【コラム】〜コロナ対策〜 免疫とマインドフルネス ③

前コラムでは、体の免疫における「自己」と「非自己」の識別の重要性について触れた。免疫細胞が「自己」の「非自己化」を観察、発見するプロセスの中で、免疫システムは、生化学的な「自己認識」から始まることを説明した。

マインドフルネスにおいても「自己認識」は大切な考え方である。「認識」や「観察」という精神活動を通じて、「自己認識」を深め、これらの行為が心の免疫力を高めることにつながる。


マインドフルネスとは


マインドフルネスとは、一言にまとめれば、「気づいていること」である。何に気づいているかというと、今、この瞬間の自分の心の状態、自分の体の感覚、周囲の状況に気づいているということである。

「今、ここ」と表現されるように、今この瞬間、自分がいるこの場所で、心、体、周囲で何が起こっているかに気づいていくことである。

今、自分の心にはどんな感情や考えがあるか。自分の体には緊張やこわばり、かゆみや痛みなどどんな感覚があるか。周囲には誰がいてどのような会話がなされ、どのような場所でどのような状況なのか。


あるがままに


マインドフルネスは、これらのことを「あるがままに」気づいていく=「認識」していくということである。「あるがままに」というのは言うほど易しい事ではない。ここでは2つの理由を示す。

1つめの理由としては、私たちの心はいとも簡単に過去や未来に彷徨ってしまうからである。心というのは、なかなか現在にとどめておくのが難しい代物である。「あるがままに」気づいていくためには、彷徨いがちな心をしっかりと自分の体がある場所に落ち着けることが必要である。

2つめの理由としては、私たちは知らず知らずのうちに心に色眼鏡をかけているからである。そして、私たちは心の色眼鏡を通じて物事を見てしまう癖がついているからである。

この色眼鏡は、本能、幼少期の親の教え、学校教育、社会通念、友人、マスメディア、宗教、地域文化など様々な要因から影響を受け作り上げられていく。「思い込み」や「勘違い」はこの色眼鏡から生み出される。「あるがままに」認識していくためには、色眼鏡をかけていることに気づき、その色眼鏡を外して物事をしっかりと「観察」する必要がある。

心の免疫力


これらのプロセスを経て、「自己認識」を深めていくことができるようになるわけだが、「心をしっかりと自分の体がある場所に落ち着けること」「色眼鏡を外して物事をありのままに観察すること」というのは易しいことではない。

これらを実現するために、瞑想やボディワーク、ジャーナリングなどのマインドフルネスの実践方法がある。これらの実践が、心をトレーニングをしていくことにつながる。

心をトレーニングすることで、心の柔軟性と筋力が鍛えられ、心を今この瞬間にとどめることや色眼鏡を外すことができるようになり、今この瞬間に起こっていることをありのままに認識することができるようになる。つまり、自分の心の状態、体の感覚、周囲の状況に気づいていくことができるようになり、自己認識を深めていくことにつながっていく。

この心のトレーニングをこのコラムにおいては、「心の免疫力」を鍛えると表現したい。


体の免疫と心の免疫の共通項は自己認識


前コラムで取り上げた「体の免疫」において、免疫の中枢器官として胸腺について取り上げた。実はこの胸腺は免疫細胞の教育機関でありトレーニングジムなのである。ここでどのようなトレーニングを行うかというと、自己の細胞を識別できる能力を高めるトレーニングを行うのである。

もしも自己の細胞を自己と識別できなければ、自己の細胞を攻撃してしまい自己免疫疾患の原因になるリスクが高まったり、外敵が侵入してきたときに非自己と認識できなくなり、免疫システム全体が機能しなくなってしまう。

このトレーニングを経て自己を認識できるようになる免疫細胞は極めて少なく、実際に胸腺の外に出て体内で活躍できる免疫細胞はごくわずか、数%である。残りの95%以上は、胸腺の中で死滅する。まさに死のトレーニングをくぐり抜けた免疫細胞のみが体内で活動することを許されるのである。

生き残った免疫細胞はしっかりと自己と非自己の識別ができるよう訓練された細胞であり、いわばエリート細胞なのである。つまり、「体の免疫」においても自己と非自己を識別し、自己を認識するというのは容易ではなく、トレーニングが必要なのである。

