、穏やかで静かな哲学者の心の中のようである。

様々な刺激に触れている私たちの心の中には、様々な感情や思考が渦巻く。その時の心の中には、このような静寂を保った空間が広がっているだろうか。

心の免疫力を高めるためには、マインドフルネスの実践でこのような空間を心の中に作っていく。このように心の中にしっかりとした空間があると、ありのままに気づいていくことがしやすくなっていく。そうすることで、体の免疫システムが、外部からの刺激を認識し自己と非自己を識別するように、心においても外部からの刺激や心の中で起こる刺激に対して、しっかりと観察、認識することで、冷静に反応をしていくことができるようになっていく。

刺激と反応の間



ここにヴィクトール・フランクルの考えをまとめたと言われる言葉を紹介しよう。彼は、ユダヤ人で第二次世界大戦中の大量虐殺の生き残りで、心理学者である。ナチス強制収容所での体験を著した「夜と霧」の著者である。


刺激と反応の間には空間がある。
その空間に、自分の対応を選択する力と自由がある。
その選択の中に、自分の成長と幸せがある

この言葉は、7つの習慣の著者スティーブン・R・コビーが彼の考えをまとめたものと言われている。


さらっと書かれた3行だが、この言葉が強制収容所を生き抜いた人間の言葉であることを踏まえると、その意味するところは非常に深い。

想像してみてほしい。

第二次世界大戦中、ユダヤ人というだけで、謂れもなく、強制収容所に連れていかれることを。程なく、強制労働には耐えられないだろうと判断されて、ガス室に送り込まれ命を無くした仲間や友達がいることを。

極寒の中、まともに着る物もなく、壁を作ったり、土を掘ったり重労働をさせられることを。重労働の中、訳もなく監視官にどやされ殴られることを。1日の重労働を終え泥まみれになりヘトヘトになって宿舎に戻っても、水で薄めたようなスープ1杯しか食べれない状況を。

暖房設備もない冷えひえの小狭い部屋に垂れ流しのような状態の中、大の大人が数十名雑魚寝になることを。朝起きれば、力尽きて仲間が息を引き取っていることを。その死体を横目に見ながら、サイズの合わないドテドテの靴に擦り切れかじかんだ素足を通すことを。

そして、明日には自分もガス室に送り込まれ否応無く死を受け入れるしかないかもしれない今日を生きていくことを。

空間にある選択の力


劣悪な環境の中で、私たちの想像を絶するような刺激という刺激が外部から押し寄せ、肉体的にも精神的にもボロボロになりながらも生きていくヴィクトール・フランクルと収容された人たち。文字通り彼らから肉体的な自由は奪われていた。

それらの刺激があっても、心の自由を行使し、希望を持ち続けたものが生き残っていく。生き残ったものたちは、神に祈りを捧げ、歌を歌い、ユーモアを忘れなかった。このような反応を選択することができたのは、刺激と反応の間に空間を作ることができたからだ。

厳しい状況の中でも、自分には今どのような選択肢があるのか、どの選択をするのが自分の幸せに繋がるのか。ヴィクトール・フランクルは心の自由を思い出し、選択の自由を行使することを忘れないでいることで、この厳しい状況を生き抜くことができたのである。

このような背景を理解した上で、今一度、彼の考えを読み返してみよう。

刺激と反応の間には空間がある。
その空間に、自分の対応を選択する力と自由がある。
その選択の中に、自分の成長と幸せがある

この言葉は、7つの習慣の著者スティーブン・R・コビーが彼の考えをまとめたものと言われている。

フライパンのような反応


私たちの体は、免疫システムがなければ、ウイルスや細菌にいいように侵され、弱体化していく。同様に、私たちの心にも、免疫がなければ無防備な状態になり、刺激に対して、まるでフッ素樹脂加工されたフライパンが水や油を弾くように、衝動的、反射的に反応してしまうことがある。


例えば、今回のトイレットペーパーやマスクの買い占め行動は、「なくなるかもしれない」という情報=刺激に対して、しっかりと考えることもなく、鵜呑みに受け取って、反射的に反応した結果であろう。ここには、刺激と反応の間には、空間はない。

反射的に反応をしてしまう人が多ければ多いほど、普段はお店の陳列棚にどっしりと鎮座しているトイレットペーパー殿の存在感が薄くなり、それまで反応していなかった人たちの心にまで刺激を与え、買い占め行動を助長してしまう。


・ 情報の信憑性が乏しい
・ まだ家には十分トイレットペーパーがある
・ 買うにしても当面必要な分だけで十分である
・ そんなにすぐに無くなる訳がない

一人でも多くの人がこのように情報=刺激に対して、冷静に反応することができれば、陳列棚のトイレットペーパーの存在感は普段と変わらず、売り切れるという状況は免れたかもしれない。

心が作り出す刺激


リモートワークや自宅学習など、今までとは違うライフスタイルが続けば、心の中には様々な感情や思考が生まれてくるだろう。孤独感、寂しさ、将来への不安、ウイルスへの恐怖、会社の対応の不満感、政治への不信感、不自由さに対する苛立ち。

・ みんなと会いたいけど会えない
・ 家の中にずっといて鬱々とする
・ 運動不足が気になる
・ いつか感染するのだろうか
・ 感染していることに気づかずに感染を広げていたのではないだろうか
・ 解雇されてこの先どうしたら良いかわからない
・ この状況は一体いつまで続くのか

放っておけば、次から次へと心の中には様々な感情や思考が生まれてくる。これらの感情や思考は、自分の心が作り出した刺激である。私たちは、これらの刺激に対しても、衝動的、反射的に反応してしまいがちである。そこには、刺激と反応の間に、空間が存在しない。

そして、これらの反応は無意識に行われ、気づけば、笑顔を忘れ人につらく当たってしまったり、人とのコミュニケーションが億劫になったり、頭痛や肩こりなどの身体反応が現れたり、感情のコントロールが難しくなり、自分の行動をうまく導くことができない状態に陥ってしまうことがある。

空間を作る


もしも、刺激と反応の間に空間を作ることができれば、1つのことに気づけるようになるだろう。それは、「今、自分にコントロールできることに集中する」ということだ。そうすることができれば、反応の仕方は変わってくるだろう。

今、実現不可能なことや、自分にはできないことをどれだけ一生懸命考えたところで、事態は何も変わらない。むしろ、そのことを考えれば考えるほど、結論は見出せず、もどかしい思いを深めることで、心身の健全性を脅かすことになるだろう。

今一度、レンブラントの作品を観察してみよう。


今、あなたの心の中は、このような落ち着いた空間が広がっているだろうか。もしかしたら、今は、このような空間をうまく作り出すことはできていないかもしれない。それ故、衝動的、反射的に反応をしている自分がいるかもしれない。

もしもそうだとしたら、心の免疫力を高めてみる価値がある。マインドフルネスの実践を通じて、心の中に空間を作り、自分の中にある選択肢に気づき、選択の自由を行使することができれば、刺激に対しての反応が変わり、行動が変わっていく。それは、自分の人生に対する態度が変わっていくということだ。

次回のコラムでは、マインドフルネスを活用してこの空間づくりの仕方をお伝えする。