【コラム】心理的安全性とマインドフルネス

組織活性化やチームの生産性向上のためのアプローチとして「心理的安全性」という言葉を聞くことが増えてきました。2012年にグーグル社内で実施された「生産性の高いチームの特性」を明らかにする「プロジェクト・アリストテレス」でも「心理的安全性」の重要性が確認されました。


安全とは?

広辞苑で「安全」の意味を調べてみると、「安らかで危険のないこと。平穏無事。物事が損傷したり、危害を受けたりするおそれのないこと。」と定義されています。

安全の定義は、歴史的・地政学的・宗教的・文化的な背景によって異なります。第二次世界大戦後、戦争をしていない日本においては安全が絶対的なものとして捉えられることが多いようです。地域紛争が絶えない地域では安全の捉え方は日本と大きく違うでしょう。放射線の脅威に晒された2011年以降、または最近の天災を通じて日本でもその考え方に変化が現れ始めているかもしれません。



「安全は常にあるもの」
「安全は自然に作られるもの」

と考えるのと、

「安全は脅かされるもの」
「安全はそもそも存在したいもの」

と考えるかでは安全の捉え方は大きく異なります。

科学技術における安全の定義は国語辞典の定義とは異なり、時代と共に変化します。現代の技術界では安全は、「許容できないリスクがないこと」と国際基本安全規格で定義されています。

心理的安全性とは?

ビジネスにおける心理的安全性は、上司や部下、メンバー同士がネガティブなプレッシャーを受けることなく、安心してコミュニケーションを取ることができて、自分らしく生き生きと仕事に打ち込める環境です。心理的安全性が高ければ、対立する意見も含めて本音を言い合える建設的な関係を築くことができます。心理的安全性は、お互いを認め合うことから始まり、会社が社員を信頼し、尊重することで、社員の会社に対する信用が高まります。社員が心理的安全性を感じるようになると、モチベーションが高まり働きがいを感じられるようになっていきます。

「ミスの報告をしたら叱られるかもしれない」
「問題点を指摘しても真剣に聞いてもらえない」
「成果を報告したらいいとこ取りされるかもしれない」


お互い信頼できない状態で、コミュニケーションをしていても良い結果が生まれないのは火を見るより明らかです。話したら責任転嫁される、話しても無駄、成果を横取りされる、そのように信頼感がない状態では、自分の仕事に対する責任感は欠如し、労働意欲やモラルも低下し、チームのパフォーマンスは下がってしまいます。

「ここでは何を話しても許される」
「失敗から学ぼうとする」
「相談事に対して真剣に耳を傾けてくれる」
「新しいことにチャレンジすることにリーダーやメンバーが協力的」
「意思決定では全員の意見が尊重される」


そのような環境であれば、メンバーはリスクをとって新しいことにチャレンジしたり、問題点や改善点を積極的に共有するようになって、活発なコミュニケーションが行われ組織が活性化するでしょう。心理的安全性が高いチームでは、メンバー一人一人が自分らしく生き生きと働くことができます。結果的に強みを生かし、弱みを補うことができ、チーム全体の組織力が発揮される状態を作って行くことができます。

なぜ今心理的安全性が注目されているのか?

心理的安全性が注目されている理由の一つは、情報化とグローバル化によってもたらされたVUCA と表現されるビジネス環境の変化が挙げられるでしょう。私たちは、変化が激しいマーケット、著しく早い技術進化、複雑化する顧客ニーズなどのビジネス環境に対応しなくてはなりません。このようなVUCAワールドで、スピーディに問題を解決したり、新しい価値を創出していくためには、今まで以上に組織力を発揮していく必要があります。そのためには、チームの集合知が鍵になります。

一人でできることには限界があります。様々な考えやアイデアを持ち寄り、個人の能力を最大限に発揮して、チームが協力して取り組めばメンバー間のシナジーが生まれ思いも寄らない成果が生まれる可能性が高まります。この集合知をいかに引き出し高めていくかは、ビジネスリーダーの大切な役割であり、VUCA時代のチーム作りの基盤になってきます。


当然ながら集合知は、個々人に内在する智恵や能力が中から外に表現されて、はじめてチームの中で機能します。集合知を引き出すためには、メンバーが自己表現ができる環境を作っていく必要があります。疑心暗鬼で足を掬われないように、心にマスクをして本音を隠し、鎧を着て警戒しながらコミュニケーションをしていては、自己開示をすることができません。心を開いてコミュニケーションを図るためには、「ここでは何を話しても大丈夫」「リスクを取れる」「不必要に責められることはない」という安心感が欠かせません。

心理的安全性が高いチームであれば、メンバーが自己開示できるようになりコミュニケーションが円滑になり、自己表現を通じてそれぞれの持ち味や能力を発揮することができるようになり、集合知を生かしたチーム作りができるようになります。

プロジェクト・アリストテレスとは?

