【レポート】〜マインドフルネスが組織と人をどう変えるか〜

2019年3月15日に、紀尾井町Yahoo!ジャパン本社(以下Yahoo!社)Yahoo! Lodge で開催されたセミナーのレポートです。

「マインドフルネスが組織と人をどう変えるか」

このテーマで参加者は100名ほど。企業向けのマインドフルネスに対する関心の高さが伺えました。ビジネスシーンにおけるマインドフルネスに対する認知度が高まってきているように感じられます。

<トークセッション登壇者>
中村悟さん(ヤフー株式会社マインドフルネス・メッセンジャーズ)
荻野淳也さん(MiLI代表理事)

ダボス会議で注目されるEI

冒頭にMiLIの代表理事、荻野淳也さんから、「今、必要なビジネススキルはEIである」と説明がありました。EIは、Emotional Intelligenceの略で、「心の知能指数」のことです。

EIの提唱者として知られるダニエルゴールマンは著書「Working with Emotional Intelligence」(1998年。邦訳『ビジネスEQ―感情コンピテンスを仕事に生かす』東洋経済新報社)の中で、EIを以下のように定義しています。

自分と他人の感情を認識し、自分をモチベートし、自分の感情を自己の内面においても人間関係においてもコントロールする能力

Working with Emotional Intelligence」


2016年1月のダボス会議では、EIが2020年に必要なスキルのランキングトップ10の中で紹介されています。統計や論理、根拠といった知性はAIのほうが得意になっていくことが予測される中で、人間は、AIにはできない情緒的な知性EIをスキルとして身につけていくことが求められているということです。


Yahoo!社の取り組み

現在Yahoo!社では、社員7000名中、1000名の方が何らかの形でマインドフルネスを経験しているそうです。1000名の内400名が7週間のプログラムに参加し、600名が体験プログラムに参加しています。Yahoo!社では、2016年夏から取り組みを開始し約2年半でこの数字ですから、かなりのハイペースでマインドフルネスが社内に浸透していることになります。この背景には、マインドフルメッセンジャーズなるボランティアベースで社内でマインドフルネスを広める活動をしている方たち7名の貢献が大きいようです。強制でなく、必要性を感じるボランティアでこのような活動をサポートしていくのが、自然な流れで社内に浸透していく秘訣に感じられました。





プレゼンティズムの改善事例

プレゼンティズムの測定


最初に紹介されたデータが「プレゼンティズム」の改善事例です。


「プレゼンティズム」は、会社に出勤しているのだけれど、健康上の問題で労働に支障をきたし最善の業務ができなくなる状態です。「プレゼンティズム」は、目に見えない性質から、欠勤や早退などで職場に出勤せず、業務につけない「アブセンティズム」より、労務管理が難しいと考えられています。


Yahoo!社の取り組みでは、マインドフルネスの実践により「プレゼンティズム」が改善したという報告がありました。マインドフルネスを週3回以上実践している人は、マインドフルネスを実践しない人に比べ「プレゼンティズム」が約4割も改善したようです。健康経営の枠組みにおいて、医療費削減のみを目的とするのではなく労働生産性の改善という視野に立てば、この数値は非常に励みになります。

2つの問い


本セミナーでは、「メタ認知」「EI」についての2つの仮説を主観データを元に分析し、検証していきました。


1. マインドフルネスとメタ認知の関係は?

2. マインドフルネスとEIの関係は?


この2つの問いに対し、様々なデータが示されました。

「マインドフルネスとメタ認知の関係」

実践頻度とメタ認知の程度

こちらのデータでは、マインドフルネスの実践頻度とメタ認知の程度が示されています。


週3回以上実践している人は、メタ認知ができていることが良く分かります。一方、実践していない人の6割がメタ認知ができていない状況です。メタ認知は、「認知を認知する」ことであり、“自己の認知活動(知覚、情動、記憶、思考など)を客観的に捉え、評価した上で制御すること”を意味します。メタ認知能力が高ければ、自分自身を客観的に把握することができ、上手く自分自身をコントロールすることができます。


ビジネスシーンの様々な状況の中でメタ認知が発揮され冷静に行動を取ることができれば、集中力高く業務に取り組めたり、ビジネスパートナーとの円滑なコミュニケーションができたり、卓越したリーダーシップを発揮することが可能になります。メタ認知は、本セミナーの主題でもあるEIの基盤となるものになります。このデータでは、そのメタ認知をマインドフルネスの実践により高めていくことができることが示されています。


実践頻度とネガティブ感情の程度

次に示されたのが、実践頻度とネガティブ感情の程度です。


マインドフルネスを週3回以上実践している人の約4割がネガティブな感情にあまり囚われないのに比べ、週1−2回の実践者はこの割合が約1割強に低下します。マインドフルネスの実践頻度がネガティブ感情に影響を与えていることがよくわかります。マインドフルネスの実践でネガティブな感情をうまく手放せていると言えます。

一方で、それ以外の実践頻度が少ない人達もしくは未経験者のネガティブ感情に囚われない割合が週3回以上の実践者とほとんど変わらない結果となっております。これはどういうことでしょうか。この疑問に答えてくれるのが次のスライドになります。


