【レポート】AI時代に必要な教育・人材開発・組織とは?”Most likely to succeed”

2019年10月25日にNagatachoGRiDで開催された映画”Most Likely To Succeed” 上映会&ダイアログの様子をお伝えします。

Most likely to succeedとは

“Most Likely To Succeed”は、「未来の教育のあり方を問う」ドキュメンタリー映画です。「AI、ロボットが生活に浸透していく21世紀に子どもたちに必要な教育は?」というテーマで、プロジェクト・ベースド・ラーニングを行う米国のカリフォルニア州にある High Tech High というチャータースクール(※)に通う二人の高校1年生の成長を追いかけます。ビジネスの世界でこれからの時代に求められるスキルを考えるうえでも参考になる映画です。

企業ニーズと現在の教育システム

年功序列、終身雇用などの日本的雇用慣行と労働文化においては、言われたことを大過なく対応することや従順に組織に順応することが求められてきました。新しいチャレンジや創造性を発揮することよりタスクを実行しルーティンワークをこなすことが求められてきました。企業はそのような人材を求めて人材の採用や評価をしてきました。新卒一括採用やKPIによる評価、減点主義、計画主義はその代表例でしょう。

現在の教育システムは、このような企業ニーズに応えられるように整備されてきました。膨大な知識を暗記して、時間内に難解な問題を解き、いわゆる詰め込み型の教育が主流です。その一方で創造性や協調性などを学ぶ場はあまり多くありません。2017年には、将棋AI(PONANZA)が名人のプロ棋士に完勝し、2045年にはシンギュラリティ(人工知能が人間の知能を超える技術的特異点)が起きるという予測もあります。


2013年9月に発表された、「米国において10~20年内に労働人口47%が機械に代替されるリスクが70%以上」というオックスフォード大学のフレイ&オズボーンの推計結果は、現在では推計方法に問題があるとされ専門家の間では信頼されていません。職の全体量の増減についていえば、OECDが発表した、約1割が代替される、という推計値が専門家の間での合意となっております。それでもタスクベースでは、労働環境は変化していくことは間違いがありません。型通りのルーティンワークやタスクはAIに置き代わっていくでしょう。その時求められるのは、今まで通りの詰め込み型の教育によってもたらされる能力なのでしょうか。AIにはできない能力、創造力やコミュニケーション能力など人にしかできない能力をいかに伸ばし培っていくかが、今注目され始めています。


実験的な教育

映画”Most likely to succeed”の中に出てくる、アメリカ西海岸のHigh Tech Highでは、子供達の自主性を重んじ、創造性や協調性を発揮することに重きを置いて年間カリキュラムが組まれています。この学校では、いわゆる教科書を使って決められた内容を規定通りに教えていくのではなく、教師が授業の構成や内容を決める権限を持ち、教師が自ら考えたテーマに応じてオリジナルの年間カリキュラムを組み立てていきます。


生徒たちは、教師が設定したテーマに応じたプロジェクトに自主的に参画し、自分たちの心と体と頭を使って様々なワークや課題に取り組んでいきます。取り組んだプロジェクトや作品は決められた発表日に両親や家族、友達にお披露目します。型通りの問題を解いたり教科書の内容を覚えるのではなく、自主性や自発性が重んじられ、プロジェクトや課題を通じて問題提議をする発想力や人間関係を構築する協調性やリーダーシップを培っていきます。単発的なイベントの文化祭や体育祭と違い、企画段階から自分たちで考え、作品完成まで時間をかけて試行錯誤を繰り返すプロジェクトベースの授業です。

授業風景1

例えば、歴史の授業では、ギリシャ神話の演劇を創作するプロジェクトに取り組みます。演出、照明、衣装、役者、各々の担当を自分たちで決めていきます。人前で話をすることに恥ずかしさを感じる内気な女の子が演出という大役に立候補します。最初は自分の意見を言う事に躊躇いを感じ、プロジェクトをうまく進める事ができませんでした。

しかし、みんなで良いものを作りたい、親たちが見にきた時に楽しんでもらいたいという気持ちが彼女を変えていきます。自分の言葉で自分の意見をぶつけるようになり、役者にやる気が見られなければ叱咤激励し、限られた人数で本番を迎えるにあたり自分のことは自分でやるように促していきます。


彼女の変化、成長とともにプロジェクトは進行していきます。発表当日には素晴らしい作品を発表することができました。人前で話す事に抵抗があった彼女は、演劇創作を通じて自信を持つことができるようになりリーダーとしての自覚を持つことができるようになりました。

授業風景2

文明について学ぶ授業では、過去の文明の栄枯盛衰を学習し、その共通点や特徴を工作を通じて一つの作品にするプロジェクトに取り組みます。アイデア豊富な男の子がプロジェクトリーダーに立候補しますが、自分のアイデアや意見に固執してしまいチームをうまくまとめられません。チームメンバーはリーダーの発想力やペースについていくことができなくて、発表日までに作品を完成させることができませんでした。


自分の意見にこだわり過ぎたことを反省し、彼はクラス全員の前で自らの非を認めます。教師はそのことを責めるのではなく彼の落ち込んでいる感情に寄り添い、彼のビジョナリーな発想力や独創性には価値があると諭し、強みを認識させ今一度やる気を取り戻させる事に成功します。彼は試行錯誤を重ねて発表日から1ヶ月遅れで作品を完成させます。彼はこの体験から諦めない力やチームワークの重要性を学んでいきます。

