「コラムVol.14」 ティール組織とマインドフルネス〜組織発達の観点から〜

2019年8月24日に開催されたMiLI主催のマインドフルリーダーシップシンポジウム2019の様子をお伝えします。

ティール組織とインテグラル理論


ティール組織とインテグラル理論をベースに組織の発達とリーダーシップについて、嘉村氏と柏原氏から説明がありました。

ティール組織は、「組織を一つの生命体」として捉え、お互いの信頼関係があり、メンバーひとり一人が意思決定して、「組織の目的」を実現すべく、メンバー同士で共鳴しながら行動をとり、時には暗闇に繰り出すことができる組織です。

インテグラル理論は、ティール組織のベースとなっており、世界中にある理論を整理する理論「メタ理論」です。1本1本の木が一つ一つの理論だとしたら、メタ理論では、1本の木を眺めるのではなく、木の束である森を眺め、複雑な世界の全体像を掴もうとする理論です。

ティル組織とインテグラル理論


ティール組織とインテグラル理論の詳細については、各情報サイトにお譲りするとして、このコラムでは、シンポジウムで議論された要点をお伝えいたします。

いわゆる組織論やリーダーシップ論では、戦略や戦術、ロジカルシンキング、ファシリテーション力や人心掌握術など、与えられた権限の範囲内で如何に力を揮うかにフォーカスされがちですが、このシンポウジウムでは組織の構造とその発達段階にフォーカスして組織やリーダーシップ、リーダーの意識状態について考えていきました。

ティール組織の罠

組織には様々な発達段階があります。ティール組織の知識がある人たちが陥りやすい罠として、闇雲に高次の段階を目指してしまうこと、理解が一致している人とそうでない人との間に境界線を引いて対立軸を作ってしまうことが挙げられていました。


私たちは、タスクオリエンテッドで、ついつい上を目指して物事に取り組もうとします。組織改革においても同様に上位段階があるなら、現状よりも少しでも上の段階を目指してしまうのは致し方ないのかもしれません。例えば、オレンジ組織ならば、グリーン組織を、グリーン組織ならティール組織を目指すというように。上位段階を目指すことは必ずしも悪いことではありませんが、そのプロセスにおいて、今までに社内で形成されていたカルチャーや価値観を突如否定すると組織の歪みが発生したりや機能不全に陥るリスクがあります。

柏原氏は、「ティール組織が理想だとしても、必ずしもそこを目指すだけが正解ではない」と説明しました。ではどうすれば良いかというと、現状の組織体制でも「健全な方向を目指す」ことが大切だと解説がありました。組織の現状や段階を認識し、その現状や段階にふさわしいアプローチで組織を「より健全な方向に導いていく」ことで組織の発達を促し、時間をかけて上位段階に移行していく道を模索するということです。

組織の発達段階


多様性を尊重するグリーン組織では、社内でも「○○部長」「○○課長」と肩書きをつけずに家族のような人間関係を形成し、ざっくばらんな付き合いをし組織文化を向上させ従業員のモチベーションを高めていきます。権限委譲されたグリーン組織のリーダーは、秩序や一体感を重視します。嘉村氏は、ここにグリーン組織の落とし穴があると指摘しました。グリーン組織のリーダーは、マイノリティーを大事にする一方、「究極のナルシズムを生み出すリスクを孕んでいる」と説明がありました。多様性を認めるけれど、それを組織の中で生かすことができるかどうか。権限委譲され高所で見るリーダーは、多様性を認めながらも自己と他者の間に無意識的に境界線を引いてしまい、そのことに自分自身が気づいていないことがあります。秩序や統一感を重視しようとしているにも関わらず、その境界線故に自己矛盾が生まれ、その結果、組織のパフォーマンス低下を招いてしまう恐れがあるとのことでした。

ピラミット型で機械のようなオレンジ組織では、変化に適応し、目標達成のための予測と管理を重んじます。ティール組織の知識を学んだオレンジ組織のリーダーも自己矛盾に陥るリスクがあると指摘されました。自分がどのような影響を与えるかというシステム思考が欠けているため、その型を現場にはめ込もうとして、強制的に人を変化させようとしてしまい、ティール組織の本質である自立性や全体性が発揮されなくなってしまうリスクがあるということでした。

発達とは


このような自己矛盾はなぜ起こるのでしょうか。両氏から、オレンジ組織やグリーン組織とティール組織には、一つ大きな違いがあると説明がありました。それは、「他を否定せず、お互いの存在を認める」ということです。グリーン組織までは、ヒエラルキーが存在し、「自分たちの世界観こそ、唯一絶対に正しいもの」という考え方があるため、どうしても自己と他者の違いが現れ、お互いを否定し合う局面を迎えます。

一方、進化的な目的に耳を傾けながら組織として生命体のように活動するティール組織では、「すべての従業員や組織はその段階に応じて求められている役割がある」という考え方があるため、自分と異なる意見や価値観を持つ人が現れても、この目的がその繋ぎ役となって融合がなされていきます。

ティール組織の肝はプロセス


組織の発達には時間がかかると言われます。一つの段階に辿り着くのに悪戦苦闘し悶える経験をして落ち着くまでに五年ぐらいは必要と考えられています。実例として、オランダのティール組織を実践している組織、体であるビュートゾルフ社(Buurtzorg)が取り上げられました。同社には、過去にオレンジ組織に属していた人や、アンバー組織に属していた人も続々と入社してきますが、彼らに短期的にティール組織の価値観を押し付けるのではなく、長期的に構え一緒に過ごしているうちに段々とティールの価値観に馴染んでいき、いずれ組織にフィットすることを期待して新しい人材を迎えています。「人が変わるのには5年ぐらいかかる、同様に組織の発達にもそれぐらいの時間がかかる、という発達に対する視座をしっかりと持つことが大切である。」と、柏原氏から説明がありました。