実践頻度×メタ認知×ネガティブ感情


このグラフは、実践頻度とメタ認知、ネガティブ感情をクロス分析した結果になります。


メタ認知できている人は自分のネガティブ感情の状態に気づいており、ネガティブな感情にとらわれるかどうかを自分自身が把握することができると考えられます。マインドフルネスを週3回以上実践する人たちは、メタ認知が働き、かつネガティブな感情を手放すことができているという風に考えられます。

マインドフルネスを週1回実践する人たちは、メタ認知はできているけれど、ネガティブな感情をうまく手放せないでいるという結果になっています。これは、メタ認知ができているからこそ、自分のネガティブ感情の状態をきちんと観察できている結果と考えられます。

一方でマインドフルネスを実践していな人たちはメタ認知が働かず、自分のネガティブな感情に気づいていない可能性が考えられます。ネガティブ感情があることに気づいておらず、ネガティブ感情がないと思っている状態と考えられます。


1つ目の問い「マインドフルネスとメタ認知の関係」については、以上のデータ分析の結果、「週1回以上の実践で、メタ認知や感情の度合いも高まる」という結論になりました。

日本は現在EIのスコアが世界最下位

出典:シックスセカンズジャパン EQスコア世界最下位の日本


日本は現在EIのスコアが世界最下位のようです。これは、​EIの活用を広めているSix Seconds社のデータです。以下は、​シックスセカンズジャパン社のHPより抜粋です。


Six Secondsが開発したEQテストSEIは、2019年1月までに160の国や地域で、約26万人が受検。Six Secondsは、世界各国の受検者のEQスコア(X軸)と、WHO世界保健機関が発表している「ヘルスケアへのアクセス」「メンタルヘルスアへのアクセス」「幸福度」を合わせたNational Wellbeing Metrics(国別健康指標;Y軸)によってクロス分析を行い、EQスコアと健康水準に相関があることを発見しました。同時に、日本のEQスコアは世界最下位、健康水準はメンタルヘルスへのアクセスの低さ、幸福度117か国中54位という背景から、中央値を下回りました。経済的に発展し、街のインフラが整備されてきたこの国において、心のインフラが整っていないこと、心を整える知識や知能を多くの日本人が活用していないことが明らかとなりました。

(シックスセカンズジャパンのHPより抜粋)


「マインドフルネスとEIの関係」

EIと成功要因の相関性



EIの高さと成功要因の高さの相関性が示されました。Yahoo!社の取り組みでは、EIが高いほどリーダーが成功しているが示されています。


出典:シックスセカンズジャパン Six SecondsのEIモデル


Six Seconds社のEIモデルではEIの構成要素として8つの項目があります。


「感情リテラシー」「自己パターンの認識」「結果を見据えた思考」「感情のナビゲート」「内発的なモチベーション」「柔軟性の発揮」「共感力の活用」「ノーブルゴールの追求」




Yahoo!社の取り組みでは、マインドフルネス週3回以上の実践者のEI値が日本平均を大きく上回る結果となりました。画像の青い点線が日本平均、赤い点線が週1回以下の実践者、赤い実線が週3回以上の実践者のデータとなっております。週3回以上の実践者は、8つの項目全てにおいて日本平均を上回っています。


2つ目の問い「マインドフルネスとEIの関係」については、以上のデータ分析の結果、「週3以上の実践で全体的にEIのスコアが高まる。特に自己パターンの認識に差が出る。」という結論になりました。


現場の声


最後のトークセッションでは、マインドフルネスを実践している現場のビジネスリーダーのコメントが印象的でした。


「部下ができないことは言わない」


部下ができないことは指摘せず、本人の気づきを待つ姿勢で部下とコミュニケーションをしているとのことでした。上司は部下に対して、「◯◯ができないから駄目なんだ」と考えがちですが、そのことを伝えたところで、必ずしも部下の行動には結び付かないということです。大切なのは、できないことを指摘するのではなく、本人が自ら気づき行動することを待つということです。指摘されない部下は、もどかしさを感じながら自ら発展的にもがき、成長していくとのことでした。


「自分の感情を押し付けない」


自分が焦っている時に、その焦っている感情を伝えたところで成果には結びつかないとのことでした。


「すごく落ち着いて物事を考えられるようになった」


難しい選択を迫られた時に、一呼吸を置いて考えると別の考えが浮かぶようになってきたとのことでした。一晩考えると、全く逆の考えが思い浮かび、最適な選択肢を見つけられることがあるということでした。

まとめ



1. マインドフルネスとメタ認知の関係は?

→ 週1回以上の実践で、メタ認知や感情の度合いも高まる」


2. マインドフルネスとEIの関係は?

→ 週3以上の実践で全体的にEIのスコアが高まる。特に自己パターンの認識に差が出る。」


今回のセミナーでは、マインドフルネスの実践により、プレゼンティズムが改善し、感情のコントロールが上手くなり、EIが向上することが、データで示されました。Yahoo!社の活動を通じて見えてくるマインドフルネスの可能性には勇気付けられます。今後、人材育成やリーダシップ開発にマインドフルネスを導入する日本企業が増えいていくことでしょう。