プロジェクト・アリストテレスは、2012年にグーグル社内で実施された「生産性の高いチームの特性」を明らかにした調査です。調査対象は、エンジニアリング115チームとセールス65チームです。180チームを対象に、生産性の高いチームは生産性の低いチームと比べてどんな違いがあるかを分析し明らかにしました。


メンバーの性格テスト、男女比などのダイバーシティ、チームリーダーへのインタビュー、チーム内のルール、メンバーの知識や技術、エモーショナルインテリジェンスなどを調査しました。

プロジェクト・アリストテレスの結論として生産性の高いチームの特性は、以下の通りでした。

① 心理的安全性が高い
② 信頼性が高い
③ 構造が明瞭
④ 仕事に意味を見出している
⑤ 社会に対して影響をもたらすと考えている


この5つの要素で最も大事なことが、心理的安全性です。心理的安全性が高く安心してなんでも言い合えるチームでは、メンバー一人一人が自分らしく働くことができて、能力を発揮して集合知を活用し組織力を発揮したチーム作りができていることが分かりました。

心理的安全性があれば、メンバーを信頼できるようになって、計画が明確になり方向性が一致して、期待される通りの役割を果たすようになります。そのような関係の中で仕事に向き合うことができれば、モチベーションも高まり働きがいや仕事の意味を各々が見い出すようになり、生産性の高いチームができあがり、社会貢献につながるような価値を提供することが可能となります。

心理的安全性に対する誤解とは?

何を話しても大丈夫という心理的安全性は、自分勝手な振る舞いを許容しメンバーを甘やかすようなことではありません。

心理的安全性は、メンバー間のコミュニケーションを円滑にしチームに創造性をもたらす一方で、必要なときには厳しく接する余地を生み出します。信頼関係のある中でのコミュニケーションであれば、その厳しさは自分への期待であったり、チームとして必要とされることであると理解することができるようになり、気持ちを腐らせず前向きに取り組む成長機会として捉えるようになるでしょう。反対意見に対しても感情的にならずお互いを尊重し、真摯に耳を傾けることができるようになり建設的なコミュニケーションができるようになります。


また、心理的安全性に託けてサボったり手を抜いたりするメンバーが現れるのではないかと考える人もいるかもしれませんが、実際には逆です。心理的安全性が高い環境では、メンバーは自分らしく働くことができて仕事に対するモチベーションが高まり自律的に活動できるようになったり、お互いの弱みを補い合う関係を築くことができるようになります。

さらに、プライベートと仕事を分けて仕事をする日本の組織では、弱さを積極的に出すというカルチャーはあまりないかもしれませんが、心理的安全性のある組織では、プライベートと仕事を分けずありのままに弱みを曝け出します。弱みを晒したり弱みと向き合うためには勇気が必要です。その弱みを自らが克服しようとすることで個人の成長を促し、チームとしての成長が図られます。弱さに向き合う痛みと内省による気づきが、人としての成長を促します。弱さを認識しその根本となっている無意識的な固定観念を疑い、取り壊して次のアクションを起こすことで、新しい価値観を持つ人間になれます。それが人間的な成長であり、そういった支援を継続的に積極的に行っていくことができるのが心理的安全性です。

心理的安全性を築くために必要なことは?

心理的安全性を高めていくためには、弱みや失敗経験も含めて自己を開示していき、お互いを認め合うことが大切です。自己を開示してお互いに認め合うことができれば、信頼関係が醸成され新しいアイデアや考えを共有しようとして積極的に自己表現ができるようになっていきます。

メンバーだけでなくリーダー自らが自己開示をしてくことも大切です。リーダーは完璧でなくてはならないという呪縛を解き放つ必要があります。リーダーも人間であり失敗することもあることを知れば、親近感が湧きリーダーを助けるために何ができるかを考えるようになっていきます。そのためには、リーダー自らが鎧を脱ぎありのままの自分をしっかりと見つめ表現できるようになることが大切です。


自己開示や自己表現をするためには、自分のことを知る自己認識がベースとなります。自分にとって何が大切で、自分の弱みや強みは何であり、自分の資質や志向がどのようなものかを自分自身で理解していなければ、十分に自分のことを伝えるのは難しいでしょう。自分の心の中で何が起こり、どんな感情や気持ちを抱いているかに気づいたうえで、相手と会話をすることでより良いコミュニケーションを図ることができます。

トップダウンのヒエラルキー型のビジネス慣行に慣れてしまった日本のビジネスパースンには、自己認識ができていない人が多く見受けられます。心理的安全性は自己開示や自己表現など自分を通じて始まることを踏まえると、自己認識を深める必要があります。そのためには、マインドフルネスの実践やジャーナリングが有効なアプローチとなります。また、自己開示をして認め合うために、共感のワークや人生のターニングポイントを共有する気づきのシェアリングなども有効なアプローチとなります。