親の価値観

子供達にどのような価値観を持って生きていって欲しいか。どのような人生を歩んでいって欲しいか。親がどのような価値観を持って生きているかは子供の教育方針に結びついています。親が今まで通りの教育を望めば、子供もそのように考えるでしょう。

映画の中でも1年間のプロジェクトを通じて我が子の変化と人間的な成長を喜ぶ親がいる一方で、大学進学に不安を覚え、テストで点数を取るための勉強を教えて欲しいと教師に要求する親もいます。大学受験を控えた生徒の中にも、大学進学が大事だからテストの勉強を優先して欲しいとリクエストするシーンもあります。未だ実験段階の教育方法に親も子も戸惑う様子が、既存システムの枠組みで考える反応として映し出されます。


映画の最後の締めくくりでも、このような教育方法が正しいのかどうかはまだ不明であることがナレーションで語られます。「学んだ生徒たちが仕事をするようになる10年後にその答えは出るでしょう。」と語られながらも、現段階では、High Tech Highの卒業生の大学進学率は98%という結果が伝えられました。

親は世の中の変化を読み取り、自分の中にある固定概念や先入観に気づくことが求められているのではないでしょうか。子供の可能性を広げるためにどのような道を歩ませていくかを真剣に考える価値はあるでしょう。答えは親の感情や気持ちの中ではなく、子供の心と体の中にあるのかもしれません。

社会システム抜きには語れない教育システム

AI時代に生きる親は、自分たちの価値観を闇雲に押し付けるのではなく、AIやロボットの台頭、デジタル化、グローバル化、情報化などの時代の変化を感じ取り、自分たちが育ってきた環境と現在の環境の違いを認識する必要があります。その上でどのような教育が子供達の将来に役立つのかを考え、子供たちに選択肢を与えることが重要なのではないでしょうか。そのためには、出来上がった社会システムを見直す必要があるのかもしれません。


社会システムが変わらないのに、教育システムだけ変えたのでは、子供達もただ翻弄されるだけでしょう。今までの価値観を見直し、どのような社会を作っていきたいかを問われているのかもしれません。既存の社会システムの中で教育システムが捉えられてしまう限り、過去の成功体験、予測される将来ビジョンの呪縛からはなかなか抜けられません。競走という名の思考停止状態から、共創という人間らしさと智恵をいかに育んでいくか。親も子も自らを顧み、自らの中にあるものに気づいていくことが大切だと思います。

AI時代に求められる能力とは

企業組織においても同様です。AIやロボットの台頭、デジタル化、グローバル化、情報化などの時代の変化を踏まえた、人材育成や採用を進めていく必要があるでしょう。AIにはできない、人間にしかできない事に焦点を当てれば、想像力、発想力、コミュニケーション力、リーダーシップなどの能力が求められるようになるでしょう。


VUCA と表現される変化の激しいビジネス環境の中で、スピーディに問題を解決したり、新しい価値を創出していくためには、今まで以上に組織力を発揮していく必要があります。そのためには、チームの集合知が鍵になります。一人でできることには限界があります。様々な考えやアイデアを持ち寄り、個人の能力を最大限に発揮して、チームが協力して取り組めばメンバー間のシナジーが生まれ、思いも寄らない成果が生まれる可能性が高まります。指示を待って、言われた通りに動く兵隊のような働き方は、時代遅れとなり、不必要になっていくでしょう。むしろ、自分の強みや弱みを自ら認識し、人間性を生かし自分らしく生き生きと働くことで創造性やリーダーシップを発揮してチームに貢献することが求められるようになるでしょう。そのためには、記憶力や論理合成力などのAIで置き換え可能な能力ではなく、発想力やコミュニケーション力、革新性や前向きな姿勢などの人間力の重要性が増していきます。



集合知をいかに引き出し高めていくかは、ビジネスリーダーの大切な役割であり、VUCA時代のチーム作りの基盤になってきます。集合知を引き出すためには、メンバーが自己表現ができる環境を作っていく必要があります。そのような働き方をサポートする職場環境を整えていくには、心理的安全性のある場をいかに作っていくかが大切だと考えます。心理的安全性が高いチームであれば、メンバーが自己開示できるようになりコミュニケーションが円滑になり、自己表現を通じてそれぞれの持ち味や能力を発揮することができるようになり、集合知を生かしたチーム作りができるようになります。

映画の感想

自発性を発揮してひたむきに課題に取り組む生徒たちの姿に涙腺が緩んだり、旧態依然とした考え方に無力感を覚えたり、手探りながらも子供達の可能性を引き出そうとする新しい教育方法の試みに希望を感じたり、心揺さぶられる90分でした。子供たちが心の交流を通じて1年間でみるみる成長していく様子には感動を覚えます。子育てに奮闘するお父さん、お母さんはもちろん、組織で働く人たちにとって考えさせられる映画だと思います。鑑賞された方はぜひご感想をお寄せくださいませ。

(※)チャータースクールは、従来の公立学校では改善が期待できない,低学力をはじめとする様々な子どもの教育問題に取組むため,親や教員,地域団体などが,州や学区の認可(チャーター)を受けて設ける初等中等学校で,公費によって運営される。  州や学区の法令・規則の適用が免除され,一般の公立学校とは異なる方針・方法による教育の提供も可能。ただし,教育的成果をチャーター交付者により定期的に評価され,一定の成果を挙げなければ,チャーターを取り消される。