【レポート】マインドフルネスの光と影 〜Zen2.0レポート 前編〜

2019年9月21日、22日に建長寺で開催されたZen2.0の様子をレポートします。

Zen2.0とは

Zen2.0は、2017年から始まった「マインドフルネス」と「禅」を分け隔てなく体験できる国際フォーラムです。日本文化に大きな影響を与え続けている伝統的な「禅」とアメリカで大きく発展し日本に逆輸入された「マインドフルネス」が、社会にもっと知られれば、より良い世の中になるという想いで、三木康司氏と宍戸幹央氏によって立ち上げられた企画です。三木氏と宍戸氏は、鎌倉をベースにマインドフルネスを企業や個人、地域社会に広く伝える活動に力を注がれています。


Zen2.0のユニークなところは、鎌倉は建長寺という由緒正しき歴史のある禅寺で、「マインドフルネス」と「禅」という異質なものと捉えられがちなものを同じ場所に並べ、多種多様な分野から様々な講演者が登壇し、「マインドフルネス」や「禅」について最先端の知の共有がなされることです。ただ知識を得るだけでなく、様々なワークを実践したり、日本の伝統文化に触れたりすることができるのもZen2.0の特徴です。



テーマ 〜つながり〜

今年のテーマは「つながり」でした。自分自身とのつながり、家族や友人とのつながり、参加者同士のつながり、地球、自然とのつながり、マインドフルネスと禅のつながり、などなど、様々な切り口でこの「つながり」が紡がれていきました。


登壇者は、総勢28名、多士済々です。例えば、僧侶、大学教授、マインドフルネスの指導者、脳科学研究者、舞踏家、茶道教授、教育家、企業経営者、翻訳・執筆家など、一線で活躍されている方々がご自身の経験や研究結果をお話されます。また、瞑想や茶道、舞踏、ヨガなどの体験ができます。


複数のプログラムが同時並行で進行するため、全プログラムに参加することは叶わず、参加者は自分の興味のあるものに参加します。歴史のある建長寺という非日常の空間で、「マインドフルネス」や「禅」に興味のある参加者との交流や様々なワークの実践、最前線の知性に触れることで、身体と心に心地よい緊張感がもたらされ、穏やかで刺激的な時間が流れていきます。


「アメリカにおけるマインドフルネス・ブームの光と影」

関西学院大学の池埜教授とスタンフォード大学のスティーブン・マーフィー重松教授の講演は、「アメリカにおけるマインドフルネス・ブームの光と影」というテーマでした。


池埜教授は、2012年のデータを示し、アメリカでマインドフルネスを日常に取り入れている人は総人口の4.1%、930万人もいると報告しました。これは、元々アメリカではマインドフルネスがMBSR(マインドフルネスストレス低減法)等のストレスケアのためにプログラムが開発されたことが背景にあり、補完代替医療として幅広く医療機関に導入されていったことも影響していると考えられます。


また、未成年者も92万7000人が実践していると報告がありました。この背景には近年アメリカの教育現場で広がりを見せている「SEL」の流れがあり、約6,000の小中学校でマインドフルネスが正式科目として実践されています。「SEL」とはSocial and Emotional Learning の頭文字をとったもので、「感情を理解し適切に対処する、前向きな目標を設定し達成する、他人に対して思いやりを示す、他者と良い関係を築き維持する、責任ある意思決定をする一連のプロセスの学習」とされています。(教育団体CASEL(Collaborative to Advance Social and Emotional Learning)の定義)

アメリカでは、80年代からSELを活用することで、生徒の問題行動が減少し、学力も上昇することが明らかになってきており、「自分の感情を客観的に認識する方法」「衝動をコントロールする方法」「ストレスを軽減する方法」として、その有効性が認められていました。

「Mastery」から「Mystery」へ

マーフィー教授は、アメリカ人の学生は、「ダックシンドローム」になっているために、マインドフルネスが必要とされていると説明しました。ダックシンドロームとは「一見、物静かで知的に見える学生たちが、悠々と泳ぐ水面下で足をバタつかせるカモのように、内面ではもがき苦しんでおり、孤独や将来に対して不安を抱えている実態」のことです。勉強に追われながら、SNSやゴシップ、様々な情報に塗れてストレスを感じなら、スクールライフを過ごしている裏返しということでしょう。