「自己認識」というのは、「体」においても「心」においてもそう簡単ではないのである。それでもトレーニングすれば、免疫細胞が自己を識別でき外敵排除のために活躍できるようになるように、「心の免疫力」を鍛えることで、しっかりと自分の心、体、周囲の状態を認識することができるようになっていく。



刺激と反応


前々回のコラムでは、インフォデミック(情報)、エクスペリデミック(経験)を取り上げた。情報や実際の経験は、心に対して様々な刺激を与え、私たちの心を乱す要因となる。これらは、体の外からの刺激になるが、この外からの刺激をきっかけに自分の心のうちに湧き起こる様々な感情や思考も内からの刺激となり、心を乱す要因となる。

刺激が与えられれば、何らかの反応がある。どのような反応をするかは人それぞれであり、その人の心の状態やその人がかけている色眼鏡もその反応に大きく影響を与える。

マインドフルネスの状態を作り出せれば、現状をあるがままに認識することができるようになり、より好ましい反応を選択できるようになっていく。トイレットペーパーがなくなるといった情報に対して、どのような反応を示し、どのような行動をするか。その情報をどのように受け止め、認識するかで、その反応も行動も変わってこよう。



情報=刺激


私たちの身の回りには、今どのようような刺激があるだろうか。

情報化社会において、情報は刺激の最たるものである。テレビ、ラジオ、インターネット、SNS、様々な経路で私たちは情報にアクセスできる。非常に便利である反面、ネガティブな情報にさらされていると心の健全性を保つことが難しくなっていく。

ここに心の免疫力が試される。その情報が自分にとって有益なものなのか、それとも、ネガティブな感情を惹起し鬱々とした気持ちにさせるものなのか、しっかりと識別していくことが大切である。

情報という外部からの刺激に対し、それを自己に取り込むべきものか、非自己と識別し自分の内に取り込むべきでないものなのかをしっかりと認識することで、心の健全性を保つことができるようになっていく。

この情報=刺激を認識した上で、自分の心にはどのような感情や気持ちが生まれるか。体にはどのような感覚があるかに気づいていく。この時に自分の心の中をしっかりと観察することで、自分の反応を選択する余地が生まれてくる。

マインドフルネスの実践により心の免疫力を鍛えることで、刺激と反応の間に空間を作ることができるようになり、より賢明な選択をしていくことができるようになる。


人生を見つめ直す機会


私たちを刺激するものは、情報だけではない。

Stage3のエクスペリデミックの段階における経験を通じた刺激には様々なものがある。リモートワークや学校の休校などによる生活環境の変化、それに伴う家族関係、同僚や知人、家族の感染、外出自粛による行動の制限、収入の減少、など。

この2ヶ月あまりで今まで経験したことのないような刺激が私たちに肉体的に精神的に影響を及ぼしている。ここで忘れてはならないのは、肉体的な制限があろうとも、私たちの心は自由であるということである。

これらの刺激に翻弄され、心を閉ざし、塞ぎ込んでしまうのも、この経験を通じて、自分の心について学び、自分の生き方を選んでいくのも自分次第なのである。いわば、この状況下は、胸腺で免疫細胞が生き残りをかけて、トレーニングを受けるように、私たち自身がマインドフルネスの実践を通じて、心の免疫力を高め自分自身の人生を見つめ直す機会になりえるであろう。




認識


私たちは、物事をどのように認識するかでこの世界を感じ、見ている。COVID-19に脅かされる現状をただ悲観的に捉えるのか。それとも、心の免疫力を高め自分自身の人生を見つめ直す機会と捉えるのか。どちらを選択するかは、今、この瞬間の状況をどのように「認識」するか、ということに関わっている。

雨が降っている時に、「外に出るのが嫌だなあ」「傘さすのが面倒くさいなあ」と感じるか、「植物が喜び、花を咲かせ、野菜や果実が実る」と感じるか。同じ現象でも受け止め方、「認識」の仕方は人それぞれである。あなたは現在の状況をどのように「認識」しているだろうか。


次号では、刺激と反応とマインドフルネスの関係について触れてみる。