【レポート】ESG投資とマインドフルネス 

2019年10月11日(金)に経団連会館で開催された第34回日本証券アナリスト大会の様子をお伝えします。マインドフルネスプロジェクト 代表の伊藤穣は、日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)として、15年以上事業会社の財務部門で投資家や銀行家とのコミュニケーションを中心に仕事をしていた経験があります。株主優先の資本主義を変える可能性があるESG投資を切り口に、マインドフルネスが現在の企業経営に貢献できることを考察していきます。

第34回日本証券アナリスト大会

第34回日本証券アナリスト大会のテーマは、「東京五輪後の日本-サステナブルな成長を目指して」でした。講演内容と講演者は、下記の通りです。


記念講演 1:「ハードルを越える」 
Deportare Partners 代表 為末 大(ためすえ だい)氏
           
記念講演 2:「航空会社の社会的責任」
日本航空 代表取締役会長 植木 義晴(うえき よしはる)氏
           
パネル・ディスカッション
「五輪後の新時代に求められるROESGによる価値創造」 

【司会】エーザイ専務執行役CFO柳 良平氏
【パネリスト】 MSCI INC. マネージング・ディレクター内 誠一郎氏
いちごアセットマネジメント 代表取締役社長スコット キャロン 氏
コニカミノルタ 代表執行役社長 兼 CEO山名 昌衛氏 

「株主第一主義」からの脱却

パネルディスカッションの冒頭に、司会の柳氏が米国のビジネスラウンドテーブルが2019年8月19日付で発表した「企業の目的に関する声明」に触れました。ビジネスラウンドテーブルは、米国の主要企業が名を連ねる財界ロビー団体で、1978年以降、コーポレート・ガバナンス(企業統治)原則を定期的に公表してきました。1997年以降、企業は第一に株主に仕えるために存在するという「株主第一主義」の原則を表明してきました。

今回の声明では、「全ての利害関係者が不可欠の存在である。私たちは会社、コミュニティー、国家の成功のために、その全員に価値をもたらすことを約束する」と明示しており、「株主第一主義」から脱却し、「全ての利害関係者」を重視し、自社の利益の最大化だけでなくパーパス(Purpose) の実現を目指すべきだという姿勢を表明しました。「全ての利害関係者」とは、顧客や従業員、サプライヤー、地域社会、株主を指し、企業のパーパス(Purpose) が対象毎に明示されました。2019年10月25日現在、アマゾンやアップル、JPモルガン、ジョンソン・エンド・ジョンソン、バンク・オブ・アメリカなどを含む183の企業CEOが署名しています。

企業のパーパス(Purpose)

● 顧客への価値提供:我々は消費者の期待に応え、さらにその期待を上回ることで道を切り開いていくというアメリカ企業の伝統を推進していく。

● 従業員への投資:従業員への投資は、従業員を平等に保障し、重要な恩恵を与えることから始まる。急速に変化する世界で生き残るために、新たな技術を習得する手助けとなる訓練や教育を行い、従業員を支援する。ダイバーシティとインクルージョン、尊厳と尊敬を育んでいく。

● サプライヤーを公平に、倫理的に扱う:規模の大小を問わず、他の企業と良いパートナーになるために尽力する。それはミッションを達成することにもつながる。

● 事業を行う地域社会を支援:ビジネス全体を通して持続可能な取り組みを行うことで、地域社会の人を尊重し、環境を保全する。

● 企業が投資し、成長し、改革を行うための資本を提供してくれる株主の長期的価値を創造:株主に対し、透明性の確保と効果的なエンゲージメント(対話)を行う責任を果たす。

ESG投資

ビジネスラウンドテーブルで、このような声明が発表されるというのは、資本主義の転換点に差し掛かっている様子が窺えます。現在、投資家が注目している指標として、ESG投資があります。ESGは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)を表し、長期投資家たちは、効率的な利益を優先したROEを重視する投資スタイルを見直し、徐々に環境、社会、企業統治に注目した投資先を探すようになってきています。「企業の目的に関する声明」は、その動きに呼応した内容となっていると言えるでしょう。


パネルディスカッションの中で、山名氏は、ESGは経営戦略であると繰り返されました。コニカミノルタ社では、月例の取締役会とは別に、月に1回取締役を集め、ESGへの理解を促すコミュニケーションの場を設けていると実例を挙げていました。同社では、CO2排出削減に取り組み、電力の調達を2050年までに100%再生可能エネルギーにすることを目標にしています。

また、山名氏は、ESG投資は、日本に以前からある利他の精神に基づいた経営であるとも主張されていました。自分たちの利益だけを優先するのでは、この先の企業経営は立ち行かないという視座を持って、企業経営をされていることがよく伝わってきました。複数のパネリストから、ESG投資においては、日本は先進国であり、日本らしいESG投資のあり方を模索しても良いのではないかという提案がありました。

ESG投資とマインドフルネス

マインドフルネスプロジェクト が注目したのは、ビジネスラウンドテーブルの声明内容の「従業員への投資」の部分です。従業員に適切な訓練や教育を実施することは、企業の持続可能な成長を支えるための投資です。従業員が自らの強みを生かし、生き生きと働くことができれば生産性は上がり、心理的安全性の下に上司と部下もしくはメンバー間のコミュニケーションが円滑になれば、組織が活性化します。

株主を優先したROE経営では、リソースを最小化しコスト削減をすることで生産性や効率性を高めようとしてきました。ESG投資やSDGsの流れは、企業にとって、人が利益や成長の源泉であることに立ち返る良い機会になるのではないでしょうか。その時、忘れてはならないのは、人はロボットではないという当たり前のことです。人には心があり感情があります。それらを無視して企業経営は成り立ちません。今、企業経営者に求められているのは、従業員の心や気持ちに寄り添った企業経営ではないでしょうか。

そのことを実現するために、心や体で起こっていること、周囲で起こっていることに気づく「マインドフルネス」や、自分の気持ちと相手の気持ちを理解しその情報を使って自らの行動を選択していく「エモーショナルインテリジェンス」は、有効なアプローチと考えられます。