また、現在の教育現場では、先生は知識だけを教室に持ち込み、智恵や、心、精神は教室の外に置いてきてしまうことを嘆いていました。これでは先生と生徒の間には「つながり」が生まれず、心の通った本来の教育が施されません。マーフィー教授は、このような状態を「Mastery」と「Mystery」という言葉を使って表現しました。

現在の教育現場は、「Mastery」になっており、知識を獲得することに重きが置かれ、知識で生徒のことを管理しようとしている。本来は、先生にも生徒にも好奇心を持って「Mystery」を解いていく姿勢が望まれ、そこには智恵の共有や人間性を育むことが含まれている。


そのような状況を踏まえて、マーフィー教授は、マインドフルネスの実践が必要とされていることを実感しマインドフルネスを授業に取り入れてるとのことでした。その授業は非常にユニークで、例えば、「喋らない生徒を評価する」そうです。アメリカでは通常発言する人が評価されるよう教育されてきているので、授業中はみんな活発に自分の意見を言おうとします。その際学生の頭の中では、次に自分が何を言うかに注意が向かい、人の話を聞いていません。スティーブ教授は、沈黙よりも大事なことがあれば喋るように指導し、教授の話を黙ってちゃんと聞ける人を評価するそうです。授業の中でマインドフルリスニング が生かされているエピソードです。

「3つの問題」

このように、アメリカではマインドフルネスが社会的に広く受け入れられていく一方で、いくつかの問題が浮き彫りになってきていると池埜教授から報告がありました。

① 「組織構造問題から個人問題への転嫁」

企業向けのマインドフルネスは、人間関係、ストレス、リーダーシップ等いろんな問題を解決できる一方で、組織の構造上の問題を個人に帰結してしまい、本質的な組織の構造問題を隠してしまう恐れがある。


② 「倫理的問題」

価値中立的なマインドフルネスは軍隊でも使われ倫理的な問題を孕んでいる。トラウマの治療や社会復帰のために使われるだけでなく、集中力を高めるなどの軍事スキルを磨くためにも使われている。


③ 「歪なカルチャー形成と多様性に対する閉塞感」

2017年のデータでは、マインドフルネス実践者の83%が白人系で、大学卒業の富裕層、女性が積極的に取り組んでおり、自己実現の道具として使われナルシズム文化を形成してしまい、多様性に対して閉鎖的な考え方になってしまうことがある。


「3つの問題」に対するアプローチ

これらの問題に対する明快な回答は講演の中ではありませんでしたが、マインドフルネスプロジェクト は、マーフィー教授が残したコメント「Think Global, Act Local」「Relational Mindfulness」に解決のヒントがあるように感じます。

「Think Global, Act Local」地球規模で考えて、地域社会で活動する。マインドフルネスプロジェクト では、これを「相手や組織、社会のことを考えたうえで、自分が置かれている状況において、目の前の今できることをしっかりとやる」という風に解釈しました。

「Relational Mindfulness」今回のZen2.0のテーマでもある「つながり」を深めるうえで、必要なのがこの関係性の中で気づくマインドフルネスだと思います。マインドフルネスプロジェクト では、これを「相手の状態に気づき、自分の状態に気づき、両者の関係性を深めていくためのマインドフルネス」という風に解釈しました。


「つながり」をキーに、この「Think Global, Act Local」「Relational Mindfulness」のなかに、「3つの問題」に対する答えのヒントが含まれていると感じます。マインドフルネスプロジェクト は、「セルフコンパッション」や「コンパッション」がそのアプローチとなると考えます。


レポート後編では、「セルフコンパッション」「コンパッション」の切り口から、これらの問題に対してのアプローチを考察してみたいと思います。また、マインドフルネスを伝える側の責任と価値観にも触れてみたいと思います。

〜Zen2.0 レポート 後編へつづく〜