これに対して、参加者から「結果を求められる事業環境の中では組織変革に5年間も経営は待てない。どのように対応したら良いか。」と質問がありました。これに対して、柏原氏は「必ずしも高次の階層を目指すことが正解ではない。その段階でより健全なレベルを目指すのが大切なことである。」と回答がありました。

また、嘉村氏からは似たような質問として、「今のクオリティを落とさずにいかにティールに移って行くか」と問われることがあり、それに対しては、「最初から全てを変えようとするのではなく、まずは小規模に全体の5%ぐらいを実験的に変えていき、様子を見て全体に広げていく方法がある。改革ではなく改善から進めることが良い。」と解説がありました。組織全体の健全性を損なわずに取り組んでいくことが大切ということになります。

段階を経て発達する


本来、「ティール組織は目指すべきものではない」という説明がありました。組織論で組織をよくしようとするテーマでありながら、このような提案はテーマの否定のように感じられますが、これこそがティール組織の肝になってきます。

「ティール組織の考え方では、三年後にこうあろうという目標設定自体をしない。組織としてどこが傷んでいるかを確認しながら、その都度考えながら改善して行く、そのプロセスそのものが大事である。経営層、人事担当の組織の一部の人間だけで進めることなく、全員が参加することが大事である。」ということです。理想や結論を求めようとせず、そのプロセスから生まれる個人と組織の気づきの中から、試行錯誤して一進一退しながら組織が改善され、時間が経過して振り返ったときにティール組織になっていたと、後からそのことが分かるのがティール組織への道なのでしょう。


ティール組織と人の心

では、具体的にはどこから手をつければ良いのでしょうか。ティール組織は、組織の構造に注目した組織論ではありますが、言うまでもなく、組織は「人」から成り立っています。組織の質や発達レベルを決めるのに、その組織を構成する人の内面、意識、価値観が大きく影響します。とりわけティールの組織作りに取り組むビジネスリーダーの人間的な質や自己認識力は極めて高いものが求められます。柏原氏から「リーダーが性善説に従って組織を作って行くと、段々と目指している組織が実現できる。」と説明がありました。ティール組織では、従来型のヒエラルキーの組織に比べ解決レベルの次元が大きく変わり、ビジネスリーダーはカオスを受け入れる必要があります。

まずは、リーダーの在り方、意識状態が大切だろうと考えられます。嘉村氏から、「複雑なレベルでシステム思考で物事を捉え、思い、志はあるけど、こだわりを持たず、穏やかに現状を受け止め、何か問題があればその都度考える姿勢が求められる」と説明がありました。そのためには、リーダー自らが内省をすることで、自分の考え方の癖や価値観を知ることが大事になってきます。そして、各発達段階の知見を得た上で、自分たちの組織の置かれた状況や段階を深く認識し、自己中心性を減らし、多様性を受け入れられるよう意識を広げていくことが、組織の発達においては大切なことになってきます。マインドフルネスプロジェクト では、マインドフルネスがビジネスリーダーたちの内省を深め、意識を拡大するための有効なアプローチだと考えております。


ダボス会議で、ビジネスリーダーが必要とされるスキルとして心の知能指数と言われる「エモーショナルインテリジェンス(EI)」が注目されていることからも、現代の不確実な事業環境においてビジネスリーダーが人の意識や心をしっかりと捉える能力が求められていることが分かります。そのこととティール組織ないしは組織の健全性を高めていくこととは非常に関係性が深いと言えるでしょう。

ティール組織の要素の1つである「自己管理」はEIの構成要素であり、EIの基盤要素と言われる確かな「自己認識」の基に成り立ちます。マインドフルネスはEIを高めることが脳科学で確認されていることから、マインドフルネスの実践により「自己認識」や「自己管理」のEIを高めることを通じてティール組織への道が開けていく可能性が高まると言えるでしょう。

ティール組織とマインドフルネス

ティール組織では、1人のリーダーが引っ張って行くというより、メンバー全員がビギナーズマインドで学んで行くことが求められます。そのためには、組織内における心理的安全性を構築し、ティール組織の要素である「内面の全体性」=「ホールネス」を高め、「進化するための目的」に基づいて組織が自律的に働く仕組みを担保しなければなりません。そうすることで、不確実性を受け入れ、組織として有機的に生命体のように活動していくことができるようになります。

マインドフルネスの見地から考えると、ティール組織のベースにある価値観は「Interbeing」=「相互存在」の概念に近いかもしれません。「Interbeing」は、お互いがお互いを信頼し繋がり合い、支え合う関係を築いていくことで、困難を乗り越えていくことができるという考え方です。「Interbeing」を実現していくためには「洞察力」を駆使し、「コンパッション(他者に対する思いやり)」の心を通じてコミュニケーションを図ることが大切です。

マインドフルネスプロジェクトでは、「Interbeing」は、このVUCA時代を乗り越えていく上での大切な考え方であると考えております。そして、マインドフルネスの実践によりビジネスリーダーたちの「EI」が高まり、「洞察力」と「コンパッション」が育まれ、組織内に「Interbeing」の考え方が浸透していき、ティール組織への道が拓けていくと考えております。